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24・記憶の断片
しおりを挟む起きてすぐの朝からの行為は、俺の体力も気力も全てを根こそぎ奪ってしまう。
俺は毎朝ぐったりとしたままグローディが勝手に俺の身支度までもを整えていくのに任せ、ほとんど抱きかかえられるようにして食堂に移動した。
子供達と、朝一番に顔を合わせるのは移動した先での朝食の時なのだ。
正しく貴族であるらしく、子供たちの具体的な世話は侍女や侍従が請け負っていて、実際に俺が、子供達を起こしたり、着替えを手伝ったりだとかはしないものらしい。
その代わりでもないだろうに、俺自身がグローディにお世話されているのだが、これはきっと意味が違う。
グローディはこれら含めて全ていつも通りだというのだけれど、俺は本当に今まで、こんな風に過ごしてきたというのだろうか。恐ろしい話だとしか思えなかった。
グローディの言うことはいい加減、逐一当てに出来ないことを、俺はすでに学び始めていたので、恥を忍んで遠回しになんとかかんとかシェスに聞いたら、彼は遠い目をしながら首肯した。
「ああ……そうですね、それはだいたい、毎朝だったと思います。母上が朝食の折に、しっかりと目覚めてらしたことなどありませんから……むしろ今はおぼつかないながらも一人でお食事を摂っていらして、感心している所です」
……給仕までさせていたらしい。ぐったりと半分寝ながら、グローディの膝の上で彼が差し出すがまま、口を開けるだとかいうのが、お決まりの朝食の風景だったのだとか。
時には口移しであることさえあったとまで言われ、思わずきつく、眉間にしわを寄せてしまった。
以前の俺はいったいどれだけだったというのか。今の状況でさえ、しっかりしているほどだとは。
「まぁ、でも、父上は夜と朝、寝室でしかそういったことはなさらないようですから、まだ良い方なのでは? 私達も、流石に両親のそんな場面など見たくはありませんし。おじい様など、場所も時間も構わずだったと聞き及んでおりますよ」
「え?」
ついでとばかりに続けられた言葉には目を剥いて驚いた。
おじいさま、ということはつまり、相手はあのティアリィさんだとでもいうのだろうか。
「なんでも、おばあ様は一時期、おじい様から逃げ回っておられた期間がおありになるらしく、その時期は特にひどく、捕まったらその場でそのままだとかいうことも珍しくなかったそうです。中庭や資料室など、急に張り巡らされる結界に察するに余りあったと、父上が以前おっしゃっておられました。流石にあそこまでじゃないと豪語されたところで、大差ないとしか私には思えませんでしたけどね」
やめて欲しい。ティアリィさんのことが今後まともに見られなくなってしまいそうだ。そんな話を聞くと、なるほど、ティアリィさんが言っていた、父親によく似ているという言葉には納得せざるを得ないし、そこまでではないことに安堵するべきなのかとまで思ってしまった。
が、改めて考えるとそんなはずはない。
そんな両親のもとで育って、よくぞこう成長したものだと感心と共にシェスを見つめた。
親を補うように子供がしっかりするというあれだろうか。
シェスは見た目こそまるでクローンのようにグローディにそっくりなのだが、グローディよりも落ち着いていて、穏やかな気性であるようだった。
逞しい体躯に反して、武に関してはからっきしで、王宮で勤めているという部署も、資料室なのだそうだ。本や、そういう何がしかの資料を見たりするのが好きなのだと、うっすらと頬を染めながら恥ずかしそうに教えてくれた。
可愛らしい限りである。
似ているのは見た目ばかりで、グローディとは大違いだ。子供の時も、きっとさぞおとなしかったことだろう。
そんな想像をして、思い出したのは、今朝見た夢のことだった。
俺に、頬を赤らめて必死に話しかけてきていた少年。あれはおそらく。
「子供の時の、グローディ……」
「母上?」
聞きとがめられ見上げると、きょとんとシェスが首を傾げて、こちらを窺っている。
朝食の後、何とかグローディを仕事に追いやってのくつろぎの時間だ。思い思いに遊ぶ子供たちを、時折構いながらシェスと見ていた。
子供達にはすでに家庭教師がついていて、ある程度の時間は勉強に宛てているらしく、もう少ししたら下の二人を残した四人はそちらに移動してしまう。
それまでの僅かな時間が触れ合いの時間で、残された俺は、年齢ゆえまだ勉強の時間があまり取られていない二人をシェスと見ながら、日がな一日をまったりと過ごすばかりだった。
どうやらこれも、記憶を失う前からの日常らしい。
そんなときに思い出すまま、ぼんやりと言葉をこぼしていた俺は、近くにいたシェスに聞きとがめられて、一瞬躊躇ってから、正直に夢を見たのだと話をした。
見知らぬ庭園で、グローディらしき少年と出会う夢だ。
「それは夢ではなく、過去に実際あったことでは? 夢という形できっと、思い出されたのでしょう」
シェスの言葉になるほどと頷く。そう言えば俺の視界は随分と小さかった。口から出た声も高く、愛らしく。……――言葉が居丈高だったのが気になると言えば気になるのだが。
以前の俺は、いったい本当にどういう人物だったのか。考えても仕方がない話だ。
それ以降、俺は徐々にいろいろなことを思い出していくことになる。
しかし、思い出した記憶は、今の俺の感覚からすると、ろくでもないものばかりなのだった。
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