【完結】気づいたら6人の子持ちで旦那がいました。え、今7人目がお腹にいる?なにそれ聞いてません!

愛早さくら

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41・赤ん坊

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 ほぁほぁと、か細い泣き声が聞こえている。ずっと、泣き止まない。
 俺を求めている声だ。
 その鳴き声に導かれるようにして、俺はうっすらと目を開けた。
 眩しい。
 そうするうちに、泣き声以外の声が聞こえてくる。

「はぁ……やっぱり駄目ですね」
「はは。相変わらずお前の魔力を直接は受け取らないんだな」
「そのようです」

 溜め息を吐いたのはグローディで、それに応えているのは……ティアリィさん?
 泣き声が聞こえてくるのとほとんど同じ場所に二人はいるようだった。

「ほら、これならどうだ?」

 そんな風にティアリィさんが言うのと同時に、泣き声が徐々に聞こえなくなってくる。

「ふむ。俺のなら大丈夫みたいだな」
「母様」
「仕方がないだろう? いつまでもお腹をすかせたままじゃかわいそうじゃないか。俺からの祝福・・だよ」
「っ……! ああ、もう! 今だけ・・・ですからね! 全く、こんなこと知られたら父様もなんていうか……」
「あいつのことなんていいんだよ。そんなの、レシア君次第だろ……ん? 気が付いたのか」

 軽い調子で言葉を交わし合う二人を、いつの間にか見つめていた俺に最初に気付いたのはティアリィさんだった。
 次いではっとなって、慌てたようにグローディもこちらへと視線を向ける。
 グローディの手の中の何かが、また、ほにゃほにゃと泣き始めた。

「足りないみたいだけど、続きは彼からだね」

 そう言ったティアリィさんに頷き、グローディが手の中のそれを、俺へと差し出してくる。
 今まで気付かなかったけれど、実は近くにいてくれていたらしいシェスが、俺の背に手を入れてそっと抱え起こしてくれた。

「母上」

 クッションを調節して、俺がそれにもたれられるようにしてくれる。
 そう言えばここは、意識を失う前までいたガゼボではなく、見慣れた俺の寝室のようで。誰かが運んできてくれたのだろう。脂汗が出ていたと思う体もさっぱりしているし、身に着けている服も簡素な寝間着になっている。
 そっと目を落とした俺の腹は、もう膨らんではいなかった。

「ありがと」

 シェスにお礼を言って、手を伸ばしグローディからそれを受け取った。

「レシア様、抱き方はこうですよ」

 指導されるがままに大切に抱え込む。
 ずし、と、手に重さが伝わってくる。でも、そこまでの重さではなくて、むしろ軽くて小さい。
 ほにゃほにゃと再度、泣き始めたあたたかで確かなそれは、ちゃんと人間の赤ちゃんの形をしていた。
 不思議だ。
 それが、ほんの少し前まで俺の腹の中にあった熱だとはっきりとわかる。
 出てくるところなんてない俺の中から、いったいどうやって出てきたのか。あの時は痛みと熱さでわけがわからなくなっていて、結局何がどうなっていたのか、さっぱり思い出せない。
 だけど、この手の中にある赤ん坊が、自分の産み落とした存在だということだけは実感できた。
 レシア・・・ではない、俺が産み落としたのだ。

「……かわいい」

 しわくちゃな顔でほみゃほみゃと泣き続ける。
 愛しさが胸にあふれて、自然と唇が弧を描いていた。

「レシア様」

 名を呼ばれ顔を上げると、そこではグローディが微笑んでいる。

「お腹を空かせているようですから、ご飯を与えて上げないと」

 そう、促されても、俺にはどうすればいいのかわからない。

「? どうやって?」

 男の俺では母乳なんて出せないだろうし。

「レシア君。指を、その子の口元に持っていってごらん」

 ティアリィさんに言われた通りに、そっと人差し指を赤ん坊の唇に寄せると、泣くばかりだったその子は、待っていたとばかりちゅっと俺の指へと吸い付いてきた。
 ちゅうちゅうと無心に俺の指を吸っている。と、指先から何かが抜けていくような気がした。

「え? え、ぁ、ぁ……」

 じゅっと勢いよく吸われ続けて、くらり、眩暈がし始めてきた。
 さっき目が覚めたばかりなのに。それになんだか頭痛がする。

「グローディ」

 ティアリィさんに名を呼ばれたグローディが頷いて、そっと俺に指を伸ばした。
 頬を撫でられ、そのまま滑らせた手指で項から首筋の辺りを掴まれる。
 顔を上げるように促され。

「ぁっ、ん、ん、」

 パクリと唇を塞がれた。
 ふと、息と共にあたたかな何かを吹き込まれ、覚え始めていた頭痛がすぐに遠ざかっていく。
 舌を入れられ、くちゅと口内を探られ、濃厚なくちづけを受け続けた。
 気持ちいい。
 頭がふわふわし始める。
 グローディに唇から注がれるあたたかさ。
 それがゆっくりと俺の体内を巡って、やがて俺の指先から、手の中の赤ん坊へと伝わっていく。
 そんな流れを、俺は確かに感じていた。
 どれぐらいの時間そうして、唇を触れ合わせ続けていただろうか。

「ん、ふぁ……」

 ちゅっとくちづけを解かれた時、俺は蕩けた顔をしてグローディを見上げてしまっていた。
 体が熱を持ち始めている。気持ちよさが、もっと欲しい。

「物欲しそうな顔を、なさっていますね」

 くすと笑ったグローディが、低く甘い声でそんなことを言った。
 腕の中の赤ん坊はいつの間にか俺の指から口を離し、すうすうとおとなしく寝入っている。

「レシア君」

 促され、ぼやけた頭で言われるがまま、差し出されたティアリィさんの手に赤ん坊を預けた。
 ティアリィさんが、子供の様子を注意深くうかがってから頷く。

「うん。しばらくは大丈夫そうだね。じゃあ、しっかり補充してあげて。……――行くよ、シェス」

 グローディにそう言いおいて、同じ室内にいたシェスを誘い、ティアリィさんは赤ん坊を抱いたまま部屋を出ていった。
 パタン、扉の閉まる音がする。
 さっきまで俺の腕の中にいた赤ん坊はいない。だけど俺の頭は惚けたまま。

「グローディ……」

 誘うように名を呼んだ俺に、グローディは蕩けるような顔で微笑みかけた。

「レシア様」

 愛しさをこめて名を呼ばれ。俺を包み込んだ体温はあたたかく。そしてひどく、気持ちよかった。
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