【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

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第一章・リーファ視点

1-52・油断


 色々な所を見て回る。こればかりはついてくるだけだった時にはしていなかったことで、実はこれまでは、そもそも公国への視察の全行程に同行することそのものの経験がなかったのである。
 多くは公邸で過ごす際の一部分のみの同行が精々で、短い時には数時間ばかりで一人ナウラティスに帰されることさえあった。要は顔見せ程度の挨拶ぐらいしかしたことがなかったのだ。
 国外だけあって、何処を見ても興味深いものばかり。僕はお仕事にもかかわらず、それなりに楽しく堪能してしまった。
 ドゥナラル公国は大公閣下に問題がなく、資料を見る限りでも、綻びは小さいと義兄上あにうえが言っていた通り、問題がある所もない所もあったけれど、おおむね予想から大きく外れるということがなかった。
 つまりすこぶる順調に、予定が過ぎていったのである。
 いくら属国とは言え、ナウラティスの国内ではないので、そちらほど治安はよくないということだったのだけれど、僕が見る限りで問題となりそうなところもなく、どこか一部地域だけが極端に困窮している、だとか、その逆だとかいうようなこともなく。
 そこにあったのは、ごくごく普通で平凡な、一公国の姿だった。
 公邸内で幾度も顔を合わせる度、第二公女様に睨まれたり、あまつさえ夜会であんなことまで言われたりしたことなど、まるでなかったかのように、国そのものはとても平和だ。
 義兄上が言うとおり、僕に何か悲しくなるようなことを言ってくる人なんて誰もいなくて、盗賊や夜盗の類にも出くわすことなく、物理的に、誰かから害されるというようなこともなく。もっともこちらに関しては、もしそんな目にあいそうになっても、僕自身に守護結界を施している以上、ある一定の範囲以内にまでは、そういった誰かは近づいて来られないようになっているのだけれど。
 とにかく、本当に何事もなく無事に、僕は概ね予定通り、公国内の各地への視察を終えることが出来たのだった。
 日数にしてたったの三日。
 これに関しては、公国そのものの広さに左右されるのだけれど、ドゥナラル公国の国土は決して広くなどないので、それぐらいの日数しかかからなかったのである。
 勿論、僕は宣言通りに毎晩、義兄上の元へと戻って、いつも通り、それまでと変わらず、たくさんかわいがっていただいた。
 僕のお腹の中にはいつだって義兄上の魔力がたくさんたくさん満ちていて、どうも義兄上はとてもいっぱいの気持ちいいの先、気を失ってしまった後にも可能な限り魔力を注いでくださっていたみたいで、僕は魔力欠乏だとかに陥るようなこともなく、転移魔法をいくら行使しても問題など起きず。正直、公邸で過ごしていた時よりもよほど心安らかに、その三日を過ごすことが出来たのである。
 日中に一緒にいられなかったの寂しい。でも、公邸にいた数日も日中は基本別行動になっていたし、そもそもナウラティスにいる時だって、別に一日中ずっと一緒にいるだとかいうわけではない。
 僕には僕で、魔術師塔での研究という仕事があるし、義兄上も義兄上でお仕事があるのだから当たり前の話だろう。
 ただ、本当は一緒に公国内の各地への視察も行う予定だったので、そういう意味で少し、寂しいと思ってしまっただけだ。あの公女様のことがあったから余計にそう感じたのかもしれないけれど。
 とても平和に過ぎた三日間を経て、概ね予定通り無事戻った僕を、義兄上は喜んで出迎えてくれた。
 聞けば義兄上の方のお仕事も、何とか目途が立ちそうだとのこと。実際に問題があった人物の処遇は、大公閣下にお任せすることになるけれど、それも含めて、件の人物に行動を改めてもらうための準備は整えられたらしい。それらを踏まえて、当初の予定通り、一週間でナウラティスに帰れそうなことに僕と義兄上はほっとした。
 あとは、最後の夜に再度開かれる夜会に出席して終わりだ。細かい調整等はまだ少し残っているけれど、それらも問題とはならない程度。
 件の公女様も、拍子抜けするぐらいお顔を見なくて済んでいたようで、義兄上はようやく大公閣下も、彼の公女の抑え込みに成功したのだろうとおっしゃっていた。
 だからきっと僕も義兄上も油断していたのだ。
 このままナウラティスへと帰れると思っていた。
 だからあれはきっと、そんな油断が招いたことだったのだと思う。
 夜会の準備をする前に。前日までの視察での疲れもあるだろうと、僕には少しだけ、休憩の時間が設けられていた。
 義兄上は今後の細かな打ち合わせのために僕の側からはいなくなっていて、それで。
 護衛も、いたはずだったのだけれど。彼らはいったい、どうしたのだろうか。
 ほんの少しのつもりの転寝から目覚めた僕は。全く何処だかもわからないような場所へと、連れ去られていたのだった。
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