【完結】おいでませ!黄昏喫茶へ~ココは狭間の喫茶店~

愛早さくら

文字の大きさ
7 / 36
第壱話

1-6・お出かけ

しおりを挟む

 階下に降りると、キョウさんがちらりとこちらを見てきた。
 上に行く前まで座っていた席には座っておらず、外へと続く扉近くの壁にもたれかかったまま、妙に堂に入った姿で腕を組んでいる。
 俺は首を傾げながらトレイをカウンターに置いた。
 キョウさんがそれを待っていたかのようににしゃと笑い、そのままいやに楽しそうに口を開いて。

「レンゲー、今日はこれからお出かけしよっかー」

 そんなことを言い始めた。

「え」

 戸惑う俺にキョウさんは構わない。

「ほらほら、早くエプロン脱いで準備して。大丈夫、マスターにも了解は貰ってあるから」

 名前が出たのでカウンターを見ると、マスターはこくりと一つ頷いた。
 本当にいいらしい。だけど。

「え、あの、突然どうして、」

 なぜ。
 戸惑ったまま疑問の声を上げたのに、キョウさんの笑顔は崩れない。それどころか、早くと更に俺をせかしてくる。

「いいからいいから」
「ですから、どうして、」
「どうしてって……」

 声に急き立てられるようにエプロンを剥ぎながら更に問うと、キョウさんは一瞬きょとと首を傾げ、だけどやっぱりにやと笑った。

「だって見えた・・・んでしょ?なら、次の段階に進まなきゃね」

 何を言っているのか、わけがわからなかった。次の段階、とはいったい何なのか。
 疑問だけで俺の頭は埋め尽くされているのに、どういう強制力なのか、俺はキョウさんに抗えず手早く出かけられる準備をする。

「今日はもうここへは戻ってこれないから、そのまま帰れるように荷物は全部持ってね」
「はい」

 素直に出かける準備、ではなく、帰り支度を整えた。

「お待たせしました」

 実際はそれほど待たせていないはずだけど、一応キョウさんの前まで進んでそう告げると、キョウさんはにしゃと笑って一つ頷いて、組んでいた腕を解く。

「ん、準備できたね。じゃあ行こうか。マスター、ちょっと行ってきます」

 俺を促し扉をくぐりながらカウンターの向こうのマスターに声をかけた。

「行ってきます」

 俺も促されるように同じ言葉を返すと、カウンターの向こうでマスターが何も言わず深く頷き、カラン、ドアベルの音を鳴らして閉じた扉の向こうに見えなくなった。
 ああ、そうだ、ドアベル。ドアベルも、今日初めて気付いたのだ。
 思わずまじまじと扉を振り返る。

「どうかしたの? レンゲ」

 先を行こうとしていたキョウさんが、歩き出さない俺に気付いて声をかけてきた。

「いえ、ドアベルが」

 俺は扉から引きはがした視線でキョウさんの方を向いて、何が気になっていたのかを正直に告げた。
 キョウさんは、ああ、と合点がいったという風に頷き、

「それにも気づいてなかった・・・・・・・・んだね。初めからずっとあるよ、ドアベル。出入りする度にカランカラン鳴ってたもん。だから気付いていなかった・・・・・・・・・のは君だけ」

 そんなことを言う。だが、其処で一度言葉を止め、

「いや、違うな。今日やっと気づけるようになった・・・・・・・・・・んだね。やっとチャンネルが合ってきた・・・・・・・・・・・のかなぁー? 意外に早かったじゃん。もっとかかるかと思ってたよ」

 はは、笑うキョウさんに俺は不審げな眼差しを向けた。

「キョウさん?」

 俺の機嫌が悪くなったことなど気付いているだろうにキョウさんはちっともそんなこと気にしないまま、やっぱり笑って俺を見る。

「いいからいいから。悪い変化じゃない・・・・・・・・よ、安心して」

 何も安心できる気がしないことを言って、何処へ、と問おうとしていた俺の気持ちを、確かに少しだけ挫いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

【完結】偽りの華は後宮に咲く〜義賊の娘は冷徹義兄と食えない暗愚皇帝に振り回される〜

降魔 鬼灯
キャラ文芸
 義賊である養父を助けるため大貴族の屋敷に忍び込んだ燕燕は若き当主王蒼月に捕まる。  危うく殺されかけた燕燕だが、その顔が逃げた妹、王珠蘭に似ていることに気付いた蒼月により取引を持ちかけられる。  逃げた妹の代わりに顔だけは綺麗な暗君である皇帝の妃を決める選秀女試験に出て不合格になれば父の解放を約束するという密約を交わした。    記憶力抜群、運動神経抜群、音楽的才能壊滅の主人公が父のために無難な成績での選秀女試験不合格を勝ち取れるのか。  実は食えない性格の皇帝と冷徹だがマメな義兄蒼月に振り回され溺愛される燕燕は無事2人から解放されるのか。  後宮コメディストーリー  完結済  

下っ端宮女のひたむき後宮恋譚 ~前世の夢を追いかけていたらいつのまにか寵愛されていました~

紀本明
キャラ文芸
妃嬪から嫌がらせを受けつつも耐え忍んでいた下っ端宮女の鈴風(りんふぁ)はある日突然前世の記憶を取り戻す。料理人になるのが夢だった彼女は、今世でもその夢を叶えようと決意した矢先、ぼさぼさ頭の宦官・雲嵐(うんらん)と出会い、毎晩夕飯をつくることになる。料理人になるべく奮闘するも、妃嬪からの嫌がらせはひどくなる一方だった。そんなある日、事件が起こり、鈴風は窮地に立たされるが……――?

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...