ヴァーチャル・ラブ ~いつもあなたを好きでした。~

楠瀬 飛鳥

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本編

日常の中の非日常

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僕はシェアオフィスでワークする30代、独身で母と二人で都内に暮らしているどこにでもいるような普通の男だ。家族や幼馴染からは“修”と呼ばれているが、下の名前で呼ばれることを幼少時からあまり好きではなく、学生時代の友人や仕事関係者からは苗字やニックネームで呼ばれている。多趣味な方ではあるが、基本的に単独行動する物事にしか興味がない。ここ最近では、出会い系で知り合った唯との会話が夜の日課になっているが、いつその関係が消えてなくなるのかも、もう一人の自分が冷静に理解している。

そして、初めてチャットしたあの日から1~2日のペースで、唯と文字で会話を続けている。時間を忘れ、日々の出来事を話していく。仕事のこと、友達のこと、今日食べた食事のこと、本当にたわいのない話だが、飽きることはない。その中で少しづつ、唯の人となりを勝手に妄想していく何とも充実した時間だ。霧に包まれた唯が段々とモザイク状になっていく、もっと見たくなるような見るのが怖いような感覚だ。好奇心が止むことはない。

そんな夢うつつの状態を数日過ごしたある日。

『夜、メールしていい?』と珍しく午前中から、唯のメールが届いた。
『もちろん!20:00以降なら帰っているから。』とレスをしたが、どうして午前中からオファーがあったのか、モヤモヤしながら業務を終えて帰宅した。

20:15、唯からメールが来て、結局はチャットすることになったが、一向に唯からの入力がない。

『何があったんだろう。』
『どうしたんだろう?』

何かを切り出すために、ためらっている時間のように思えた。
話したくても、話しづらいこと、、、どう切り出すかで顔を知らぬ相手からそっぽを向かれない一言。それを探しているのか? 

『今日の昼ご飯、何食べたの?』
第一声がこれ? 

『あ!事務所近くの定食屋で唐揚げ定食を食ったよ。』
『あ、、、そうなんだ。 私は、先輩と会社近くのカフェでパスタ食べた~。』

ん? 何か変だ。
『それでね。。。』
と一方的に、唯の文字がディスプレイに津波のように現れていく。まるで僕の発言を阻止しながら、言いたいことだけを言う!という、まるで子供が親に今日の出来事を一生懸命に報告しているようにも思えた。

そこで、僕は
『唯、どうした?』
と投げかけた。何を聞いて欲しいのか、本当の内容は今日の出来事ではなく奥に秘められていると感じたからだ。電話でもメールでも、チャットでも、無言の怖さを知っているが、これを超えないと先には行けないことも知っている。

『もういいよ。』

一瞬、目に飛び込んできた文字の意味を把握できないでいた。「え?どういうこと? 『もういいよ。』って、何を?」

唯!お願いだから、何か言って欲しい。このまま終わりになるのなんて、ダメだよ。

『お願い!神様、 僕の言葉を、気持ちを、唯に届けてください! 唯、僕の心に気づいて!』

スマホをタッチする指が焦りで上手く動かない。自分でも思っていた以上に唯が僕の心の中に侵食していたことに気づいた。

早く!口で話すのと同じスピードで僕の言葉を文字にして。。。
『もういいって、僕、何か気に障ること言った?』

レスが来ない。

『今日は、これ以上、話したなくないなら、また別の日でも良いけど。』

、、、。

『そういうことじゃないの。』

この間の時間が、もの凄く長く感じる。

『唯が話したくなるタイミングでいいよ。』
『ありがとう、いつも優しいね。』

僕はこの“優しい”という言葉が嫌いだ。何か、自分の意志はなく相手に合わせていたり、または良い言葉が見つからない時に使う“魔法の言葉”だと思っているからだ。

『何を聞いても、私のこと嫌いにならない? 今までのように会話してくれる?』
保険をかけるような切り出し方に、若干の緊張感が走る。

過去を振り返ると出会い系で知り合った子は、ある程度のところまで時間が経過すると“真の顔”を出し始める。
彼氏の存在、借金の要請、画像・年齢詐称の告白など等。
ある程度の経験はしている。こっちも予防線を張りたい。

『ん、、、。内容によるけど、先に言うと・・・』
と先にNGな内容を羅列していった。

『あ!そういうんじゃないの。』
ちょっと拍子抜けしたが、緊張したままで画面に釘付けになった。

『ちゃんと話した方が良いと思って、、、。』
『あの、、、私、強姦されたの、昨日。』

「え? そんなこと知り合ったばかりの人に言う? ってか、強姦ってそんな簡単に起こるか?」と思っていると唯は、堰を切ったように、起こってしまった出来事を文字にしていった。
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