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14・話し相手
しおりを挟む滞在する、とは言っても。
やることが何もない。
困った顔で呟いた俺に、アーディは、なら、自分の話し相手になってくれないかと提案してきた。
「とは言え、僕も早々時間を余らせられているわけじゃなくてね。申し訳ないんだけど、朝、昼、夕、夜の何処かで1回、君の好きなタイミングでいいから、時間を合わせられると助かるのだけれど」
はは。むしろこちらがお願いするよう形になってしまって申し訳ない。
そう申し訳なさそうにするアーディだったのだが、これはむしろ俺への気遣いなのだろうとしか考えられなかった。
願いをかなえると言っているのに、わかりやすくそれを口にしない人間など、彼らからしても面倒なことこの上ないはずだ。
こうなるとむしろとっとと適当なことを願って叶えてもらって、それで終わりにした方がいいのではないかとさえ思うのだが、かと言って何かと考えても結局は何も思い浮かばず。仕方なくアーディの言葉に甘え、しばし考えた後、では夜にと応えを返した。
先程本人が告げた通り、おそらくこの男は忙しいはずだ。
なにせナウラティスという大帝国の皇帝。暇などあるとは思えない。
それでも時間を取るというのだ。一番、負担にならないだろうと、俺なりに考えた結果だった。
朝も昼も仕事があるだろう。
夕方は、次はあのトゥール、だったか、子供と触れ合ったりだとかするのかもしれない。
食事を共にするのだって負担なはず。
ならば残るのは夜。
アーディの僅かしかないであろう自由な時間を俺に割いてもらうことになるかもしれないが、他よりはまだ、都合がつけやすいのではないかと考えた。
夜だなんて、誰かとの逢瀬などの予定が入る可能性が一番高そうにも思えたが、それについては恋人さえいないと言った彼の言葉を信じるしかない。
「夜だね。わかった。じゃあ、夕食後、寝る前までの数時間。はは。僕を気遣ってくれたのかな? 助かるよ。僕としてもそれぐらいが一番都合がいい」
そうしてさっそくその日の夜から持たれることになった、アーディの話し相手だとかいう時間は、予想に反して俺にとっても楽しいものとなっていった。
多分、アーディが話し上手で聞き上手だったからだろう。
俺は自慢ではないけれども口数が多くない。と、言うよりは正直な所、話すこと自体が苦手だ。
勿論、会話自体が出来ないだとかいうわけではなく。
ただ、何か話を、と言われても、何をどう話せばいいのか全くわからなかった。
だが、そんな俺の話を、アーディは上手く聞き出してくれた。
「ん? その時、君はどうしたんだい?」
「ああ、なるほど。そういう対応の仕方もあるんだねぇ」
などと言った風に、応えやすい質問を差し挟んでくれたり、俺のわかりにくい話を決して否定せず、剰え同意したり感心したりしてくれた。
同時に俺にばかり話させるのではなく、自分のことについても程よく話をしてくれて。特に、冒険者になったらしい妹の話などは、俺も興味深く聞き入ることが出来ることが多かった。
だからだろうか。程なくして俺は、気付くと、毎夜訪れるアーディとの時間を、心待ちにするようになっていたのだった。
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