皇帝陛下、私と結婚しないでください。~婚約者から専属騎士になりました〜

瑚珀

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 「…ご機嫌よう」

6歳の頃から写真として見続けてきた少女が、
今、本物が…目の前にいる




朝焼けのように淡く柔らかいライラック色の髪、

オリーブ色の瞳に目尻側が長いまつ毛、
少しつり上がってるように見える目だが、威圧感などを一切感じさせない

小さな鼻に柔らかそうなピンク色の唇

そして、鈴を転がすような声を持つ


写真よりもずっと美しい少女



僕の婚約者、エラ・スワン・クラーク侯爵令嬢だった





彼女をスマートにお迎えできるよう、予定時間よりも早く席に着き、

そわそわとしていたイーサンは

突如目の前に現れた蜂に驚き、逃げ惑い、

生垣の陰にうずくまっていた。




…よりにもよって、好きな人に恥ずかしい姿を見られてしまった…


幻滅しただろうか、情けなく思っただろうか…

彼女の心が分からず最初は不安だったが、

話すうちに共通の趣味や話題をみつけ
益々彼女に興味が湧いた

すると彼女が、


 「ところで、イーサン様、先程はあんな所で何を…?」


先程…蜂から逃げたあの時だろう

恥ずかしさに顔が熱くなった。


視線を逸らし、ことの経緯を話すと沈黙が流れた



ちらと彼女の様子を見ると、

丸い瞳を、眼球が飛び出てしまいそうなほど一層丸く見開き

頬を染めていた。


想像した反応と違い、戸惑うイーサン

すると、彼女が勢いよく立ち上がり
こちらへ歩んできた。

ゆっくりと膝をつき、イーサンの手を掬い、
言い放つ


 「イーサン皇子、私と婚約破棄してくださいませ」




10際の僕でも分かる、婚約破棄という言葉に

頭が真っ白になった。

周りの大人たちも混乱しているようだった。

僕が、なにかしてしまったのだろうか…
寂しさをつい口にだしたイーサンだったが、エラは真っ直ぐに彼を見つめ、

 「必ずまた会えます」
 「貴方の右腕となります」

と言った。

真剣な眼差しに、今、彼女に何を言っても事態は収束しないだろうと直感したイーサンは

父である皇帝に話すと言い、その場を収めた。






 「ほぉ…侯爵令嬢がそんな事を…」

皇帝は息子の話に興味津々だった。

 「イーサン、お前は婚約破棄を受け入れるか?」

 「僕は…」



諦めたくない。

4年間も想い続けてきた人を、そう簡単に諦められない。



 「エラ侯爵令嬢と、結婚したいです」


 「流石我が息子だ」





それから数週間後、彼女の噂を耳にした。


『侯爵令嬢がクラーク騎士団に入団し、家業を継ごうとしている』


皇室の盾であり剣でもある、由緒正しき騎士の家系であるクラーク家

強者揃いで屈強な団長が率いるクラーク騎士団


その騎士団に、あの10歳の愛らしい少女が受かった?


 「…右腕になるって、そういう事か」

あの時の彼女が言わんとした事がわかり、
ふっと笑うイーサン。


 「父上、お願いがあります」

 「申してごらん」

 「クラーク騎士団から、将来僕の専属騎士を務める者を任命させてください」

 「…これまた大それた申し出だな」

 「無理を承知でお願いします。」

 「…誰を任命するのだ?」

真っ直ぐ皇帝を見据え、力強く言い放つ

 「エラ・スワン・クラーク侯爵令嬢です」

息子の真っ直ぐな想いに感服した皇帝は

快く頷いた。






 ー8年後ー
デビュタント

手紙でパートナーを申し込んだエラは会場にいるだろうか?

もしかしたら、直前になって迷惑に思い来てくれていないかもしれない…

ただでさえ戴冠式を執り行う事に不安でたまらないイーサンに、更なる不安が押寄せる。



「皇帝陛下、イーサン皇子のご登場です」

勢いよく開く扉
父と並び会場へ入るイーサン

煌びやかに飾った会場に、豪華な衣装を身に纏う貴族達

右から左へ視線を移していたその時、


 「…いた」


隣にいる皇帝にだけ聞こえるほどの小さな声で呟くイーサン


彼女の髪に合わせたような淡い紫色のマーメイドドレスには

誇張しすぎない程度に華やかな刺繍が施されていた

サラサラの長髪は緩く巻き、編み込まれ、
エメラルドをあしらった宝石の髪飾りを身につけている


 「エラ…」


最後に会った10歳の少女から、美しい大人の女性に成長していた。


早く、早く彼女の元へ…


パートナーであるイーサン以外と踊らないよう、
会場の隅の壁に寄りかかるエラ


そんな謙虚な姿も愛おしく、心做しか歩み寄るイーサンの足は早くなる


するとそこへ

 「クラーク侯爵令嬢」


あれは…アンバー公爵令息…

愚かにも僕のエラにダンスを申し込もうと言うのか…?

嫉妬に狂いそうになる心を落ち着かせ、2人に近づく


 「失礼、公爵令息」


声をかけると、ぱっとこちらを見上げるエラ


彼女の顔から驚きと安堵が見られる…なんて愛らしい人だ


 「…イーサン様」

声までも艶やかで愛おしい


 「彼女は僕のパートナーだ」

『立ち去れ』と眼圧で令息を制したイーサン




あぁ…この8年間、どれほど会いたかったか


僕の手を取り優雅に舞う想い人を愛おしく見つめ、

彼女の手から伝わる熱を感じていた


曲が終わり、自然と離れる手

戴冠式に行かねば。

名残惜しく、彼女の手の甲にそっと口付けする…

すると彼女は、

 「見守っております」



母のような温かく優しく、力強い眼差しで、
イーサンを見つめるエラ


 「頼もしいな」


僕の想い人

美しく、強かな女性だ

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