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第二章・ペーリュ視点
2-60・確認と後始末⑤
しおりを挟む私は一瞬、ぱちりと瞬いた。思ってもみなかった処罰だったからだ。
「魔術師塔以外で仕事?」
確認すると、こくりと頷く。
「はい、この人達が一番いやなことは何かなって考えたんです。だって嫌なことじゃないと罰にならないでしょう? でも、多分、あそこで研究してるような人は、お給料とかはまったく気にしないだろうし、予算を減らすってのもまた違うし、食べ物だとかも多分、興味ないんじゃないかなぁと思って、それで……」
そうして考えて出てきた応えが、研究の一時中断と別の仕事。
なるほど、と私は頷いた。
「リーファは、彼らにとってはそれが一番つらいんじゃないかと思ったんだね」
「ええ。そんなに長期間じゃなくてもいいんです。でも多分、一番つらいことはそれだと思うので……」
リーファ自身、魔術師塔に所属して研究などをしているが故の観点だろう。彼らの弱点をよくわかっている。
確かに、好きではない作業をさせられるというのは苦痛だろう。加えて、好きなこともさせてもらえないのだ。対外的に見てひどい罰などではない。だが同時に本人たちにとっては、これ以上ないほど効果的な罰にもなりそうだと思った。案の定、目の前で交わされる私とリーファの会話を聞いた魔術師塔の者たちは、絶望的な表情を顔に浮かべていた。
よほど研究から引き離されるのが嫌なのだろう。なんともわかりやすいことだった。
そもそも魔術師塔で研究などしている者たちの多くは、それ以外に興味を持てない者達ばかりなのだ。リーファの言うようにおそらくは減給や降格よりよほど効果的だろう。
曽祖父は笑った。
「あっはっは。リーファは存外に厳しいことを言うんだね。確かに、彼らにとってはそれが一番の罰かもしれない」
そうして向かい側で陰鬱な顔になった彼らへと改めて向き直る。
「うん、いいんじゃないかな。僕も賛成だよ」
こちらに向けて頷いてきたので私は同じように頷いた。
同じように、改めて彼らへと向き直る。
「聞いていたね。君たちへの罰は決まった。向こう三ヶ月の、王宮の総務省への出向を命じる。その間の研究の停止と同時に今後、同じようなことが起こらないようにするための予防策の検討も共に命じよう」
それを彼らへの罰とする。
書類関連はまた後回しになるのだけれど。
言い渡すと、彼らは非常に悲痛な顔をして、しかし自分たちのしでかしたことも充分に理解しているのだろう、食い下がったり抗ったりする様子は一切見せなかった。ただ粛々と頷いて。
「かしこまりました。寛大な処罰、感謝いたします」
そう、殊勝に頭を下げたのだった。
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