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第二章・ペーリュ視点
2-54・覚悟
しおりを挟む説明は、やはり曽祖父が担うことになった。
混乱したままである以上、私もラーヴィも傍にいない方がいい。この間と同じだ。
リーファを渋々ながら曽祖父に託し、名残惜しみながら席を立つ。
そうしていったん部屋を出て、すぐ近くで待機した。
私たちが自分たちの魔力を一応であれ隠してすぐ、曽祖父がリーファを起こす声が聞こえてくる。
「リーファ、リーファ、起きて。リーファ」
ああ。目を覚ましたリーファの側に、リーファの義兄上がいない。それはリーファにとってどれほどの絶望になることだろうか。
きっとリーファは、次に目覚める時にはと、希望をもって目を閉じたはずなのに。
胸が痛く、やるせなく、力ない自分が腹立たしくて仕方ない。リーファ。
ラーヴィは、そんな私に気づかわしげに寄り添っていた。余程、私の様子が気の毒に過ぎたのだろう。
ああ、リーファ。リーファ。
「ぅう……兄、様……?」
ぼんやりとしたリーファの声。リーファが周囲を見回している気配がする。きっと、義兄上を探しているのだ。近くにいるはずなのに、と。
「リーファ」
曽祖父がリーファの注意を引いた。
「兄様」
「自分の状況は、覚えている?」
問いかけられ、リーファがややあってから小さく頷く。
状況は変わらず、記憶は曖昧になったりしているわけではないようだ。
「今の自分の状態がおかしいことはわかるよね? お前の状況を戻す魔道具が完成したんだ。本当はお前が眠っている間に戻してやりたかったんだけど、それだと少し時間がかかるから、仕方なくて、お前自身に協力してもらうことになった」
「僕自身に?」
「そうだ。この魔道具は、お前自身が、自分のおかしくなった認識を意識しながらお前が魔力を流す必要があるんだ。そうして初めてお前の認識を入れ替えられる。わかるかい?」
つまりリーファは、自分の中にある齟齬と向き合わなければならないということだ。自分の感じている違和感を正すために。
リーファの記憶と認識を一致させなければならない。
私は危惧している。
それはあるいはリーファの中で。一度、義兄上を手放す行為になってしまうのではないかと。
案の定、リーファは長い間、返事を返さなかった。ゆらり、揺らぐ気配。
ああ、リーファ。
すぐにも駆けつけたい。傍で支えてやりたい。私はここにいると、慰めて。でも。
今のリーファに、それは出来なかった。
それは私の側で控えるラーヴィも同じだ。
リーファがより混乱する要因となる私たちは、今、リーファの前に姿を見せることが出来ない。
どれぐらい、そうしていただろうか。
「リーファ」
曽祖父の促しにリーファが、ゆっくりと頷いた気配がして。こと。魔道具を手に取る為だろう、一度テーブルに軽く触れる音がした。
「兄様。……義兄上は、近くにいますか」
「もちろん。すぐ傍でリーファを待ってるよ」
「よかった」
そんな微かな確認の音、室内に満ちたのは、静かであたたかなリーファの魔力だった。
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