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第一章・リーファ視点

1-63・本当のお話①

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 義兄上あにうえは公女様のことを見ていなかった。
 むしろ言葉さえ聞こえていないかのような態度だ。
 義兄上の意識が向かっているのは僕だけ。
 かわいそうな人の治療が終わったのが分かったのだろう、義兄上が優しく僕に微笑む。

「リーファ」

 呼ばれて、僕は素直に義兄上の元へと戻った。
 ぎゅっと再び抱きしめられる。
 触れ合った所から流れ込む、あたたかな義兄上の魔力。
 なんて気持ちいいんだろう。
 僕達がそんなことをしている間にも公女様が妙に静かだと思ったら、公女様は兵士に拘束されて、口まで塞がれているようだった。
 うーうー言っているけど、さっきほどにはうるさくない。
 大公閣下は、もう本当に弱り切ったというお顔をしていて。

「申し訳ございません、陛下、殿下……すぐに、連れて行かせますので」

 平身低頭という様子で僕と義兄上に謝罪してくる。
 僕はちらと義兄上を見た。
 義兄上は少し困った顔をした後に溜め息を吐く。

「いや、このまま話そう。こちらも彼女には聞きたいことがある。それに大公。どうも貴方では彼女が御しきれていないように見えるのだが」

 義兄上は、暗に、公女様に加担している者がいるだろう、そちらを先に処理しないとどうにもならないぞとこれはおそらく、指し示しているのだろう。
 聞きたいことというのは、多分さっき僕を見た公女様が一番に言っていた、どうして僕がここにいるのかという言葉について。
 だってあれだと公女様は僕がここにいるはずがない、って思っていたみたいなんだもの。手足を縛られた状態で突然現れただろう僕を見ての言葉がそれ。
 そんなの、僕が連れ去られていたことについて、何かを知っていると、自分で告げたようなものだ。
 多分、義兄上もそう思ったのだと思う。
 と、言うかそもそも、なぜ義兄上はこのお部屋にこの公女様と一緒にいらしたのだろう?
 きっとそれも今から教えてくれるはずだ。
 冷や汗をかいた大公閣下は、しぶしぶというように、公女様のお口を塞いでいた拘束だけを、兵士に解かせたようだった。

「お父様! なぜ私にこのような仕打ちを!」
「黙りなさい、ノルフィ。わからないのか? 自分が何をしでかしたのかを!」

 途端に飛び出した文句は、拘束を指示した大公閣下に向かっていて、だけど大公閣下はすっぱりと短い言葉で切って捨てて、更に怒りも露わに公女様へと問いかけられた。しかし、そんな大公閣下の怒りもどうやら公女様には伝わっていないらしく。

「わかりませんわ! お父様こそ、おかしくなってしまわれたのっ?! 私はただ、邪魔な子供を排除しただけですっ! その子供に陛下は惑わされているんですわっ! 血も繋がっていないくせに弟だなんて偽って! きっと下賤の者に違いありませんっ! その上、聞けば、誰の子供だかもわからないような存在を身ごもっているのだとか! なんてはしたないっ! そんなにも身持ちの緩い者など、陛下のお傍にあっていいはずがございませんでしょう?! だからわたくしは!」
「ノルフィ!」

 公女様がまたしてもわけのわからないことを捲くし立てる。
 大公閣下はわなわなと憤っておられて、そして義兄上は僕を抱きしめたまま、はぁと疲れたような溜め息を吐いた。
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