お前の取り柄は顔以外

愛早さくら

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 気になる女の子が出来た、とは言っても、当然ながらその子とすぐに付き合えるわけではない。
 そもそも、親しくならなければ、それ以前の問題なわけで。

「いつもごめんね、端総くん」

 校庭脇の花壇の側で。申し訳なさそうに控えめに笑う様子がやっぱりかわいいなと思いながら、俺は首を横に振った。

「気にしないで。俺がしたくてしてることだし」

 放課後。バイトのないこの日、手伝うと申し出た俺に、俺が最近いいな、と思っている女子生徒、園芸部に所属している一学年上のトモカ先輩は、はじめ、遠慮ゆえか手伝いを固辞してきたのだけれど、言い募る俺に折れる形で、結局こうして、俺を受け入れてくれている。
 この場にいるのは俺とトモカ先輩の二人だけ。
 他の園芸部員は、別の場所で同じように、花壇の世話をしているのだと言う。

「部員数少ないから。手分けしないと終わらなくて」

 それでも、格好内にある花壇の世話全てを園芸部で請け負っているわけではなく、いくつかを借り受けているだけなのだと言う。

「へぇ」

 相槌を打ちながら俺は、持参した軍手をはめ、トモカ先輩に倣って、花壇に生えた雑草を引き抜いた。そのまま近くに用意されているゴミ袋に放り込む。先輩が引っこ抜いた雑草も一緒に。

「もともとあんまり活動も活発じゃないんだ。ただ、今ぐらいの時期は、新しい種を植えなきゃいけないから……」

 今日はこのまま肥料も蒔いてしまうつもりなのだと説明してくれるトモカ先輩の声は、何もかも小さいのと同様、よく耳を澄ませないと聞き取れないぐらい小さかった。

「そっか。じゃ、トモカ先輩たち園芸部がいるから、この辺の花壇でも季節の花ってのが楽しめるんだ」

 感心してそう告げる俺に、トモカ先輩ははにかんで笑う。

「大げさだよ、端総くん。でも、ありがと」

 その様子はやっぱりかわいくて。ふわっと、胸を温かくしながら、俺はつい先ほどの、一緒に帰ろうという誘いを断った時の、和凪の様子を思い出していた。

『そうか……』

 と、残念そうにしながら、けれどすぐに引き下がって、しつこく食い下がったりしない和凪の様子はいつも通り。なんだかしょげた犬みたいだったな、なんて。まるで垂れた耳と尻尾が見えるような情けない顔つきに、一瞬絆されそうになったのだけれど、トモカ先輩を思い出して、振り切ってきたんだったっけ。
 そもそも秋季休みも近く、もうじき、文化祭の用意も本格化し始める。トモカ先輩とお近づきになれるチャンスは、今を逃すと少しばかり先になってしまう。優先するのも仕方がないだろう、なんて内心は、何故か、どこか言い訳じみていた。
 ここしばらく、和凪を振り切ってトモカ先輩に近づく俺に、トモカ先輩自身は何処までも遠慮がちで、気を遣わせ続けているのは明らかだった。

(断り切れずにいるってだけかもしれないけど……)

 明確に迷惑だという様子でもなく、先輩が控えめなのをいいことに、強引に俺が迫ってしまっている。
 こうでもしないと近づけないというのはこれまでの経験則で、いいなと思った相手に、こうしてアプローチをかけるのは、俺のいつも通りの行動と言えた。
 勿論、相手の様子を注意深く窺って、引き際を見定めるのは怠らない。
 そんな風に、取り留めのない会話をしながら、二人並んで、そう広くもない花壇を隅々まで整えていく。
 雑草を抜き終わったら土を慣らして、肥料を混ぜて。種や苗を植え付けるのは次の活動の時の予定だというトモカ先輩に、俺は次の活動の予定を聞いた。

「なぁに、端総くん、また来てくれるの?」

 トモカ先輩の声にほんの僅か、期待が滲んでいるのに頷くと、トモカ先輩はやっぱり控えめに笑って、

「そんなに優しくされると、勘違いしちゃいそうだよ」

 と、満更でもなさそうにそう告げてくる。
 俺は、勘違いしてくれてもいいのに、思いながらも流石にそこまでは口にせず、柔らかく笑みの形に目を細めた。
 頬を赤く染めて逸らされた視線が、女の子の恥じらいに見えて、俺はかわいいなと、しみじみと思う。
 そんな風に、俺はトモカ先輩との距離を近づけていっていた。
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