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40・来襲
しおりを挟む婚姻、つまり結婚というのは俺の中で、好き合っている者同士がするものだという認識がある。
少なくとも、嫌い合っている者同士が成すようなことではない。
勿論、政略結婚という物もあるし、仕方がない場合もあるだろう。
だが、こと、俺とロディスの間では、そんなものは差し挟まらない。
子供が出来た、その理由以外で、そんな必要が全くなかった。
加えて子供は婚姻など成していなくとも育てられる。
ならばなぜわざわざ、結婚などと言う手段を取る必要があるというのか。
なお、俺とロディスならば身分だとかそういうのも含め、必要がない代わりに妨げとなるようなものもまた何もなかったがそれはそれ。
ロディスの両親が、歓迎していると言っていたようにおそらく俺の実家の方でも反対されることはないだろう。心配はされるかもしれないけれど。
子供を育てる状況や感情というのは、人それぞれだ。
皆、それぞれが事情を抱えている。
どう考えても問題があるというならまだしも、そうでもなければ強制されるようなことでもなければ、決まっていることでもなかった。
もともと俺が済んでた家は早々に引き払って、荷物は全てロディスの家へと運び入れた。
ロディスの家とはつまり、伯爵家の本邸である。
ごく一般的な、庶民と大差ないアパートの一室に納まっていた俺の荷物が納まらないはずがない。
私室だと与えられたロディスの隣の部屋の一角に、場違いにもこじんまりと固めておいてある。
荷解きなどは必要な時に、必要な物だけしていけばいいだろうと考えていて。どうせいずれ出ていくのだから、あまり散らかさない方がいいだろうと思った部分もあった。
寝起きするのに必要な物以外、俺はそもそもあまり荷物と言えるようなものを必要とはしていなかった。
無趣味と言ってもいいだろう。
本などは職場の図書室などに行けばいいし、魔法や魔術の研究も職場で出来る。
家など本当に、身支度を整えたり、食事をしたり寝る為だけの場所。
元々衣装など社交で必要なものは実家にあるまま、自分の家には置いていなかったので余計に。
ちなみに実家に連絡を取ったなら、母親は、
『へぇ?』
などと、もの言いたげな反応の後、
『わかったわ』
と簡単に頷いて、ただ、
『別に反対もしないし、貴方の好きにすればいいとは思うけど、ああ、でも、隣でお父さんが嘆いているから、近々一度、顔ぐらいは出しなさいね』
とだけ言われ、首肯した。
これはもしやロディスと一緒に、ということなのだろうかと思うと大変に気が重い。
多分流石について来ない、などと言うことはないとは思うが。
ホソバトゥエ伯爵邸に勤める者は、初めから変わらず皆よくしてくれているし、出勤も出来るようになって、暇も持て余さないし、不自由も特にない。
仕事の調整だって、特に咎められることもなく。
敢えて言うなら、余程ロディスが無理を通していたのだろう、ロディスが率いる、第二部隊の隊員たち数名からは何故だか感謝されたのだがそれはそれとして。
魔術士団は、別に理不尽なことを要求されるような組織ではないし、ナウラティスではごくごく当たり前のことなのだが、急に子供を成してしまっただとかいう場合にも、臨機応変にいくらでも相談に乗ってもらうことが出来た。
否、初めからそうすればよかっただけなのだ。
それを、なぜ、あいつは。
相談相手となった団長は今回のロディスの対応に頭を抱えていたが、俺が強制的に休まされていた間、大きな問題が発生したわけでもなかったので特に咎めたてたりもしないらしい。
この対応の甘さも、ナウラティスらしいと言えばそうなのだろう。
誰かの悪意や害意が差し挟まれないということは、こういった際にも、目立って処罰などされないということと同義なのである。
俺が望めばまた別だったのだろうが、俺も構わないと飲み込んだ。
過ぎたことはもういい。
今は出勤できているのでそれでよかった。
流石に同じことが二度起こったなら、そんなわけにはいかないだろうけれど。
ロディスとの役割分担のような物も上手くいっている。
書類仕事は俺の方が多めに。
何故だか時折、第二部隊の機密事項のような物ではないだろうかと言いたくなる書類も混ざり込むことがあるのだが、別に対応できないようなことではなかったので、何食わぬ顔をして処理してやった。
おかげで以前より、必然第二部隊について詳しくなったが、それも想定の範囲内という物だろう。
代わりにと割り振られた、俺の分の見回りなどの実務仕事も、ロディスは上手くこなしているようだった。
魔の森で発生した魔獣の討伐などは、むしろ鬼気迫る勢いで、一人でこなしてしまったのだとか。
いったいどういう心境だったのか。俺にぶつけられない苛立ちを魔獣にぶつけでもしたのだろうか。
どうでもいいと触れないでおいた。
そうして一ヶ月も経つ頃には色々とすっかり落ち着いてきて、俺はほっと僅かだけ、安堵の息を吐くことが出来た。
なんだかんだ結局実家には顔を出せていないので、近々予定をすり合わせなければな、などと思っていた矢先の出来事だった。
特に何も予定などないある日のこと。
隊長室で目の前に摘まれた書類に目を通していたら、躊躇いがちのノックの後、サーラが、あまりよくない表情のまま顔を見せた。
「隊長。面会希望の方がいらっしゃっていますが」
続けて伝えられ、俺は小さく首を傾げる。
「面会?」
特に来客の予定などなかったはずだ。
いったい誰だというのだろう。
訊ねるとサーラはなんとなく嫌そうな顔をして、だけど隠さず伝えてくれた。
「ダリティネ子爵令嬢の、アンリセア様です。ロディス隊長ではなく、リティ隊長にと……」
「アンリセア嬢……」
耳にした名前に俺も思わず眉を寄せてしまう。
俺も知っている人物。
『……――、これ以上ロディス様にっ、――……』
耳に蘇る幼く甲高い声。
ダリティネ子爵家のアンリセア嬢。
それはロディスが懇意にしている女性の名前だった。
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