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43・護衛依頼⑤
しおりを挟む一日ぶらぶらと、町を見て回った。
市場や露店を冷かしたり、目についた店に入ってみたり。
冒険者協会にも立ち寄って、一応依頼を確認したのだが、やはり目ぼしい依頼は見当たらず。
いずれにせよ、今受けている護衛依頼が終わるまでは、次の依頼は受けられない。
薬草の採取などならついでに可能だけれども。
昼食を摂って、夕食を摂って。
ある意味いつも通り。
いつもよりなんだか浮かれた気持ちになっていたのは、これがいわゆるデートのようだ、そんな風に思えたからなのだろう。
二人きりなのは変わらないし、これまでだって一緒に買い物をしたりした。
だけど、デートのようだなんて思ったのは初めてで。
それらは全部もしかしたら、今日は一日終始浮かれた様子だったアーディに引きずられたところがあるのかもしれなかった。
でも悪い気分だったわけでもなくて。
(俺はアーディとデートがしたかったのか?)
なんて自問して恥ずかしくなる。
「ソーマ?」
うっかり赤くなってしまった俺を不思議そうにうかがってきたアーディは、やっぱり何処か浮かれていた。
さて、デートと言えば最後は宿、否、宿は元々取るつもりだったのだ。
明日のこともあるので、出来るだけに首都の西門に近いところをと、そんな風に考えていた。
ちょうどいい場所を見つけて部屋を取った。
一つ。アーディと同じ部屋。
いつも通りだ。
これまで部屋を分けたことなんてない。いつも通りベッドが2つある一緒の部屋。
アーディは今日は国に戻る予定はないのか終始ずっと俺と一緒にいて、そして。
「ここ、浴室あるみたいだから、お風呂入ろっか。あ、ねぇ、一緒に入る?」
なんて誘いかけてきた。
「は?!」
俺は信じられなくて思わず大きな声を上げてしまう。
「あはは! そんなに驚かなくたっていいじゃない。今更でしょ。それとも……嫌なの?」
今更。
確かに、俺とアーディはこれまで何度も体を重ねてきた。
お互いの裸だって隅々まで目にしている。
だけど、風呂を一緒に使ったことなどない。
なのに、よりによって今日、この状況で? こんな浮かれた心情で?
だけど、嫌かと聞かれた。
正直なところ、全く別に嫌ではなかった。
なにより覗き込むようにして訊ねてきたアーディが可愛い。
可愛くて可愛くて、胸がどきどきしてどうすればいいのかわからない。
自分の顔が真っ赤になって言うだろうことだけはわかった。
「いや……その、嫌というわけでは……」
どぎまぎと戸惑う俺にアーディはくすと笑って。くるり、振り返って背を向ける。
「なんてね。冗談だよ。僕、先に入るから」
先程までの可愛らしい浮かれた様子は何だったのか。
手のひらを返すように、途端いつも通りの雰囲気に戻ったアーディに俺はなんだかむっと気持ちがささくれ立って、それで。
「一緒に入ろう」
気が付けば俺はアーディの手を掴んで引き留めて、そんなことを言い放っていた。
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