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第一章・リーファ視点
1-36・夜会の準備①
しおりを挟む僕はそもそも普段から、夜会の類にはほとんど参加しない。
参加するとして、必要最低限の物にのみ。
それは僕自身が、そういった場を煩わしいと感じていて、かつ、義兄上や兄様も、口を揃えて抵抗があるのなら参加しなくてもいいとそうおっしゃって下さったからだった。
しかし、当然ながら今回は参加しない訳にはいかず、僕の準備は国から着いて来てくれた侍女達ではなく、義兄上自らが行って下さっている。
ある意味ではいつも通り。普段から僕の身支度は可能な限り義兄上が手づから行って下さっているからね。今回もその延長線上と言えばそうで。僕は心地よい義兄上の手を堪能しつつ全身を義兄上に委ねきっていた。
今、義兄上はうっすらと、僕のお顔に軽く化粧を施しておられる。
「リーファ、じっとしていてね。うん、一瞬瞼を閉じれる?」
言われるがままに瞼を閉じた。
「いい子だ。そのまま……うん、いいねぇ。キレイだ。……しかし、それにしても……あの公女様には困ったものだね」
微笑みながら僕のお顔を触っていたかと思ったら、義兄上がおもむろにそんなことを言い始める。
多分、夜会が始まる前に僕も知っておいた方がいいと判断したんだろう。
「それほどに酷いのですか?」
昨日の段階で第二公女様の態度に問題があるとして、僕は可能な限り遭遇しないよう取り計らって頂いているから、僕自身は公女様の様子を知らないままだった。
僕が不思議そうに問いかけると義兄上が重々しく頷く。
「少なくとも、付きまといや待ち伏せは当たり前に行ってくるね。こちらは仕事なんだけど……」
これはどうやら随分と邪魔をされているらしい。
「どうしてだか、私の行動予定が彼女に筒抜けになっているようだ。おそらく、近しい者の中に情報を流している者がいると思うしかないね」
当然ながら、ナウラティスから随行してくれている者の中にいるとは考えられないので、ドゥナラル側が用意した侍従、あるいは侍女の中に彼の公女の情報源が紛れ込んでいるのだろう。
幾人かの顔が思い浮かんだ。
ただ、彼らは僕達に直接は関わって来ず、言うなれば僕達の身の回りの世話などをしてくれる侍女、あるいは侍従の更に手伝いをしてくれているに過ぎず、接触が薄すぎて、結界の外におり、誰が怪しいのかなどになると皆目見当もつかなかった。
「ああ、でも予定の変更までは詳しくは把握していないみたいだね、最初の数回は、リーファが傍にいないことを不思議がっているように見えたから」
なるほど、ならば少しは絞り込めるだろうか。否、それだけでは多分難しいだろう。
確かに僕は予定を変更しているので、義兄上と一緒にいない時が発生している。
少し寂しいけれど、仕方がないことだった。
その分、一緒にいられる時は、義兄上は存分に僕に触れてくれている。今のように。
義兄上が僕に触れる時には、義兄上の指先には必ず魔力が乗せられていて、触れるだけでも常に少量の魔力を僕に注ぎ続けてくれていた。
多分ほんの少しだって、僕の魔力が足りなくなるようなことがないようにという配慮なのだろう。
そうすると余計に義兄上の指先は気持ちよくって。僕はうっかりうっとりとしてしまう。
今は視察中で、つまりお仕事中なのに。
義兄上は更にお話を続けた。
「とは言え、それもすぐに気にしないようになっていったけどね。逆にリーファが側にいないと知ると、行動が大胆になったほどだ。でも、ほら、私だって当たり前だけど結界を張っているだろう? あの公女様、その所為で私に近づけなくて。はは。あれは滑稽だったな。すぐにね、気付いた彼女のお姉さんだったり、大公閣下が引き取りに来てくださるのだけれど、そういうことが何度もあるとさすがにね」
物理的に、近づきたくても近づけない公女様。容易に想像できる話だ。やはり、彼の公女様はナウラティスの結界に弾かれるようなお方なのだろう。
とは言え、女性のおそらくは本人が本意ではない姿を滑稽と称する辺り、義兄上は別に善人というわけではないんだよなぁと僕は思った。
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