63 / 63
41・これからはにわかじゃない、新しい日々を
しおりを挟むひどく緊張した。だって婚姻式だ。
書類上ではとっくに、僕は王妃となっているとはいえ、お披露目するのは今日なのだから。
来ている服だって、今まで身に着けたこともないようなきらびやかなもので、動くだけで緊張してしまう。
なんだかひらひらした部分がいっぱい突いているから、どこかに引っ掛けてしまったりしないかな、とか。
正直にそう告げたら、リア様には笑われてしまったのだけど。
婚姻式自体は滞りなく済んで、リア様と、これからの日々を誓い合った。
王宮と隣接している教会で、リア様と並んで言葉を重ねたのは、だけどどこかくすぐったい幸せに満ちているように感じられて。ともすれば浮かれてしまいそうだ。
この後は一度地下の、あの結界の間まで降りて、継承も済ませてしまう予定だと聞いている。
あそこに踏み入るのは少し怖い。
でも、リア様がついていてくれるなら、きっと平気だろう。
それも終わったら、バルコニーから、国民へのごあいさつ。さらに夕方からはお披露目を兼ねた夜会が予定されている。
今日は踊らなくてもいいと聞いて、少し安心してしまった。
そもそもリア様の隣で挨拶を受けるだけでよいとのこと、今、妊娠中ゆえか、あまり誰にも触れられたくない僕は、ただじっと大人しくリア様に従っておこうと決めていた。
それでいいというリア様の言葉に甘えて。
地下へとゆっくり向かいながら、怖くはないとリア様が言う。
ナディリエ様のあのような様子を見させてしまったから、本当は結界の間自体に行かせたくはないのだけれど、仕方がないのだと。
僕は大丈夫だと小さく微笑んだ。
継承は魔力石に、リア様と一緒に触れることで成るのだそうだ。
たったそれだけ。
リア様と同じなら問題はないし、何より今、僕はリア様の子供を身籠っている。きっと負担は少ないはずだというリア様の言葉を、僕はちゃんと信じている。
また、継承によって受け継がれるのは、ユナフィアに関する記憶なのだとか。
創国から連綿と受け継がれてきたそれ。時代へと伝えていかなければならない注意事項だとかそういうものだ。
本当は前王妃様が生きていらしたら、全部教えてもらった上、確認程度となったのだろうとのことだけれど、あの部屋でナディ様が話しておられたことをお伝えしたら、だいたい概ねその通りだということだから、結局確認みたいなものになるんじゃないかと予想している。
人通りの少ない通路をリア様と並んで歩いて、地下に着く。
結界の間への扉はもうすぐ目の前だ。
リア様が窺うように僕を見た。だから僕は頷いて。
リア様が扉へと手を伸ばした。
扉が、ゆっくりと開かれていく。
僕はそれを見ながら、きっと、これからはにわかではない生活が始まるんだろうな、なんて内心で思って。決して暗くなんてないだろうこれからを思い、思わず小さく笑ってしまった。
だって、隣にリア様がいるから。
もう、僕は、それだけで。
Fine.
52
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
どんどん色々な事が判って来てドキドキ展開です💓凄く引き込まれます✨更新も沢山有り嬉しいです👏👏
ですがくれぐれも身体に気を付けて下さい😊応援してます💪
感想ありがとうございます!
もう終わり、なので!頑張ってまぁーす!
朝までの完結をめざしてます〜!
もう少しだけお付き合い頂けたら嬉しいです♥️
謎が謎を読んで居て 更新が楽しみです🤔✨イーフェが早く安心出来る様になりますように🙏
ありがとうございます、がんばります〜!
26話 「女官は妙齢で」とありますが、妙齢とは若い女性のことを表現する言葉です。
文脈から鑑みるに、彼女は中年層かなと思うのですが……🤔
主人公ちゃん、王妃で身重なんだから、少しでも不審な言動があったら周囲に相談しないと。
自分の立場の重さを理解してない感じするなぁ。
まあ、これがフラグとは解っていても、報連相大事!と耳タコな社会人からすると、ちょっとばかりイライラしますね。
あと、陛下も知ってて泳がせてるのか…。その辺気にしつつ、先を楽しみにしております。
感想&ご指摘ありがとうございます〜
一応、「妙齢」と検索をかけて出てくるgoo辞書などで「[補説]近年、〜」となっている方のイメージで使用しましたが、確かに正確とも言えず、イメージしづらかったかもしれませんね。
と、言うことで後ほど修正しておきます〜!具体的には「妙齢 に見える 中年」に!
主人公はおっしゃる通り、自分の立場的なのを理解してない、自覚してないところがあります!
「自分に自信がない」って言うのもあるかなと……
あと、現状描写してませんが、王太子妃教育を受けている時の扱いが時折良くない時があったというのもあります。
楽しみにしてくださってるとのこと、ありがとうございます!
引き続き頑張ります〜!