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16・一方的な嵐
しおりを挟む僕としても、別に何も何事もなく過ぎていくとは思ってはいなかった。
何せ僕は想定外にも早く、王妃となったのだ。
それも、当初の予定とは違う相手と。
いうならば俄かも俄か。自分が正しく王妃たり得ているとも思えない。
そのうちに誰か、何かを言ってくることはあるかもしれないとは考えていた。
幸い、僕の周りは優しい人ばかりで、ならそう言ったことがあるとしたら婚姻式及びお披露目の後、社交を始めてからになるのかな、だとか、そんな風に。だから。
「あの時は本当に申し訳ございませんでした。私、何も知らなくて……だってティネ殿下が、私はただ殿下のお傍にあればいいのだとおっしゃっておられたから……」
申し訳なさそうな様子を装っておきながら、どこか空々しい印象を受けるのはどうしてなのだろうか。
僕は途方に暮れたような気持ちでアレリディア嬢と対峙していた。
ひとまずは、と、応接スペースのソファに向かい合わせで腰かけて。
もともと室内に控えていた侍女が用意したお茶に、お互いそれぞれ口を付けて。先に話し始めたアレリディア嬢からは、口調はともかく、僕を敬っているような雰囲気が欠片もない。
むしろ一月半ほど前のあの、僕がティネ殿下から婚約破棄を言い渡された時に、僕を得意げな顔で見ていた様子と何も変わっていないようにしか見えなかった。
あの騒動があって、二人ともにそれぞれ謹慎を言い渡され、殿下などは部屋から出ることさえ、禁じられていると聞いている。
彼女も同じだと思っていたのだけれど。それがどうして、こうしてここまで僕を訪ねて来ることが出来ているのか。
その理由は続けて、アレリディア嬢自身の口から語られた。
「お父様からお部屋でしっかり反省するよう叱られて……私、しっかり反省いたしましたの。ですから、改めて謝罪をと、本日はこちらに来させて頂きました。いくら何も知らなかったからと言って、妃殿下には本当に失礼なことをしてしまって……妃殿下が元は子爵家のご出身で、私が侯爵家の者であることは事実でございますでしょう? ティネ殿下に相応しいのが私の方であることを、私疑っておりませんでしたのよ? ですから、あのようなことに……なんて、それも言い訳になりますわね……本当に、申し訳ございませんでした」
言葉は、正しく謝罪するそれだった。声音にも何ら不自然な所などない。なのに拭いきれない違和感が、僕にはまったくわからなかった。
悲壮感がないからなのだろうか。
元々僕はアレリディア嬢のことを顔と名前ぐらいしか知らず、彼女がどう言った人物なのかなどわかるわけがなく、この様子でも反省しているのだと言われたら、そうなのかもしれないとも思う。
判断しかねた僕はやはり途方にくれ、なんとか愛想笑いを頬に浮かべた。
「わかり、ました。謝罪をお受け致します」
そう返す以外に、何と答えればよかったのだろう。
きっと謝罪したいと申し出て、ならばと許されたのだろう、彼女がここまで来た理由はひとまず理解したし、まさか何も返さないわけにもいかない。
とは言え、許すだとかそういったことも踏まえ、下手なことを言うわけにもいかず、ひとまずは彼女の言葉を理解したとだけ、返すためにそう答えた。
の、だけど。
「まぁ、よかった! でしたら、これからは是非、親しくさせて下さいませ! すぐに茶会の招待状などもお持ち致しますわ! では、私はこれで」
「え……? あの……え? ちょ……!」
途端、ぱぁっと顔を輝かせたアレリディア嬢はそう捲し立て、僕の返事など待たず、さっと立ち上がり、止める間もあらばこそ、すぐさま部屋を出て行ってしまったのである。
「な……なんなの、いったい……」
何もかもに僕は全くついていけず、そんな彼女を呆然と見送るばかりの僕に、出来たことはただ、今夜にでもリア様に彼女のことを伝えようと心に決めることだけだった。
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