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幕間
x1-3・公女の顛末③
しおりを挟むおかしいとしか思えなかった。
何よりおかしかったのは、二人ともがそれを、何らおかしなことだと認識していなかったことだ。
気持ちが悪かった。
当時たった2歳だったという子供に触れていただなんてことを、うっとりと語る皇帝も。それにむっとしていたかと思うと、だけど、寝ている間に触れられていたことそのものには嫌悪を表さなかった少年も。何もかもがノルフィの理解を超えていて。
わけがわからない。
「ナウラティスの結界のことはお前たちも知っているだろう?」
父の言葉にノルフィは頷く。姉も隣で頷いていた。
悪意や害意を弾くのだというそれ。有名な話だ。あの国は思想統一が成されている。
彼の国の国民は守護結界と言っているが、他からは思想防壁と称されている。
「ノルフィは近づけなかったね」
ノルフィはまたしても頷いた。
そう、ノルフィは近づけなかった。あの二人に。どれだけ願っても、皇帝には触れることさえ叶わずに。
ノルフィにはわからない。悪意? 害意? それはいったい何を指しているのか。それに。
「宰相は……そんなものまやかしで、物理的な結界なのだろうと。それをきっとあの王弟がねだって無理に皇帝へもかけているのだろうと」
宰相は王弟を悪しき者だと言っていた。
皇帝を騙し、操っているのだと、そう。だからノルフィが王弟の呪縛から皇帝を解き放たなければならない、そうすればきっと感謝した皇帝はノルフィを受け入れるだろう。
そんな宰相の話は、明らかに皇帝に全く相手にされていなかったノルフィにとって、非常に都合のいい話だった。
ノルフィは義憤に駆られたのだ。必ずや王弟を名乗る悪しき存在から、皇帝を開放して差し上げなければならないのだと。
たとえその方法は、少々良心の痛むような方法であったとしても。
そもそもノルフィは、わかる範囲で城の内部の情報を伝えただけだった。
それ以外の手配全てを行ったのは宰相なのである。
宰相が、どのような思惑でそんなことをしでかしたのか。ノルフィは全く把握していなかった。
ノルフィのたどたどしい説明に、父はふるふると首を横に振った。
「お前が……騙されていたことはわかっている。宰相については後程処理をするから、今はいい。あれは物理的な結界などではない。その証拠にお前が近づけなくとも、私は彼らと握手を交わすことが出来ただろう?」
言われて思い出す。確かに父は、皇帝と握手を交わしていた。つまり、触れていたのである。その際に、何かに妨げられている様子は見られなかった。
「あの結界は、悪意や害意を持つ者を弾くんだ。近づけなくなる、と言った方がいいか。とにかく、ある一定の距離以上は近くへ行くことさえできなくなるんだ。その距離は結界を張った者の任意だと聞いているよ」
つまり、同じ結界に対峙しても、対象となる者がどこまで近づけるのかはその時々、結界を張っている人物の意思によって変わるのだということなのだろう。
その証拠にノルフィは、皇帝には手を伸ばせが届きそうなぐらいの距離にまで近づくことが出来た。ただし決して触れられはしなかった。反してあの王弟に近づける距離は思えばそれの倍ぐらいだった気がする。皇帝よりも王弟の方にこそより近づけなかったのだ。
「悪意や害意というのはね、例えばノルフィ、お前は殿下を害そうと考えていた。そして自分の成そうとしていることが、殿下にとって害になることだと認識していた。自分が、殿下を害そうとしている自覚があった。そうだね?」
父の言うとおりだった。ノルフィは頷く。自分が宰相に促されるままの行動を取る。それが、あの王弟にとって害となるものだという認識がノルフィにはあった。ただ、そうせねばならないのだと思っていた。
「もし、その認識がなければ。お前はあの結界に弾かれることはなかっただろう」
父の言葉に目を見開いて驚く。
姉も同じだ。
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