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第一章・リーファ視点
1-40・夜会③
しおりを挟む夜会も終盤に近付くと、どうしても疲れが隠せなくなってくる。
特に僕は普段からこんなにも人の多い場所そのものに縁がなく、余計に疲れが顕著だった。
見かねたのだろう、義兄上が、
「少し、涼んでくるといい」
と、バルコニーの方を指して言ったので、なるほど、外の空気を吸ってくるのもよさそうだと、僕は素直に頷いた。
「では義兄上、少し休憩してきます」
「ああ。気を付けて。出来るだけ早く迎えに行くよ」
「いえ、僕の方こそすぐに戻ります」
義兄上に見送られながら一人、バルコニーに出るとそれだけで少し、息がしやすくなったような気がした。僕はどうやら自分で思う以上に緊張してしまっていたらしい。
他にも何人か、同じように休憩に出てきたのだろう人影があって、全くの一人というわけではないが、それでも会場の中よりはずっと人が少なく、それだけでも全然違った。
目の前にはおそらく庭園があるのだろうとは思うのだが、目に見える灯りは必要最低限のみで、庭の様子はよく見えない。
そうすると余計に会場の灯りが際立つようだ。
ここはどんな庭だっただろうか。幾度か通りすがりにでも目にしているはずなのだが、特に印象に残っておらず、思い出せない。
そんな風にとりとめもなく思考を遊ばせ、しばらくぼんやりしていると、少し気持ちが楽になったように感じて、そろそろ戻ろうかと会場へと向き直ろうとした。
そんな矢先。
誰かが庭の方から近づいてくる気配を感じ、そちらへと視線を向ける。
このバルコニーには、端の方に階段がついていて、庭に降りられるようになっていた。
それはわかっていたのだけれど、それでも、灯りの乏しい庭の方へと降りている人がいるとは思ってもおらず、近づいてくるのが会場からではなくそちらの方からだったので少しばかり驚いてしまう。しかもどうやらその人影は、まっすぐに僕を目指しているようなのだ。
いったい誰なのか。否、誰かはわかる、これまでに接したことのある魔力。と、言うか、先程も少しばかり近づいてきていた。
父親が会場から追い出していたと思ったけれど、案の定懲りずにまたやってきたらしい。しかもこの様子だと、おそらく目的は義兄上じゃなくて僕なのだろう。
徐々にはっきり見えるようになって来たその姿は、案の定この公国の第二公女様。
僕のすぐ近くまで歩み寄ってきたかと思うと、彼女はおもむろに口を開いた。
「ごきげんよう、王弟殿下」
そう、あえて僕のことを名前ではなく立場で呼びながら話しかけてくる。あれほど幾度も睨み付けてきていたのに、今、僕に向けられている表情はにこりと微笑んでいて。ただし、その瞳は、決して笑ってなどいなかった。
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