39 / 82
38・言葉
しおりを挟む俺を抱きしめるロディスの腕は、まるで縋りついてくるかのようでさえあった。
ロディスは子供の時から決して全く口数は多くないし、むしろ態度と表情で訴えてくることの方が多かった。
あのどちらかというと人当たりのいい両親から、なぜこうも不愛想な男が生まれるのか。
まったく理解しがたいが、ロディスのそういった人間性のような部分において、俺が何かを思う所なんてない。
ロディスは今も、言葉を発しない。
多分俺の言葉が彼にとって、大変に不本意だということなのだろう。
「ロディス」
そのうち俺の声音に苛立ちが混ざる。
それを悟ったからだろうか、ロディスがようやく重い口を開いた。
辛うじて聞き取れるというぐらいの小さな声で。
「私は……ただ心配なんだ……魔術士団の隊長職というのは忙しいし、職務上、時に危険を伴う」
「ああ」
魔術士団というのは、騎士団ではないが、それでもいわゆる戦闘色である。
攻撃手段が魔術や魔法に偏っているというだけで、実質仕事内容としては、剣や体術を駆使して、治安などを維持する騎士団と、そう大きな違いなどなかった。
とは言え、市中の見回りなどの際には危険などほとんどなく、あるとすれば訓練、あるいは鍛錬中などの事故や、実験の失敗……――魔法魔術においての研鑽を積む過程において、そう言ったことも発生するのである。
そして、考えられる一番の危険は、魔の森の確認任務となった。
魔の森には魔獣が出る。
時折迷い込む者などもいて、そういった者の保護、あるいは魔獣の討伐などを、騎士団や魔術士団が、分担して行っていた。
当然、それらの職務は、隊長職だからと言って逃れられるものではない。
むしろ一般隊員より更に危険度の大きい職務ほど、率先して従事しなければならないほどで。
心配なのだと言われると、わからないとまでは言えず。
年に数人、そういった職務中に死傷者が出ているのも動かしがたい事実ではあった。
死亡にまで至るとなると、流石に珍しくはあるが、怪我ぐらいなら逆に全く珍しくもない。
それが嫌だというのだろうか。
ただ、心配なのだと。
「リティは……真面目で責任感が強い。自分の職務に忠実だ。きっと何かあれば、現場にも躊躇わずに向かうことだろう」
事実だ。
実際に、俺は、むしろその為の隊長職だとまで思っている節があった。
だが、そもそもこの国に真面目でない者の方が珍しい。勿論、やる気がない者程度なら、一定数は存在しているのだけれど。
きっと多分、そういう話ではないのだろうな、思いながら、俺は短い相槌以外には、一切言葉を差し挟まず、辛抱強くロディスの次の言葉を待つことにする。
「普段ならばいい。お前は強い。魔力も多いし、魔法や魔術にも長けている。たとえ魔獣だとて、お前が害されることなど早々考えらえない。だが、今は違う」
存外にロディスの中での俺の評価がどうやら高いらしいことに驚きながら、俺はそれでも口を噤んだ。
俺を抱きしめ続けるロディスの腕のあたたかさが、妙に俺へと馴染んでいくように感じられる。
多分、僅かばかり魔力が流れてきているのだろう。
「子供がいるというのは、大変な問題だ。現にお前は倒れてしまっていたじゃないか。仕事なんて続けさせられない。このまま安全なここに留まっていて欲しい」
ただそれだけを願っているのだとでも続けそうなロディスの声音は苦く。だが、ロディスの口にした理由と思わしき言葉たちは、俺の求めていたものでは全くなかった。
ロディスの言っていることそのものは、特におかしな気遣いでもないし、しかしだからと言って、部屋から出さないだとかいうのは極端に過ぎる。
俺が聞きたいのはつまり、なぜロディスがそう考えているのかという根本的な部分なのだ。
そして仕事に関しても、やはり辞めるだとか辞めさせるだとかをロディスが決めるようなこととは思えなかった。
俺が今、身ごもっている子供の父親はロディスだ。
それは間違いがない事実だし、その上、俺は今、子供を育てる為の魔力をロディス以外からは得たくないと感じている。
ならばこそ余計に仕事などのことで、ロディスが気になってしまうというのなら、俺も考えなければならない部分があるのだろう。
だけど。
「……それがお前の言い分か?」
「ああ」
努めて心を落ち着けて、短く確認のための言葉を吐いた。
俺は決してロディスの心情や希望などを、否定したいと思っているわけではないのだ。俺自身、仕方がないと思う部分もあるのだから。
「なら、なぜ初めにそれを言わない。なぜ、行動でしか示さないんだ」
ほんの少しだけ諦めて、俺はひとまずとそう口にした。
ロディスは俺に何も言わなかった。俺と会話さえしようとはしなかった。
それでどうして、何故、抗わずにいられるというのだろう。
おまけに俺があまり得意ではない者に、俺の世話を任せ、俺の行動を制限するだなんて。いっそ卑怯ではないかとさえ思う。
にもかかわらず、俺への悪意も害意ゆえにそうしたわけではないのだとは。
「お前はそんなにも、俺と話すことさえ嫌なのか? なぁ、ロディス」
なぜ俺はそれほどまでにお前に嫌われているのだろう。
つきん。
胸がきしむ音がした気がした。
62
あなたにおすすめの小説
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる