【完結】身に覚えがないのに身ごもりました。この子の父親は誰ですか?

愛早さくら

文字の大きさ
89 / 148
第二章・ペーリュ視点

2-2・私のこと②

しおりを挟む

 そんな私だが、幼い頃からただ一人、憧れている人がいた。
 非常に美しい人で、私は当時、彼ほどに美しい存在を見たことがなかった。
 他者を圧倒できるほどの魔力の多さと、芸術品か何かのごとくな見た目の美しさはもとより、高潔で真っ直ぐに誰に対してでも対峙しているような人だった。
 ただし、その実、自身に向けられる行為に対しては、非常に疎いところのある人だったのだとは、のちのち曽祖父から聞いた話。つまり、完全無欠というわけではなく、何処か少しばかり隙が見えるような人でもあったのである。
 その人は曽祖父の母、つまり高祖母だったのだが、そうは言ってもいつ見ても若々しく、まるで少年のような瑞々しさを保ったままの人だった。同時に年相応の老成したような雰囲気も纏っていて。
 私はもしかしたらそんなアンバランスさに惹かれていたのかもしれない。
 彼の方に、何かをしたいだとか、何かをしてほしいだとか思ったことは一度もない。
 否、そのようなことは考えないようにしていたと言えばいいだろうか。
 なにせ、彼の方には生涯を共に生きる伴侶がいて、つまりそれが私の高祖父でもあるのだが、当たり前に私などが付け入る隙などどこにもなく、ただ、時折お会いして言葉を交わすぐらいが精々で。それでも私にはそれで充分だったのだ。
 美しい人への淡い憧れ。
 恋にもなりようがないような憧憬。
 彼が私に対して、何かをしてくれたというわけではなかった。
 それは勿論、幼い頃から幾度か。お会いする度に気にかけて頂いて、可愛がっていただいてもいたとは思う。ただしそれは、玄孫に対する態度を逸脱しないもので、私が特別に何か、だとかいうことはなかったように記憶している。
 そもそも、お会いすること自体、そう頻度の高くないことだったのだ。言うならばただ、親戚として接しただけだった。
 だから、特に何かきっかけがあって、彼に惹かれるようになっただとかいうわけではない。
 そういう具体性のある何かではなく、本当にただ淡く、憧れていただけだった。
 どういう話になって、また、彼が当時どのような状態であったのか。私が詳しく知ることはなく、ただ、彼が150を区切りとして、死ぬつもりであることを知ったのは、彼が件の年齢へと至る、ほんの5年ほど前のことで。その時に、彼にかかわるもの皆で、引き留める為の何かになればという思いがあったのだろう、彼に今からでも、子供を産んでほしいと願っているのを知って、私もまた、同じことを彼へと願った。
 憧れの人だったのだ。死んでしまう予定だなんて寂しい。可能ならばもっと生きていて欲しかった。
 とは言え、それらはそれほどに強い感情であったわけではなくて。出来れば、だとかいういささか意志の弱いもの。
 つまり私は憧れの人に対してであっても、それほど大きく感情を揺らすことがなかったのである。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...