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33・浮上
しおりを挟むふと、周囲の変化に気付いた。
否、気付かないわけがない。だって満ちている。
こんなにも、満ちている。――……リア様の魔力に。
辺りにあるのは心地よく、濃い、リア様の魔力。
それが僕に分からないわけがない。
ああ、リア様。
まるで全身を、リア様に包み込まれているようだった。
それだけで、満ちて、満ちて、だから。
僕は、微睡んでいる。
ずっと、この魔力に満たされていたいと。
そうであるならばきっと、なんの憂いもないだろうと。なのに。
「ねぇ、いつまで寝てんの」
そんな声に、僕の意識は急激に浮上した。
思い目蓋を押し上げる。
視界に映ったのは誰かの足先だった。
その足先がつんと僕の方へと近づいてくる。
「った……」
微かな痛みに、どうやら僕は頭を小突かれたようだと気付いた。
とは言え、強く、ではなく軽くではあったようだけれど。
「ああ、やっと起きた? あの魔道具、そんなに威力あったっけ? ま、いいや。ずぅーっと寝てんだもん。死んでんのかと思った」
どうでも良さそうに落とされた声は、おそらくは先程僕を足先で小突いた誰かのものなのだろう。
聞き覚えがある、と漠然と思う。
否、間違えるはずがない。
だってほんの少し前まで、夢で聞いていた声と同じだ。
もっとも夢の中では浅ましく、媚びるような声音だったけれども。
自分の状況を確認していく。
どうやら僕は、床に転がされているようだった。
いったい此処はどこなのだろう。
床の感触は冷たく、おそらくは石畳。だけど、部屋中に満ちている濃い魔力はリア様のもので、それだけでなんとなく安心してしまう。
ああ、僕は大丈夫だ、なんて。何故かそんな風に思えてしまって。
ついで自分の手足に意識を向けてみたのだけれど、特に縛られたりだとかしているわけではないようだと気付いた。
ならばとゆっくりと起き上がる。
先程話しかけてきた誰かは、そんな僕の行動を、特に妨げるつもりはないのだろう、咎められたり、邪魔されたりするようなことはなかった。
だから、改めて周囲を見回してみることも出来たのだろう。
見たことのない一室だった。それなりの広さがあるように見える、壁一面を覆う石材はきっと床と同じものなのかもしれないと思う、そして。
部屋の中央、僕からすると背後側、振り返ったその先に半ば床に埋め込まれるようにして設置されている巨大な石に気が付いた。
同時にどうやらその石から、リア様の濃い魔力が放たれているようだとも知る。つまりその石は、魔力石なのだろうとも。
「ここは……いったい」
ぽつり、呟いた疑問に、はぁ? なんて、呆れたような声が落とされた。
「知らないの? なぁんだ、やっぱりユナフィアって言っても大したことないんじゃない。ここがどこかなんて、僕だって知ってるよぉ」
だからこそここにしようと思ったんだけどね。
なんて続ける声音には、はっきりと、僕を馬鹿にするような気配が含まれている。
僕など取るに足りないと、切り捨てるような悪意に満ちた声だった。
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