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第二章・ペーリュ視点
2-50・触れずにはいられない
しおりを挟む曽祖父からいくらか魔力を分けてもらって、少しばかり回復した私は、最低限の仕事をこなし、また早々にリーファの待つ寝室へと戻っていった。
そっと額に手を当てて、目覚めないよう魔力を流す。
決して多くはなく、少しだけ。ほんの僅かであったって、リーファは目覚めず眠ったまま。
リーファの様子を注意深く確認する限り、お腹の子供も、今は魔力が足りていないということはなさそうだった。
とは言えそれだっていつまでも持つようなものではない。
私が回復しきるまでなど。
でも。曽祖父は、リーファを戻す魔術式の開発に其処までの日数はかからないだろうと言っていた。あと数日。あと数日したら、リーファは戻る。
私を、あんな目で見なくなる。
『ペーリュ義兄上』
ずっと残り続けている幻影を振り払った。胸の痛みをおして、眠るリーファを見下ろし、そっと頬を包み込んで。静かに、何かを恐れるかのように唇を寄せた。
ちゅっと微か落としたくちづけに当然のように応えはなく、胸の痛みがひどくなる。
リーファ。
ずっと大切にしてきた私のリーファ。可愛いリーファ。私だけのリーファ。
これまでの記憶が、ぐるぐると私の中で駆け巡った。
まだ覚束ない言葉で、
『ぁにぅえ!』
と、必死に小さな手をこちらに伸ばして、私を呼んでくれたリーファ。
『義兄上っ!』
花のような笑顔で、私に笑いかけてくれたリーファ。
『義兄上なら、いい。義兄上以外は嫌です』
そんな風に唇を尖らせて訴えてきたのは、最近のリーファだ。
私をすべて受け入れ、求めてくれる。私の全て、私の最愛。私のリーファ。
唇を、落とす。
頬に、まぶたに、額に、鼻の頭に、そして唇に。
触れるだけのくちづけを、幾度も。幾度も。
そっと吐息を食むように、しっとりと唇と唇を合わせ、舌で、仄かに開いた間を押した。
にゅると、やや強引に、可憐な口内を舐めまわす。
滲み出た甘い唾液をすすって、代わりに私の魔力を注ぎ込んだ。
それでも今は、それほど多くは注げなくて。
ああ、なんてもどかしい。
ともすればいくらでも、リーファへと魔力を注ぎ続けたくなってしまうのを、リーファが目を覚ました時に、私が不調に陥っていたら、それこそリーファが気にするだろうという曽祖父の言葉を思い出し、なんとかギリギリで押しとどまった。
それでも触れずにはいられなくて。
眠ったまま。目覚めないリーファは、私に拒絶や嫌悪の瞳を向けることはない。だが同時に、くすぐったくなるほどの思慕を。向けてくれることもまたなかった。
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