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幕間
x2-12・兄の葛藤⑫
とにかく、今、アーディの手の中にあるのはただの報告書。
特になにか処理が必要なものではない。
問題となった人物達に下した処罰も、とりあえずはこれでいいだろうとアーディは判断した。
そうなるといっそう、それはただの報告書に過ぎず。それでも間違いなく、ペーリュは目を通すべきだとも思ったので、未処理の山の中に混ぜておく。
これで見落とすことはないはずだ。
さて他はと、いくつかの書類に目を通し、多少なりとも山を切り崩していく。別にペーリュの処理までは要らないもの、逆に目を通させておいた方がいいもの、特に本来ならば皇后だとか他の王族だとかで処理できる物を中心に減らしていく。
現在、王宮で暮らしている王族はペーリュとリーファのみ。
ペーリュはリーファにほとんどこういう類の仕事をさせていない。今後はわからないが、今はペーリュが一手に引き受けているのが実情だった。
その上であれだけリーファに構う時間を作っている。
「まったく。恋の力は偉大だね」
ペーリュは間違いなく優秀なのだ。ただ、少しばかり、愛情表現に対する認識が歪んでいるだけで。
そんなペーリュをリーファは望んでいるのだから、別に問題もないのだけれど。
そうしてペーリュの代わりに仕事を続けて数時間。
ぱたぱたぱたと軽い足音が聞こえてきてじっと読み込んでいた手元の書類から顔を上げた。
「兄様っ!」
バタンっ。軽い音と共にノックもなく開いた扉。顔を見せたのは、ペーリュによって寝室に留め置かれていたはずのかわいいかわいい末の弟。
「リーファ」
走ってきたのだろう、頬を紅潮させて、息を切らして。
少年らしい顔で、アーディを見て顔を綻ばせる。いきなり入室してきた無作法を咎めようと思っていたアーディは、リーファの表情を見てそれをやめた。
だってリーファは今、アーディに会えて本当に嬉しいとそうその様子で語っていたのだ。
リーファが視察から戻ってからこちら、顔を合わせるのはこれが初めてのこと。その前からだから数週間はあっていなかった。
たった数週間。されど数週間。それだけの期間合わなかっただけで、これほどまでに再会を喜んでくれるだなんて。真っ直ぐに慕ってきてくれる曇りのない心情に、なんだか面映ゆい気分になる。
だから、たまにはいいかと目を瞑ることにした。
母によく似た顔。母の忘れ形見。だけど母とは似ても似つかない、幼く無邪気な笑顔。
「いらしていると聞いて。早くお会いしたくて……走ってきてしまいました」
えへへと、自分の無作法を自覚しているのだろう、少しばかり躊躇いがちに笑う様子も可愛らしい。
「久しぶりだね。いいんだよ。たまにはね。それより、いろいろあったようだけど大丈夫かい?」
構わないと告げて、様子を訊ねると、リーファは憂いのない笑顔で頷いた。
「はい! だって義兄上がずっと一緒にいて下さるから」
そんな返事から透けて見えるペーリュへの信愛に、アーディはすと目を細めた。
構わない。
構わないのだ。リーファが望んで喜んでいる。なら、もうそれでいい。
どれだけペーリュに染められてしまっていても。その愛に雁字搦めに絡め取られてしまっていても。
リーファ本人がいいというのならそれでいい。
かわいそうな子。自分たちの我が儘で生まれてきた、だから幼くして両親を失くしてしまった、かわいいかわいい末の弟。母に非常によく似た面立ちの、だけど全く違う存在。
自分たちにはリーファに責任がある。だけど、リーファが、今を幸福だと感じているのなら。
それ以上のことなど何もないのだ。だから。
「そう。なら、よかった」
アーディはそう、頷いて。慈しむように微笑んだ。
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