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第一章・リーファ視点

1-6・求めるのはただ一人

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 僕はわけがわからなかった。
 だってどれだけ記憶を辿っても、誰かに魔力を注がれるようなこと・・・・・・・・・・・・をされた覚えなんてない。
 魔力を注ぐにはほとんど必ず接触しなければならない。ましてや子供になるほどの魔力ともなると、それこそ性行為でもして、直接体内に魔力を注ぐ以外に方法なんてあり得なかった。
 にもかかわらず、僕に覚えなんて全くないのである。
 だけど、僕のお腹の中では今、凝った魔力が子供に成りかけていて。
 とくん、とくん、僕以外の鼓動がする。魔力が脈打っているのだ。
 とくん、とくん、生命になる為に。
 本当はこれぐらいの状態だと、散らす・・・ことが出来ることを僕は知っていた。でも。
 とくん、とくん。あたたかな脈打つ魔力。
 これは子供だ、僕の子供。
 ちゃんと、子供に成ろうとしている。それを、どうして失くしてしまうことが出来るというんだろう。
 わけがわからない。
 どうしてこんなことになっているのか。
 僕の体の中にある魔力は、僕のものしかないというのに。どうして、この魔力は子供に成ったの。
 いくら子供を望んで魔力を練ったって、自分以外の魔力なしに、子供など宿せるはずがないというのに。
 よしんば、よほどのこと・・・・・・があって、自分一人だけの魔力で子供を成したとして、それはだけど自分のクローンのようなものになる。自我を宿せるかどうかさえ怪しく、何より、もしこの子が自分のクローンのようなものだったとしたら、少なくとも僕自身にはわかるはずだった。
 だけどわからない。
 だって、僕にはこの子は、普通の子供のように思えて、でもそれはあり得なくて。
 僕の頭の中には、ついさっき見た義兄上あにうえが他の人と一緒だったことなんてすっかりなくなってしまっていた。
 助けて欲しいと思う。
 そんなときに、僕が頼れる相手なんてたった一人だ。
 今の義兄上の状況など一切考慮できず、お腹を抱えてうずくまったまま、僕は震える声を紡ぎ出すためようやくゆるゆると唇を開く。

「義兄上ぇ……」

 助けを求める為に。呟いた声は、濡れていた。
 どうして。
 わからない。
 でもこれは子供だ。子供は育てなければならない。
 子供を育てるには魔力が要る。
 自分以外の誰か、一番いいのは、子供の父親に当たる存在の魔力だ。
 だけど、僕に全く心当たりがない以上、お腹の中のこの子供の父親となるのが誰なのか、僕には全くわからない。
 だけど、僕以外の誰かの魔力が必要だった。
 誰でもいい。否、誰でもよくない。
 誰か・・に魔力を注いでもらう。
 そんな想像をした時に、僕の頭に浮かんだのはやっぱり一人だけで。

「っ……! 義兄、上ぇっ」

 ひくりとしゃくり上げながら、僕の口からこぼれたのはさっきと同じ呼びかけ。
 ほろほろと零れ始めた涙が止められないでいる僕に、

「リーファっ!」

 こうやって救いの手を差し伸べてくれるのは。

「義兄上っ!」

 やっぱり義兄上しかいなかった。
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