33 / 49
31・レシアについて②
しおりを挟むグローディは初めから、何をおいてもレシアを優先した。
「レシア様はお心のままに過ごされればよいのですよ」
そう告げて、本当に何もレシアに強制しなかった。
勿論、教え、導くことや、注意などはする。しかしそれらは全て一方的なものではなく、必ずレシア自身に判断の余地を残すものだった。
例えば、教育係に、
「レシア様、いけません。そう言った場合はこうなさらないと」
などと指示された時に、それまでのレシアなら言われた通りに従っていたが、グローディは違う。同じことを言う時でも、
「レシア様。こういった場合は、こうなさった方がよろしいとされております。レシア様はどうなさりたいですか?」
などという風に、レシアに考えさせ、判断させようとしたのである。
その上、レシアがどんな判断を下し、どんなことをしたがっても、グローディは肯定し続けた。
それがいかに世間一般において非常識とされることであってもだ。
先も言ったように、注意や誘導はあったので、あまりにも良くない判断の場合は、それとなく変更を促したりもしていたようなのだが、そもそもレシアは誰に言われたことであっても、素直に全てをそのまま受け入れるような性質である。
彼が疑問を感じ、何かを訊ねるのは、以前に言われたこととの差異があった時のみ。
状況によって変化しうる対応があることを理解しないので、単一的に同じでないと、行動できなくなるようだった。
レシアはいつしか、自身の疑問を、人に訊ねることを躊躇しなくなっていった。
それまでは周囲に止められて、いけないことだと信じ、自身の考えを口に出来なくなっていたのだが、グローディが根気強く肯定し続けたことで、人に訊ねることに忌避感を抱かなくなれたのである。
弊害はそれに見境がなさ過ぎたこと。
自分の立場も、相手の状況も、時も場合も選べなかったこと。
レシアはそんな柔軟性など持ちえなかったようで、周囲の顰蹙を買うこともしばしばで。
グローディに、呟いている記憶がある。
「どうして皆、俺が何かを言う度に怒るのだろうか」
レシアの声音は、純粋な疑問に満ちて、悲しんでいるだとかいう風ではなかった。
返すグローディの言葉にも、同情やレシアを気の毒に思っているような色はなく。
「そう言った方もいらっしゃるものなのですよ。レシア様は何も気になさる必要はございません」
「そうか。お前が言うのなら、何も問題はないな!」
だからこそレシアはただ首肯し、本当に何も気にせず振舞って。
12以降の記憶の中で、レシアの側にいたのはグローディだけだ。学園に通っている間も、どう考えてもレシアは孤立していた。
レシアは鏡で見ているとつくづく自分でも見惚れてしまうほどに見目麗しく、立場も公国の第一公子である。
近づいてくる有象無象は枚挙に暇なく、だが誰もレシアの側には居続けられない。
護衛らしく、レシアから片時も離れないグローディの存在もあったし、レシアとの、あまりの意思疎通の取れなさに、堪えきれなくなった者もいたのではないかと思う。
勿論、例外は存在したけれど、いずれにせよ孤立していたのは確かで。
「俺は故国で……疎まれていたんですね」
とある夜。
思わずぽつりと、そう吐露してしまったのは、やはりレシアと俺が、違い過ぎるからだったろう。
レシアの記憶は本当に自身の感情を交えないものばかりで、まるで映画か何かを見ているかのよう。だからこそ俺はレシアに同情せずにはいられなかった。
レシアにはグローディだけだったのだ。
グローディしか、いなかった。
「レシア様」
グローディが俺に触れる。
俺を見る眼差しに宿るのは愛しさ。
でも、俺はどうしても思ってしまう。
グローディが本当に愛しく思っているのは、誰なのだろうと、そう。
33
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました
水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。
その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。
整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。
オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。
だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。
死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。
それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。
「見つけた。俺の対になる存在を」
正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……?
孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。
星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる