神縁の申し子はその目で何を見る

ボンディー

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第一部第二章幼児期編

第十一話【何かちょっとおかしい】

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あの後真面目に授業を受け、やっと自由時間が出来た頃。(と言っても時間にして1時間程度である)アインスは新しく選んだ小説を持ってきていた。

「さて庭とは言え広いしどこにするか迷うなぁ」

 早速本を小脇に抱えて太陽の下に顔を出す。

「出来れば試し撃ちできるところが有ると良いなぁ」

 探すのは少し大きめの岩が有り、ギリギリ人目につかなそうな場所。理想の場所を探すこと10分、それなりに良い所を見つけた。

「よし、ここなら屋敷から俺がここに居るのが解っても何をしてるのかまでは解らないだろ!」

 そこはちょっとした丘の上に大きな木が数本生えており、丘の反対側には大きめの岩が幾つか転がっていた。

「それに何をしてるのか聞かれても日向ぼっこしてたって言えば皆んな納得してくれそうだな」

 時間帯的にまだまだ余裕があったので、そのままそこで小説を読むことにした。タイトルは『異国の勇者』と書いてあった。

「この本面白そうなタイトルなのに何故かめちゃくちゃボロボロになってるし本棚の奥の方にあったんだよなぁ...ってか英雄系の本やっぱり有るじゃん」

 両親は以前アインスに対して読んでいた本のタイトルを聞いた時、忘れていたのか分からないが英雄系の本なんか家に無いと言っていた。

 そんな感じで突っ込みたい気持ちもあったが時間を忘れる様にその本を読んでいった。

「うんまぁ...面白かった!疲れたけど」

 結果から言うとよくあるテンプレートな転生勇者の物語だった。

「触ったらなんでも兵器の使い方が分かる訳でも無いし、使えない女神が付いてきた訳でも無いし、転生して来たのはスライムじゃ無くて人だった」

 強いて言えば王道な感じの"日本人達"が主人公だった。何故そう思うのかと言うと、そもそもこの世界では黒髪がかなり珍しく、死神の使徒と呼ばれ差別されることが多い。そんな中異界からの勇者は黒髪黒目で、何の素材か解らないがとても良い生地で出来た服を皆着ていたらしい。そして極め付けに、"食事の前後に挨拶をする"、"直ぐに謝るなど腰が低過ぎる"、"皆若く学生と同じ年齢かそれ以下に見える"など書かれていた。

「これは十中八九日本人学生だな」

 今まで既に4回勇者が来ており、来るパターンは何個かあったが恐らくゼウスの仕業で有ることは容易く想像出来た。

「でもアイツたしかあの時招くのはお前が初めてみたいな事言ってたよなぁ...勇者と直接会ったことは無いっていう意味なのかな」

 ゼウスの言っていた"招く"と言うのは、あの真っ白な空間に関してなのかも知れない。

「やっぱりアイツ何かちょっとおかしいよなぁ」

(もしかして俺良い様に利用されてるだけなんじゃね?いやもしそれが本当ならこの考えすら見られてたらヤバいのでは...)

 こんな感じで考え続けた挙句出た答えは

「とりあえず鍛えておいて損はないだろ」

 その答えに辿り着くと途端に腹が減って来た

「さて明日から頑張るか~」

 ゼウスに対して未だに微かな疑問を浮かべつつアインスは沈みゆく太陽を背にぼちぼち屋敷に帰って行った。しかし

「アインス様!御夕飯の準備がそろそろ出来ますので少々お部屋でお待ちください」

 仕方なくアインスは屋敷のメイドに言われた通り部屋に本を置きに行き、魔術本①を開き眺めていた。

「流石に部屋ではやらないけど地味なやつが多いなぁ」

 書いてあったのは生活級で、指先からジョウロ並の水が出るなど、戦闘には使えそうも無いものがほとんどだった。

「明日は魔法本①も持って行くか」

 明日のことを妄想していると、遂にノックと共にアスターの声が聞こえてきた。

「アインス様~御夕飯の準備が出来ました」

「今行くよ」

 返事と共に食卓に行き、夕食を食べた。そしていつもの様に食後は家族で団欒をした。

「アインス!いよいよ明日から特訓だからな!しっかり寝て準備しておけよ?」

「アインスも頑張って最低でもAランク冒険者ぐらい強くなるのよ~」

「奥様、アインスは貴族になるのでは?」

「私達みたいにどっちも成れば良いのよ!」

「アインスは俺の子だ!きっと強くなるさ!」

「うん!頑張るよ!」

「まぁ無理せず出来る範囲で頑張ってください」

「ところでアインス本の名前わかったのか?」

 いつものパターンだが今回は違う

「これこれ!この本だよ!」

 そう言ってアインスは昼間読破した本を見せた。

「なっ!それはっ!あ、あぁ...あー懐かしいなぁ」

「あらあらまぁ...よくそんな古い本見つけたわねぇ」

「これは...旦那様の本ですか?」

 アスターすら知らないらしい。

「あぁ俺も昔この物語に出て来る勇者に憧れてたんだよ」

「実際にこんな変な人居るわけないのにねぇ」

「え?これ嘘なの⁉︎」

「そうだよだからそんなの早く忘れて強くなろうなぁ」

(え⁉︎あんなに具体的な内容だったのに嘘?それに特徴とか完全に日本人だったのに?それに父上がわざわざ忘れさせようとしてるのも気になる、ここは子供らしく質問攻めでいこう!)

「何で忘れなきゃいけないの?」

「とにかく勇者と同じ道は辿っちゃダメだ!」

「アインス...これだけは絶対守ってね?」

「う、うん...分かった...よ」

 いきなり両親が真剣な表情になったため、子供らしく質問する作戦は失敗と判断、とりあえず言うことを聞いておく事にした。

「うむ、では明日の訓練に向けもう寝なさい」

 その後アインスは去り際にアスターから応援を受け取りながら、明日から始まる特訓に備え、しっかりと睡眠をとることにした。

「アスターあの本が何処にあったかわかるか?」

「いえ...ナズナ知っている可能性はありますが...私は少なくとも初めて見ました」

「そうか...」

「旦那様、あのボロボロの本は一体...」

「あれはあってはいけない...存在してはいけない過去の物語よ」

 アスターの疑問にコルチカムのかわりにサルビアが答えた。
しかし、やはりそれだけでは納得していない様子のアスターだったが、流石にそれ以上聞くのはやめた。

「アインス勇者にだけはならないでくれ...」

 そのコルチカムのつぶやきは静かに消えていった。
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