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3・安心とは
しおりを挟む俺の様子を見兼ねたのか、それとも別の理由か、男がちらと向かい側のソファに視線を投げたのが分かった。
「リルセス」
そう呟くと、一番大きい子供……――多分、男の子が頷いて。
「ほら、みんな、どうやら母様は調子が優れないみたいだ。ご無理をさせてもいけないから今日はもう休もう」
周囲の子供たちに呼びかけながら、席を立つよう促し始めた。
「え、あの、」
「レシア様」
急に慌ただしくなった周囲の雰囲気に、やはりついていけないまま戸惑う俺にイケメンからまた声が掛けられて、そちらを振り仰ぐと立ち上がったイケメンは、俺の膝の上から幼子を抱き上げようとするところだった。
「あー! やぁ、かあたまー!」
「スピ」
ぐずって俺に手を伸ばす幼子に向けてだろう、咎めるような声を上げたのは向かいの席からテーブルを回って近くまで来ていた一番大きい子供で、イケメンから幼子を受け取っている。
「今、母様にご無理をさせてはいけないのは、お前たちもわかっているだろう? ほら、我が儘を言わないで」
などと言いながら誘導する子供を手助けするがごとく、イケメンは続けて俺の両脇の子供達――イケメンと逆側にいた少し大きい方は女の子のようだった。もう一人は男の子。を、促して立ち上がらせ、躊躇いがちに俺を何度も振り返るその子たち共々、6人いた子供たち全員を部屋から立ち去らせたのだった。
俺はただあっけにとられてそれらを眺めていることしかできなかった。
あの子たちはいったい何だったのだろうか。
母様? それはやはり俺のことなのだろうか。
リルセス、やらスピやらはもしやあの子たちの名前か。カタカナの、外国人のような名前だ。
だが、言葉の意味で分からない所なんてなかった。
そして俺自身も何度もレシアと呼ばれている。
ただ一人残ったこのイケメンも、あの子供達も、確かに皆、外国人らしく整った顔立ちをしていた。と、言うか、全員このイケメンに似ていた。髪の色と目の色は、イケメンと同じ濃い灰色だったりそれより薄かったり、茶色かったり濃い金髪だったり、青かったり緑だったりそれぞれ違っていたが、似ていることだけは確かだった。それはもう、血縁を疑うことなどないぐらいに。
とは言え、そっくり同じだとか言うわけではなく、イケメンとは少し違う印象の部分はもう一人の親の方に似ているのかもしれない。
もう一人の親。それはもしや俺だったりするのだろうか。
母様と呼んでいたし。
いや、だがしかし俺は男だ。
母親になんてなり得ない。
いったい何が、どうなって。それになにより。
ちらと、見下ろした。実は先程から気付いていた、自分の膨らんで大きく突き出た腹を。
まるで臨月の妊婦か何かのよう。
いやいや、それこそあり得ないだろう。
ただの脂肪……肥満だろうか。
俺はそんな体格の人間だったのだろうか。
わからなかった。
結局何も。
「レシア様」
イケメンがまた、俯く俺をのぞき込んでくる。
今度は俺の前に片膝をついて跪いて。
本当に見惚れるほどのイケメンだった。
まじまじと見ても何処までもかっこいい。
先程、名前を聞かれた。
このイケメンの名前だ。
だが、どれだけ自分の頭の中を探し直しても彼の名前など全く出ては来ず。
イケメンが笑った。
にっこりと、眩しく、慈しみに満ちた眼差しで俺を見て。
「ご安心ください。すべて私にお任せ下されば問題ございません。私はレシア様の……――あなたの。伴侶なのですから」
伴侶……?
このイケメンが、俺の?
いったい何を言っているのか、安心できる要素など、何処にもなかった。
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