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第二章・ペーリュ視点
2-55・求めあう
しおりを挟む実際の所、いったい何がどう作用していたのか私にはわからない。
ただ、おそらくは魔道具を発動したのだろう直後、明らかにリーファの様子が変わった。ガタっと、席を立った気配がしたかと思うと、すぐにバタバタとこちらへと駆けてきて、そして。
「義兄上っ!」
バタンっ、勢い良く扉を開け放ったリーファは、なすすべもなく、隠れる暇もなく、すぐ傍に立ったままだった私とラーヴィを見て、見る見るうちに瞳を潤ませ始めた。と、同時に、
「あ、義兄上ぇ……!」
と、ふにゃと泣きながら笑って、私に縋りついてくる。
そんなリーファの瞳に宿った、いつも通りの思慕を見て、私はようやく心の底から安堵した。
安堵して、柔らかくあたたかく、ほっそりとしたリーファをぎゅっと抱きしめる。
「ああ、リーファ」
リーファ。
慣れた感触だ。ずっと、私が抱きしめ続けてきた、私のリーファ。
やっと戻ってきた。私の元へと、帰ってきてくれた。そう思ったら、私まで視界が滲んできてしまって。
ああ。
「リーファ、リーファ、リーファ」
抱きしめた。ぎゅうぎゅうと力の限り。私こそがリーファへと、縋るかのように。
「義兄上ぇ……」
リーファが泣いている。私の腕の中で。
年に似合わぬ幼い体を震わせて。私に縋りついて、私を放さずに。
リーファ。
胸がいっぱいになった。
よかった、と、つくづくそう思う。だってリーファは帰ってきた。帰ってきてくれたのだから。
「リーファ」
優しく促して、少しだけ顔を放させた。こちらを見上げてきたリーファの表情はひどく切なげで、悲しそうで。でも、同時に柔らかな安堵が滲んで。
「義兄上」
涙に濡れて潤んだ眼差しが、私をまっすぐに見つめてくる。そこには以前向けられた拒絶や嫌悪など、どこにもなく、ただひたすら私への思慕だけが宿って。
私は知らず、ゆるり、顔を綻ばせていた。
ああ、リーファ。戻ってきた、私のリーファ。
リーファもまた、やんわりと私に向けて笑みを浮かべてくれて、だから。
「リーファ」
リーファの頭を輪郭をなぞるようにして柔らかくなでた。そのまま頬を包んで、そっと、近づけた顔。ゆっくりと目を瞑って、落とした唇はリーファのその部分へ。
しっとりと触れ合うだけのくちづけを交わす。
リーファの長い睫毛が、ふるふると震えて、私の肌をくすぐった。
意識のあるリーファと交わす久しぶりのくちづけだ。
チュッと、触れ合った所から体温が混じって、お互いの魔力も交ざるようで。
それは何処までも、意識のないリーファと繰り返していたくちづけとは、何処までも重ならない交わりだった。
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