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第一章・リーファ視点
1-53・知らない誰か①
しおりを挟む初めに気が付いたのは匂いだった。
これまで嗅いだことのないおかしな匂い。簡単に言うと、臭かった。
僕は不快感に後押しされるようにして意識を取り戻し。そして目を開けた。
瞬間、パチリ、瞬きする。
自分の状況が全くわからない。
目の前に広がっていたのは見たことのない光景。何よりも薄暗くて汚かった。
何? 何がどうなって。
戸惑いながら眉根を寄せ、頭の中で、自分の記憶を辿る。今日は夜会がある予定で、その準備の前に、僕は休憩を取っておくように言われて、ドゥナラルの公邸内に宛がわれている寝室で、横になって体を休めていた。
前日まで公国の各地へと視察に出ていて、疲れていたのは本当だったから。
加えてこの後予定されている夜会も慣れてなどおらず、あるいは前日までの視察以上に疲れてしまうだろうことがわかっていて。だからこそ義兄上もあえて僕の予定を開けて、休憩できる時間を取ってくれていたのだ。
そのまま、少し眠ってしまったのだと思う。
そして。そして……――ん?
つまり僕は、ただ、宛がわれていた部屋で眠っただけだ。何もおかしなことなんてしていない。起きたら準備をしないといけないなと思っていた。
と、言うか、多分義兄上が、間に合うように起こしてくれるんじゃないかって。だけど。
目の前にある汚い光景は、どう見ても、眠る前にいた寝室とは似ても似つかなかった。
そもそも、先程一番に気が付いた匂いがある。鼻が曲がりそうなほどに臭い。
こんなにまで臭いにおいを、僕は生まれてはじめて嗅いでいた。
「何……これ……」
ぼそりと呟く。これでもかと顔をしかめて。せめて鼻を摘まもうと思って、そこで初めて僕は両手が、後ろ手ででも縛られているらしく、自由に動かせないことに気付いた。
「え?!」
何これっ?!
わけがわからない。え、なに?
「ん? なんだ? ようやく気付いたのか」
混乱して焦る僕に、誰か、知らない男の人が声をかけてきたようだった。
一応、記憶を辿ってみたけれど、当たり前に聞いたことのない声だったし、それになんだか、声を聞いただけなのに嫌な感じがする。
「誰?」
訊ねながら、声のした方へと顔を向けた。たったそれだけの動作なのに、とってもやりづらい。手が使えないのもあるのだろう、あとは僕が、よくわからないけれど、床っぽいところに転がされているからか。
臭いにおいは、どう見ても物凄く汚れている床の近くに、鼻があるからなのかもしれなかった。
一生懸命顔を動かして、かろうじて見ることが出来たのは、少し離れたところにある足だ。その足はやっぱり、汚いズボンと汚い靴に覆われている。
多分、男性なのだろう、声も男性だったし。僕よりずっと大きい。多分、義兄上よりも太そうだった。
どう考えても初めて見る。誰だかわからない男の人の足。
いや、だから、誰?
僕はますます混乱するばかりだった。
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