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第一章・リーファ視点
1-27・戻ってきた兄様と③
しおりを挟む「ああ、注がない、注がないから! 安心していい。ね? お前が望んでいないんだったら、僕はそんなことしやしないよ。よっぽど切羽詰まった状況だとかいうわけでもなしに。そういうのは勝手にすることじゃないだろう?」
僕はどうしてか、まだ少しだけ疑わしい気持ちで兄様を見たけど、本当は兄様がこんなことで嘘を言ったり、僕を騙したりなんてしないことは知っていた。
ゆるゆると、警戒を解き始めた僕に、兄様はほっと安堵の息を吐く。
「リーファがいいなら、僕はもう何も言わないよ。君がペーリュのこと、大好きなんだってことはよくわかったから」
また兄様は当たり前の話をする。
僕が義兄上のこと、大好きだなんて、今更なことなのに。
兄様は改めて僕の頭をそっと撫でた。
まるで小さい子供を相手にしているかのような優しいお顔で僕を見る。いつも通りの兄様だ。
「君がいいならいいんだ。仕方がないからね。リーファの気持ちがいちばん重要だよ。精々ペーリュには責任を取らせよう」
そして何事か、よくわからないけど、自分一人で納得して、幾度も頷いている。
義兄上の責任って何だろう?
僕は小さく首を傾げた。
「でもリーファ、何かあったら真っ先に僕に相談しに来るんだよ? 僕はきっとお前を助けて見せるから」
少し不思議そうだったり、怪訝そうだったりする僕に構わず、改めてという風に兄様は僕に念を押してきて、なんだかいつも通りだなぁと僕は思う。
兄様はとっても心配性で、いつも同じことばかり言うんだ。
曰く、
「何かあったら僕に言って! 絶対に助けてあげるから」
って。今もそれとほとんど同じ。
僕は今まで助けて欲しいと思うような状況になったことがないのだけれど、兄様がなぜいつもそんなことを言うのか、僕はやっぱりわからない。でも。
それが、兄様が僕を、大事に思ってくれてるからなんだってことは、わかってるから、僕はいつも頷くんだ。今も。
「わかりました」
素直に頷いた僕を、兄様はまだまだ心配そうに見ていたけれど、やがて溜め息を吐いて、
「必ずだからね?」
なんて、また重ねて念を押してきた。
ちょっとしつこいなぁって、僕は思った。
こんな風に国の中で、僕に子供が出来たことだとか、義兄上が僕に魔力を注ぐことになったことだとかについて、何かを言ってくるような人は誰もいなくなったんだ。
兄様は義兄上が皇帝になる前に皇帝だった人で、とっても長い間、皇帝だった。つまり、義兄上に代替わりしても、まだまだこの国で兄様に逆らえるような人はいなくて、その兄様が構わないって言ったことに対して、誰も文句なんて言わないからね。
でもそれは、国の中だけの話。
そんなことを僕が知るのは、そこから数ヶ月経ってからのことだった。
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