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22・ずるい男

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 順番に一人ずつ名乗ってくれたところによると、子供たちは上からリルセス、ムーア、ギルセ、ソギュア、ミハリム、スピと言うらしかった。
 ちなみにすべて略称である。その内、ムーアとソギュアが女の子で、他の4人は男の子。
 年齢は見た目から予想したとおり、だいたい2歳ずつ……――正確には全員きっちり1歳10か月ずつ離れているのだそうだ。
 一番下のスピが1歳9か月、リルセスはもうじき12歳になるのだとか。
 なお、ティアリィさんが連れてきていたテュリーは2歳で、ちょうどミハリムとスピの間の年齢だとの説明も受けた。
 下の二人は年齢もあってか、名乗り終わった途端、もう堪えきれないとばかり俺にすり寄ってきて、俺はそんな子供たちを無下には出来ず、ぎこちない手つきで可能な限り構い倒した。
 特に一番下のスピなど、抱き着いてきて離れず、ずっと抱き上げて移動せねばならなかったほど。
 気を使ったグローディが、変わろうかと申し出てくれたけれど、首を横に振るスピがかわいそうで結局、俺は昼食もスピを膝に乗せて摂ることになってしまった。
 正直な話、子供の世話など慣れておらず、記憶がないせいか、彼らの母である元の俺と今の俺ではどうしても違うところが出てきてしまっているらしく、時折、不思議そうに子供たちが俺を見た。
 どうして? と、眼差しで問いかけられ、しかし今の俺は、それにしっかりと応えられず心苦しい。
 なんだか俺が子供達から、母親を奪ってしまったような気になってしまう。
 だって記憶がないのだ。それゆえか、子供たち皆を俺自身が産んだのだとかいう実感が湧かない。
 それでも子供達からしたら、俺は彼らの母親に他ならず。その差異を埋めるには、俺が元のレシアの記憶を思い出すしかないとしか考えられなかった。
 とは言え、どうすれば思い出すことが出来るのか。
 ティアリィさんは直に馴染むと言っていたけれど。
 一番上の、すでに成人して王宮に勤めているらしいシェスは事情が事情であることもあり、しばらくは仕事を休んで、俺の補助をしてくれることになった。
 慣れない中、身重のみで6人もの子育ては大変だろうとのこと。グローディも可能な限りは手伝ってくれるようなのだが、聞く所によると、彼にも仕事があるのだそうだ。

「何とかしますので、レシア様はあまりお気になさらないでいて下さってよろしいですよ?」

 などと言われても、逆に気が引けてしまう。
 だが、グローディが可能な限り俺から離れようとしないのは元かららしく、シェスは溜め息を吐いてグローディを宥めてくれた。

「父上。今の・・母上では、それは逆に気を使われてしまうようですよ。あまりご無理を通しますと、むしろ母上のご負担になってしまわれるのでは?」

 実は、グローディもそうなのだが、俺に対する言葉遣いが丁寧すぎるのが気になったが、これは元からこうだったらしく、慣れるしかないと言い切られる。
 それ以外には、シェスの手助けは正しく助かるものばかりで。通信機の使い方なども、シェスから習った。
 グローディは、ティアリィさんが言っていたように、正直、そういった面では当てにならず、流石、母親なだけのことはあると感心する。
 勿論、グローディも俺をよく気遣ってはくれたのだが、なんと言えばいいのか。彼はどうやら俺に、何もさせるつもりがないようで、まともには何も教えてもらえなかったのだ。
 だからこそシェスが苦労して仕事に追いやってくれた部分もあったのだろう。
 伴侶だというあの男はいったい何なのか。
 俺に対して、下にも置かない扱いをしておきながら、だからこそなのか、何でもかんでも代わりに済ませてしまおうとしてくるのである。

「レシア様。私が代わりに致しましょう」

 そんな風に、にこりと微笑んで。
 俺が本当に困っている時の手助けなどならともかく、一事が万事その調子だと、鬱陶しいとしか思えなかった。
 確かに俺は記憶がない。とは言え、何もできない幼子ではないのだ。あまりに過保護にされると逆に困ってしまう。
 何も覚えていないことを追い目にも感じていたのに、そんなものも全部すっ飛んでいった。

「父上のアレはいつも通りですので、ある程度は諦められるしかないですよ」

 とは、シェスの言葉だ。
 加えて夜には必ず必要だと嘯きながら求められ、俺は俺で、毎晩毎晩快楽に流された。
 だって気持ちよくて拒めなくて。

「レシア様」

 慈しむように、あるいは飢えた獣のように。俺の名を呼び、手を伸ばす様までかっこいいとか、それはずるいというものだろう。
 そんな風にしてなんとかかんとか数日が過ぎていった。
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