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第四幕
4-3・老婆
しおりを挟む何処に向かっているのか、なんて、聞ける雰囲気ではなかった。
ましてや、会わせたい人が誰なのか、なんてことも、聞けるはずがない。
俺が出来るのは、前を行く少女を見失わないようについていくことだけ。
煙るような雨は霧となって、ひどく視界を悪くしていた。
辺りは雨の音に支配され、人の気配は目の前の少女だけのよう。
そんなわけはないはずなのにどこか、あの日、然乎さんの後ろを着いていった日のようだと思った。
此処はただの田舎町で、場所だってちゃんと、わかっているのに。
あの日と少しも、同じではないはずなのに。
やがて前方に見えてきたのは、寂れたバスの待合所だった。
辛うじて雨が防げるという程度の軒の下に剝げたベンチが備え付けられていて、そこに誰かが座っている。
誰だろう。
先程少女の言っていた会わせたい人というのはこの人なのだろうか。
どうやらそれで間違いではなかったらしく、少女がその人の前で足を止めた。
屈んで何か話しかけている。
老婆だ。
何処ででも見かけるような、特徴に乏しい老年の女性。
縮れた真っ白な薄くなった髪を後頭部で一つにまとめている。
手元には杖があって、足が悪いのだろうことが窺えた。
少女がすと脇に除けるのと同時、老婆の視線が俺へと向いたことがどうしてかはっきりと分かった。
傘の影になっていて、老婆の顔は良く見えなかったのに。
俺は少し傘を上げて老婆がよく見えるようにした。
きりに沈む視界の中、老婆と、少女と俺の三人きり。老婆の口がゆっくりと動いた。
「神様憑きか」
しわがれた声が紡いだのは、そんな言葉。
神様、憑き?
なんのことなのか。
首を傾げる俺の耳に、老婆のついた溜め息が届く。
「自覚はないんじゃな」
どういうことだろうか。
神様、と言われて、思い当たるのなんて一人だけ。
然乎さん。
この老婆は何かを知っている。なら。
「あ、あのっ……!」
「慌てなさんな」
勇んだ俺の呼びかけは、しかし当の老婆によって遮られた。
「明凪」
老婆に声をかけられて、少女が頷く。
「はい」
どうやら明凪、とは少女の名前のようだった。
少女はどうやらこの場を去るらしく、傘を差し直して歩き出す。
俺は老婆と少女とをきょろきょろと順番に見て、
「あ、あの!」
少女に向けて躊躇いがちに呼びかけた。
振り返った少女はやはり不機嫌な顔のまま
「ありがとう!」
俺は一つ息を飲んで、ようやくそれだけを口にした。
少女は俺の言葉に口をへの字に曲げ、ふんとそっぽを向いて再度歩き始めてしまう。
俺はしばらくぼんやりと、遠ざかる少女の背中を見送った。
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