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本編

遠距離

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今日は、朝からアポイント。
しかも非常に堅い話。
朝から憂鬱だ。
「国際交流」くそくらえってな感じだ。

一通りのミーティングと事務処理を終えたのが、PM16:00。
煙草でも吸いにでも、とベランダに出た。
とても天気が良いことに気付いた。

『こんな日は、仕事なんてしてないでフリマでもしてぇ~な。あ!唯にメール打とう!』
今の気持ちをそのままメールした。唯から返事が来たのは、PM18:00ごろだった。
きっと、唯もひと休みなのだろう。
でも、このメールに後で、気持ちを錯乱させられるとは思ってもみなかった。
昨日は珍しく僕の方が唯より先に寝た。
今日のアポイントのためだ。
唯はどうやら、寝付いた僕の隣で、もぞもぞしてたらしい。

「修が先に寝たから隣でしちゃいました。それもだいたんに****を!」
「なんだ?****って?」頭の中が???でいっぱいになった。

トイレに駆け込む。
メールをするためだ。

思い付く4文字を書いていった。
半分冗談混じりのものも含みつつ。。。

自分で書いておきながら、唯は恥ずかしがって、本当のことを教えようとしなかったが、「おもちゃ」であることは、大方の想像は付いた。

照れ隠しからか唯が、MISTAKEを臭わす返答をしてくる。
なに~、一番笑える組み合わせを返してみる。

『ベランダでふんどし?』
『もう~。』
という唯の声が聞こえて来そうだった。その勢いか唯が白状した。

やはり、僕が最初に予想した通りだったらしい。。。僕は、我に帰った。唯がおもちゃを、、、。
その淫らな光景を思い浮かべた訳ではなかった。
唯は、『修をもっと感じたくて、、』とさっき書いてきた。

沸き上がる思いをかき消すために。
『そんなもの、いつ、どこで買ったんだよ!』
この文字が精一杯だった。

打った後に一気に想いが込み上げてきた。そんな気持ちを知らない唯から返事が届く。
その当時付き合っていた奴の要求に答えるためにそれを購入し、練習をしたのだと言う。
このメールを読んで、一気に抑えていたものが吹き出し、止まらない。
後から後から溢れ出てくる。もう会社には1人だ。
でも、僕は人に見られたくない一心でトイレに駆け込んだ。

『唯ぃぃ。。。』
溢れ出てくるもので、スマホのディスプレイが霞む。
そんな中で僕は、唯への気持ちを文章にならない文字を羅列していく。

『あんなメール送ってくるから、涙が止まんなくなっちゃったじゃんかよ。唯を満足させて~よ~。今の僕が一番してあげたくて、一番してあげられないことだぁ~。悔しいよ~。涙が止まらないよ~。そんなもの、使わなくても唯を満足させてあげたいよ~。僕、どうしたら、いいんだよ~。』

今になれば、30歳を超えた、いい大人が何を言っているんだろうとも思えるが、沸き上がる感情を抑えることができなかった。唯が僕を想えば、想うほどに唯の欲が深まる。

でも、僕は遠く離れた所にいる。
そうしようもないのだ、、。
唯は若い。
その欲望を抑える方が残酷なのだ。
僕が。。。唯を追いやっているような気さえした。

もし、唯が同じ街に住み、唯のことを誰よりも想ってくれる人がいれば、唯も、、、、。
そんなものに頼ることなく、満足のいく方法を取ることが容易くできるのだ。唯、、、、。
僕と知り合ってしまったがばかりに、、、。もう、にじみ出ていたものが嗚咽とともに流れ出してきた。

自分以外のことでこんな状態になったのは、何年ぶりなんだろう。

こんなにも唯のことを想っている。自分のことよりも唯に寂しい想いだけはさせたくなかった。
なのに、、、。僕は、、、、。

暫くの間、僕の自問自答は続いた。その間にも唯からのメールがやってくる。
僕のせいではないと一生懸命に問いかけてきてくれる。それがまた、いじらしく思えてならなかった。

僕を突き動かしているもの。
僕の活力になっているもの。

それは、まぎれもなく唯だ、今もこうして訴えかけてきてくれる唯なのだ。
唯を幸せにするためには、こんな所で閉じこもっている場合ではない。そう思えてきた。
僕は、前に進まなくてはならないのだ、僕のためにも唯のためにも。。。

いつもの笑える奴になろう!と体制を戻した。唯、待ってろよ!
そんなものよりもきっと、唯を満足させてやるからな!と決心して仕事に戻ったのだった。
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