パワード・セブン

絶対に斬れない刃

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第一章

パワード・セブン 第一話

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十年後のとある空港。
その場所に青年はいた。
青年は手では持てない重さがあるのかトランクを引き摺っている。背中には大きなリュックサックを背負っており、どこかへ旅行に行くような風に見える。学生服を軽めに着崩している辺りはどこかの学生の様に感じられる。青年の様に制服姿の格好が見える辺り、纏まっての旅行、どこかへと修学旅行へと向かうのだろう。
「あー、これからだってのに。はしゃいじゃって、まー。困ったもんだぜ。」
青年は同じような学生服の他の青年たちと少女たちの姿を見て、嘆息を吐くように呟く。そう言っている青年の肩に他の青年が肩を組むように手を伸ばす。
「なーに、黄昏てるのよ、柳宮。」
「黄昏てはねーよ。どこをどう見たらそう思うんだ。」
柳宮と呼ばれた青年は、肩を組んできた青年に文句を言う。
「いや。でもな、他の連中と比べて、テンション低いぞ、お前。」
上げてる方なんだが。」
柳宮の言葉を聞いて、青年は驚いた顔をする。
で上げてる方なのかよ。それこそ驚きだ。」
「言ってろ。」
青年は柳宮に呆れたのか柳宮から離れ、別の青年と話そうと思ったのか、別の方へと歩いていく。
テンションが低いと言われるのは幼少期からよく言われる言葉ではある。まぁ、気分の上下を表情に出さない父がいるから、その影響を受けたのかもしれないのだが。そんな父に言われたことをふと思い出した。

『勇一、ちょっといいか?』
『何さ、父さん。今、急いでるんだけど。』
『いや、今日の修学旅行な。嫌な予感がする。』
『やめてよ、父さん。父さんが言うと、本当になるんだから。』
だろう?』
『そので何回死にかけたって思う息子の気持ちを考えたことあるのかよ?』
『ああ、暴走トラックが車線を越えて突っ込んで、車がスクラップになった時のことか?あれは驚いたな。まさか折角休暇が取れて家族旅行に行こうとした初日に事故に遭うんだから。ハッハッハ。』
『笑えねーよ。まぁ、父さんがに備えて、軽くしてくれなかったら、俺もスクラップだったけど。』
『大丈夫だ。その時は、車が大きな紙飛行機になって、避けているだろうから。』
が冗談言ってるように聞こえないんだから、不思議なんだよな。』
『ハッハッハ。良いことだ。』
『良くねーよ!!』
『それで修学旅行だったな。最近、海外の方では八弾式に分裂するミサイルで戦闘機が落とされるという話をよく聞く。』
『八弾式?』
『ああ。四弾式に分裂するミサイルなら簡単に避けられるんだが、八弾式だと、避けられん。』
『避けらるのかよ。』
『熱源なり、機体なりを分身させて避けられる、分身回避法だ。それなりの準備がいるが。』
、普通に凄くない?』
『凄くはないな。の対抗処置がとられている以上は、出来んことだ。』
『そうなんだ。それで?』
『ああ。一応、嫌な予感がしたので機体にをしておいた。』
って、マジかよ。』
『ああ。幸か不幸か、という名前はの効力を持つ。違う機体を使おうとも、私の一言で、使うしかないだろうな。』
『そうだったのか。なんかクラスからの視線が期待込めてる様な目が多いのは父さんが原因か。』
『厳密には、何代も前なんだが。まぁ、そのおかげで、今生きていられるんだ。いいじゃないか。』
『よくねーよ!!』
『まぁ、何か起きても手は一応打ってある。安心して楽しんで来い。ああ、土産はいらんぞ。』
『買って来いってか、父さん。』
『そう聞こえるか?別に気にせんで構わんぞ、ハッハッハ。』

そんな会話をしてたなーと勇一は父との会話を思い出していた。修学旅行での行先は海外であり、父が話していた例の『八弾式分裂ミサイル』は海外で使用されているらしい。それも正規軍ではなく、テロリストなどといった野蛮な連中が、使うらしい。
であれば、遭遇する確率はかなり高い。撃墜率ほぼ百%で父でさえ完全に避ける自信はないらしい。父から自信がないなどとそんな言葉を聞きたくはなかったのだが、一応のことを考えていった要るのだろうと勇一は考える。まぁ、それでも手は打ってくれているらしい。それを聞いて少しは安心した勇一であった。
そんな様子の勇一たちを乗せて飛行機は飛び立つ。
勇一の父が危惧していた『八弾式分裂ミサイル』で武装したテロリスト集団に撃墜され、生存者ゼロというニュースが日本に届くのは数時間後のことであった。







それから、数か月後。
破鋼高等学校はがねこうとうがっこうという学校の前に、制服に身を包んだ勇一がその門の前に立っていた。
事故により、勇一は死んだであったのだが、勇一は二本の足で立っており、勇一の姿は薄れてもいない。幽霊でもなければ、幻の類でもない。
勇一はにいた。
勇一はふと周囲を確かめるように周りを見渡し始める。
破鋼高等学校はがねこうとうがっこう・・・・・・・・・・ここだよなぁ。こんなすごい名前の高校ってここしかねぇよなぁ・・・・・・・・。」
嫌だなぁ、と悩んだ様子でぶつぶつと独り言を言う勇一の耳に、声が届く。
「離してください!!」
「・・・・・・・・・あっ?」
何事かと疑問に思った勇一は声が聞こえた方向へと視線を向ける。すると、そちらには今はもう見ることもないであろうとしか思えないいかにもといったお嬢様な格好をしている少女とその取り巻きと見える同じくの私金持ちですよ的なアピールをしている少女とその取り巻きその一とその二の四人組が一人の少女の手を掴んでいる。その様子を見て、勇一はおいおい喧嘩か度胸あるな、と見物人の気分で様子を見ていたのだが、少女の顔にどこか見覚えがあるなと感じた瞬間、走り出そうとした自身の気持ちを落ち着かせる。
その少女は幼き日を共に過ごしていた仲良しな友達であった。父からの言葉が勇一の足をその場に踏みとどませた。
『いついかなる時でも、気持ちの赴くままに行動してはいかん。時には気を落ち着かせ、周りの状況を把握しなければいかん。それで、自分にとっての大切な誰かが失う事もある。・・・・・・たとえ話だがな。』
たとえ話だと言った父の横顔はどこか懐かしさを思い出した様なそんな印象を勇一に持たせた。たとえ話だと父は言ったが、勇一はそうは思わなかった。きっと、父は大切な誰かを失ったからそんなたとえ話を引き合いに出したのだろうと勇一は思った。故に、勇一は走り出そうとする足を地面に縫い付けて、少女と四人のの方に目を走らせた。
「おーほっほっほ、離しませんわ!この破鋼宮子に身体をぶつけておいて、ただで済ませるわけにはいきません!綾子!」
「ハッ!宮子様!」
「私に身体をぶつけたのはこの女ですわね?」
「ハッ!間違いございません!宮子様に当たるようにわざとぶつかったように私には見えました!」
「ほら、見なさい!」
「歩いていたら、貴女が当たって来たじゃないですか!」
金持ちですよアピールをしている少女は同じくの少女、破鋼宮子(本人曰く)にそう言っていた。その様子を見て、勇一は中のかよ不味いな、とその会話を聞いてそう感じていた。だが、少女は勇一の知り合いである。見て見ぬ振りも出来るが、それは出来ない。
『男なら、やる時はやるものだ。は加減するな。全力で対処しろ。それくらい容易なはずだ。・・・・・・・・・・・男の子だろう?』
そう言って、普段笑わない父が勇一に対して笑った顔が勇一の脳裏に浮かんだ。前に歩き出そうと踏み込もうとしたその瞬間、勇一ではない外野にいた誰かがその現場に踏み入れる。
「それは私も見てたっすよー!」
「誰っ!?」
短めに切られたオレンジ色の様に赤みを帯びている髪を風に揺らして暑いのかどうかは不明だが、女子制服を脱いで夏には少し早い半袖の格好をした少女が踏み入れる。
「空ちゃん!?」
「うっす、翼。で会うとは思わなかったっすよ。」
「この女の知り合いですのっ!」
「あー、そうなるっすかねー。」
の宮子の言葉にどういったものかな、と空は軽く頭を掻いてみせる。その空の行動に触発されたのか、他のところから声が聞こえる。
「は~い!私も見てたよ~!」
そう声を出した少女を宮子たちにも見える様にと人混みが割れる。そこにいたのは、濃い緑色の髪を後ろで結んだ格好をした少し気が緩んだ様子の少女がいた。
「のどかちゃん!?」
「二人ともやっほ~。いや~、朝からに遭うとは運が付いてるんだか付いてないんだか、難しいね~。」
「それは言わないお約束っすよ、のどか。」
「そっか~。私、空と違って勇一君と特撮系見てなかったんだよね~。見てたのアニメくらいでさ~。だから、はちょっとしか分からないな~。ごめんね~。」
「気にしないっすよ。勇一も言うと思うっすから。」
「そっか~。空は優しいね~。」
「褒めないでくださいっす。」
「褒めてはいないでしょう!!」
気が緩んでいる様子ののどかが入ったからか、一気に場の空気が緩みそうになったところで宮子が起こった様子な声を出す。だが、また新たな声がその場に響く。
「アタシも見てたぞ!」
そう声を言いながら、短く切った様子の青い髪を揺らしながら、空と同じような夏ではないのに夏の様に半袖の格好で男性が踏み出すような歩き方で一人の少女が現れた。
「涼子ちゃん!?」
「よっ。三人とも久しぶりだな。」
「うっす、涼子。元気そうでなによりっす。」
「やっほ~、涼子ちゃん。どこでどうしてそうなったのか、訊きたいんだけど~。」
「気が付いたら、こうなってたんだ。気にすんな。」
「放ってくれませんこと!?」
「あぁ?別にいいだろうが。・・・・・・・ったく、お嬢様ってのは面倒だぜ。」
「そうね。」
「うわっ!!」
挨拶を交わし合って、場の空気が変な具合になり始めたのを仕切り直そうと宮子が大声を上げて、涼子がやれやれと肩をすくめたその時、誰にも気付かれることなく新たに現れた少女に涼子は驚いた声を出した。
青い色より黒に近い藍色の様な色彩をした長い髪を風の赴くままに任せる様に風に揺らしている髪を、目の辺りで吹かれるのが邪魔だと思ったのか、髪をどかしてみせるその少女はどこか儚げな印象を与える装いでその場に立っていた。
「風音ちゃん!?」
「えぇ、翼。四人とも、久しぶり。元気だった?」
「ハッ。誰に言ってるんだ、お前。」
「元気も元気。今なら空も飛べるっすよ!」
「やっほ~、風音ちゃん。元気してた~?」
「えぇ。元気にしてたわ。」
「その辺にして・・・・・・・・・・・・っ!」
「・・・・・・・・・・・・・・まったく。・・・・・・・・手間が掛かりますね。」
新たに現れた風音によって一気にその場が、知り合いの挨拶交換の場に変わり始めた空気を消そうと宮子は大きな声で場の空気を仕切り直そうとした瞬間、その場に新しく誰かが踏み入れる。
太陽の光を浴びて金色に輝く長い髪を手で押さえて冷たい印象を与える少女が場に踏み入れた。
「洋子ちゃん!?」
「・・・・・・・・何を考えての騒ぎかと思ったのですが。・・・・・・まぁ、その中心に翼、貴女がいたら納得してしまうのが忌々しいですね。・・・・・・・・・久しぶりです。」
「久しぶりっす!」
「やっほ~、洋子ちゃん。元気そうだね~。」
「入ってくるのが遅くねぇか?」
「貴女にしたら、珍しく遅いわね。」
「・・・・・・・・・・・・ちっ。・・・・・・・・・・・・・に触れますか。」
「そう言われれば、そうっすね。」
「まぁまぁ。なにか事情があったんでしょ。触れない、触れない~。」
「おい、のどか。触れるとこだろ、は。」
「まぁ、そうね。それはのどかの言う通りだわ。ごめんなさいね、洋子。」
「・・・・・・・・・・・・いえ、そこまでは。」
で全員ですわね?」
「なんでいるの、お前?」
「ほら、あれっすよ、涼子。ほら、あれ。」
「翼ちゃんが当たって来たって難癖言ったんだよ~。」
「そうそう、それそれ!それっす!」
「空。お前なんで忘れてんだよ。」
「そう言えば、そうだったかしら?私はてっきり、知り合い集合かと思ったのだけれど。」
を言ったら、勇一がいないだろ。何言ってんだお前。」
「そういえば、いないっすね。」
「勇一君だったら、だね~。」
「いや、勇一はっす。」
「・・・・・・・・えぇい!私を無視するんじゃりませんわよ!」
六人がそれぞれ久しぶりに交わす会話に夢中になりそうな空気になり始めたのを宮子は大きな声出して、空気をかき消そうとして、の付き人、綾子をキッと鋭い目で睨む。
「綾子っ!」
「ハッ!ハガネーミヤコ、ゴー!」
「ハッ!」
「ハイッ!」
綾子が腕に付けた腕時計の様なに言うと、付き人その一、その二はその場からシュッとその場からいなくなる。
「見せてあげますわ!私にぶつかっておいて、私がぶつかったことを謝罪をしないとどうなるか!後悔しても遅いですわ!」
「何言ってんだコイツ。」
「あー、頭のねじが飛んじゃったんだね~。可哀そうに。」
「ねじが緩んでるのどかが言うと、何か腑に落ちないっすね。」
「のどかの場合は、飛ぶんじゃなくて緩めてるだけだから。」
「・・・・・・・・・・・・・緩めても落ちるだけ。」
「洋子ちゃん、怖いです。」
そんなことを言ってると、巨大な戦闘機の様なものが宮子の方に向かってきて、ドゴォ!と大きな音を出しながら地面を割るように巨大なドリルが地中から現れる。さらには空中に巨大なステルス機の様な外見の機体が現れ、そのステルス機のいる線路から飛び立つように新幹線が宙を飛ぶ。そして、宮子と綾子の二人が戦闘機の様なものとステルス機にそれぞれ吸われていくように、光に包まれて、姿が消える。
『ふっ、覚悟しなさい!最終、合体!』
『最終合体!』
『ゴー!ハガネイラー!』
『ハガネイラー!』
宮子の声に合わせる様に『最終合体』と綾子の声が聞こえると、取り巻きその一とその二の声が周囲に響き、四機の機体は合体するように、天高く飛ぶ。宮子が乗っていると思われる戦闘機が変形し人の形に変形すると、両肩が折れ曲がる。折れ曲がった両肩の付け根と思われる部分に新幹線が突き入るように入り込む。その入り込んだ新幹線はその勢いのまま突き抜けるかと思いきや、逆の向きに噴射して勢いを殺して、停止する。ドリルは地中から這い出ると空中を滑空し、ドリルの付け根の部分が折れると、下半身を折れた部分から食い入れる。そうして食い入れた足を固定するように中に入れらてある多くのバネが勢いを殺して、勢いがなくなった時に足を固定する。固定されたのに合わせる様にステルス機が空から侵入し、コックピットとは逆向きの胴体を機体に合わせる様に入り込む。入り込んだステルス機は空中を飛んでいたベクトルを殺すようにスピードを減速して折れ曲がった両肩に機体の胴が接続される。新幹線の両肩に当たる先頭車両と後部車両から巨大なアームが降りてくる。グィーン、と降りてくるとステルス機の両翼に繋がれていた巨大な物体にアームが接続される。すると、接続された腕から、手が回転しながら現れる。ゴーグルの様なモノが機体の顔部分に繋がれると、機体の先端部の長く太い角が割れて、『H』と描かれたヘッドランプが出現し、ランプに光が点る。その点灯と同時に、目に光が点る。
『ハガッ!ネイッ!ラーッ!』
ですかね。」
っすね。」
ね~。」
。」
わね。」
「・・・・・・・・・・ですね。」
翼たち六人がそれぞれが抱いた感想を各々言うのを聞こえていないかと思わせる様に巨大な合体ロボット『ハガネイラー』は崩した態勢を直すと、翼たち六人の方を指差した。
『なにが、ですか!十分でしょう!』
「いや、いくらなんでもは。・・・・・・ねぇ?」
「ああ。勇一が見ていたロボットアニメの感想をのどかに聞かされただけの私でも分かるが、、いくなんでもそれだけは。」
「まぁ、とは思ったけど、わ~。」
『えぇい、黙りなさい!ドリル!クラッシャー!マグナム!』
翼たち六人それぞれの感想を聞いて怒った宮子は、『ハガネイラー』の右の二の腕を回転させると、回転させた腕を打ち出す。であれば、死という恐怖に怯えて動くことなどできないだろう。そんな状態である、はずだった。
だが、六人の身体はその恐怖に縛られることなく、それぞれが動き出す。
「空っ!翼と洋子をっ!」
「任せるっすよ!はい、腕を拝借っ!」
「はいっ!空さん!」
「・・・・・・・・・・・・お願いします。」
「ちょっとっすよっ!」
そう言うと、空は二人の腕を掴んで、青い空が広がる空中を
「羨ましいわね。」
「全くね~。」
「文句言ってる場合かよ!」
場から離れる様に飛んで行った三人をのどかと風音の二人はそれぞれ感じた思いを呟いた。その様子の二人においおい、とツッコミを入れながら、その場を離れる様に涼子は走り出す。そんな様子ののどかと風音の場所に回転した腕が突き刺さる。
『やったか!?』
『さすがにあれほどのものを受けては無事ではいられまい。』
『宮子様に謝罪しておけばよかったものを。』
『・・・・・・・・あれ?私のせいですの?』
四人の口々の感想は突き刺さった腕の回転が完全に収まったことで止まる。
『バ、バカなっ!』
「いや~、きついきつい。結構きついね~。」
よっこらせ、と受け止めたと思われるのどかは気が抜けてしまいそうな呑気な声で『ハガネイラー』の右腕を放り投げる。
「のどか、投げるならあっちに投げなさい。」
「あっ、そうか。ごめん、風音ちゃん。」
「まったく。」
『くっ、こうなれば!アーム、リターン!』
バシュ、と右腕からワイヤーが射出され、のどかが放った腕にワイヤーが接続され、キュィイーン!と勢いよくワイヤーが巻かれる音が響く。
「隙あり!レイダー、キック!一文字突きぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
二人を担いでどこかに退避していた空が隙を見つけたとばかりに足を『ハガネイラー』に突き入れようと、特撮番組定番の特撮ヒーロー必殺技を叫びながら、蹴り入れようとする。だが、それをただで見過ごす『ハガネイラー』ではない。
右腕を後ろに引くと左腕を前方に突く。
『プロテクション・ウォール!』
その声に合わせる様に、『ハガネイラー』の前方に巨大な壁が突如として出現する。その現れた壁に避けることも出来ない空の蹴りは防がれる。
「空っ!どけっ!」
ガチャンと地面に叩き落すように自身の身体の何倍もの大きさの巨大な銃を地面に涼子は置くと、特に照準を定めずに引き金を引き絞る。銃口から太い光線が放たれるが、『ハガネイラー』の『プロテクション・ウォール』に阻まれて、防がれる。
「くそっ!ぶち抜けねぇかっ!」
その様子に銃を放り投げた涼子の傍に空が降り立つ。
「なんすか、?硬すぎるんっすけど。」
その二人の様子を見て、のどかは特に困っていなさそうではあるが困ったような言葉を出す。
「どうすんのさ~。接近戦なら私ならいけそうだけど、結構きついよ?」
のどかの言葉と二人の言葉を聞いて、風音は困ったように言う。
「困ったわね。」
その時であった。が四人の前に現れたのは。
「困りごとか?」
その言葉に四人は顔を上げた。








「空っ!翼と洋子を!」
「任せるっすよ!はい、腕を拝借!」
「はい、空さん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お願いします。」
「ちょっとっすよ!」
そう言うと、空は翼と洋子の二人の腕を取り、空を。その様子を見て、勇一は一瞬、夢でも見ているのかと自分自身に問いかける。だが、その問いは己に現実であるとただ目の前で起きている事柄を勇一に指し示す。
空の家族は勇一の父の様に忍者の末裔などといった人間ではなかったはずであり、もしそうであれば、忍者である勇一の父、鉄也が勇一の交友関係について黙っているはずがないだろうと勇一は何の根拠もなくそう思った。根拠はない。根拠はないが、父ならば勇一に黙ってでもそんな風に手を打つだろう。
そんなことを考えて、の考えを振り払うように頭を振る。もし、そうであれば、自身が忍者の血を持つと勇一に話したことと少し矛盾するように勇一は思った。
忍者の血を持つ一族の末裔であると勇一に打ち明けて、勇一に何も知らない一般人として生きるか、裏で生きる忍びとして生きるか、その選択を勇一に選ばせたことも、たった一人の家族を守るために父である鉄也が悩んだ末に選んだ選択なのだと勇一は考える。
であれば、空たちが可能性はまずないだろうと勇一は思った。
だとすれば、今見ている光景は夢か何かか。いや、夢にしても悪い悪夢に近いように勇一は思った。ことに翼たちは首は突っ込むべきではない。一般人であるならなおさらだ。だが、に関わってしまう原因は何だ?と思い悩んだ時、勇一は納得した。
普通とは言い難い、忍者である父親を持つ勇一自身のせいか、と。自身と関わってしまったがために翼たちは普通ではないことにのか、と。
「はいっ、翼さんに洋子ちゃん。ここでいいっすよね?」
「はい、大丈夫です。」
「空は?」
「私は・・・・・・・・・・・。」
翼と洋子の二人を離れた場所に下した空は二人に確認を取るが、洋子の質問にはすぐには答えずに背後で戦っているのどかと涼子、風音の三人の方へと視線を向ける。ちょうど向けたときによっこらせ、と言いながらのどかが投擲された巨大ロボットの右腕を放り投げていた。
「三人じゃ、ちょいときついみたいっすね。加勢に行ってくるっす。」
「空ちゃん。」
「・・・・・・・・空。」
「心配ご無用!ちょちょいのぱっぱで片づけてくるっす!じゃ!あとはよろしく!」
そう言うと、空は来たときと同じように、大地を蹴り大空に飛んだ。
その様子を見て、勇一は思い悩んだ。
良いのか、このままで。
戦いと縁もゆかりもない一般人が戦おうとしているのに、指をただ咥えて見ているだけで良いのか。
だが、自身には知識はあっても道具がない。
戦える術は身には付けていても道具が何一つない。
あんな巨大なロボットに立ち向かえはしない。
戦えるわけがない。
無理だ。

「・・・・・・・・本当にそうですか?」

「なに?」
空やのどかたちの姿を見て足が止まっている勇一の様子を見ていたのか、誰かが勇一にそう声をかけてくる。
背後を振り向く。
周囲には学生や人はすでに巻き込まれたくはないと思ってか逃げてしまっていて誰もいない。
にも関わらず一人の学生が立っていた。
その学生は逃げ遅れたわけではない様子で、太陽の光に反射して輝きを煌めかせている銀色の肩に触れるか触れないかという絶妙なラインで切り揃えられている髪が時折吹雪く爆風に揺らされながらもそんなのは気にも掛けるまでもないことだというように気にも掛けずに、勇一の姿を碧い両眼で捉えたまま微動だにしなかった。その少女は一度見たら、勇一は忘れることない自信があるほどの印象を与えていたが、勇一の記憶には少女の名前もなにもかもヒットしなかった。
「なにが?」
一度した質問をもう一度、少女に勇一は問いかける。
「力がないから、何もできない。本当にそうお思いですか?と訊いたのです。」
「あぁ。できないな。」
はおかしいですね。貴方には力がある。誰もを救えるだけの力が。」
「いや、ないな。・・・・・・・・・・・なに?」
少女の言葉に勇一は否定の言葉を返す。だが、少女の言葉に何か違和感を感じて勇一は少女を凝視する。
「君は・・・・・・・・・いや、会ったことがあるかな?」
「貴方がそう言うのであれば、会ってはいないでしょう。いえ、そうであっても私は構いません。単にで終わることです。ですが。」
少女はそう言って区切ると、空たちが対決しているロボットの方に一度視線を向けて。
「彼女たちはでいいのですか?貴方にとって大切な方たちなのでしょう?」
「ああ。だが、力がない。」
「であれば、力になりましょう。」
「なに?」
「力が欲しいですか?」
そう言うと、少女は勇一に手を伸ばしてくる。
それは、まるで悪魔の囁きの様に勇一の耳に届いた。
そう、甘い甘い罠に誘惑してくる悪魔の様な、耳に届いて脳に考える力をなくさせるような、甘い甘い蜜の様なそんな言葉だ。
少女の言葉は勇一にはなんのことか、さっぱり分からない。
少女は誰であって、どんな存在か。
そんなことを教えられずに少女の手を取ってしまえば、きっと悪いことになる。
いや、絶対に自身にとって悪くなる。そんな予感がする。
だが。
力が欲しいのもまた事実だ。
「君が誰で何が目的か、俺には分からない。だが、一つだけなら分かっていることがある。」
は?」
「力をくれ。」
「喜んで。御身の為ににおりますゆえ。」
勇一からその言葉が出た瞬間、冷たく変化のなかった少女は微笑んだ顔を勇一に向け、勇一は少女の手を握った。
「私の他にそこにいる二人とロボットの前にいる四人の助けが要ります。私一人だけではないことが不満ですが。」
そう少女は言うと、少女の姿が目の前から消える。どこへ行ったのかと勇一が思うと、勇一の腰に特撮番組でお馴染みの特撮ヒーローが腰につけるベルトに似たようなものが付いていた。
「うわっ!」
『その驚きは何ですか。』
「いや、だって。」
「勇一君!?」
「・・・・・・・・・・勇一ではありませんか。」
翼と洋子の二人に気づかれた様で二人の声に勇一は振り返り、二人を見る。
「・・・・・・・・・よっ、久しぶり。」
「なんですか、。」
「・・・・・・・・・・・・・悪趣味な。」
二人とも勇一の腰のベルトを見ると、驚いた反応をする。翼は素直に驚いたような反応を、洋子は勇一が変な趣味をしていると思ったのか冷たいと感じる目で勇一を見る。違った反応を取る二人にどうしたものかな、と勇一は軽く頭を搔いたが、そんな勇一に構ったことではないかとでも言うように、少女は、正確には少女であったベルトは、二人に対して、冷たく言った。
『ちょうどいい。二人とも力を貸しなさい。』
「おい、何言って・・・・・・・っ!」
勇一はベルトに対して、文句を言おうとした次の瞬間、翼と洋子の二人の姿が目の前から消え、色が付いていない六つある穴にピンクと黄色の二つの色が点灯する。
『うわ~、すごいです~、感激、感動です~!』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・翼はともかくなぜ私まで。』
『貴女方の力をお借りしなくとも私一人だけでも十分なのですが、だとうまく機能せず、我が主を殺しかねません。ですので、力を貸しなさい。』
『・・・・・・・・・・・・主?勇一が?・・・・・・・・破廉恥な。』
『おお、凄いですね、勇一さん!もう二人には主従の関係が!?』
『えぇ。』
「おい、勝手に話をでっち上げるな。それに名前。名前を聞いてないんだが?」
勝手に話を進める三人(?)の会話に勇一はツッコミを入れる。そうしている間に、空たちの事態が変わっているのが分かると、勇一は話を切り上げ、走り出す。









「困りごとか?」
困った様子である四人に対して勇一は言った。
そう言った勇一自身も困っていたのだが、それは言わなかった。
「勇一っすか!?」
「勇一!?」
「勇一君!?」
「勇!?」
四人それぞれの反応に、まぁそうなるわなぁと軽く思いながら、目の前にいる巨大なを見る。そのがいかに巨大かつ強烈なオーラに勇一はぺたりと腰を下ろしてしまうところだった。父、鉄也であったら、敵を見るなりにやりと口元を歪めるであろうが、勇一にはそれほど余裕もない。そして、四人がなぜと戦おうと思ったのかと勇一は疑問に思った。
だが、勇一はそのような恐怖心を顔に出しまいと顔に力を入れて、気楽なふりをして四人に挨拶する。
「久しぶりだな。」
「久しぶりっす、って言ってる場合じゃないっすよ!」
「そうだぜ、勇一!鉄也さんなら分かるけど、お前じゃ無理だ!出来っこねー!」
「そうそう、そうだよ!勇一君が無理する必要はないよ!」
「そうよ!勇は下がって!」
「そうは言いたいんだがな。友達を見捨てる真似は出来ないでしょ。」
四人の言葉に勇一の心は一気に削られて、もう帰っていいかな、と勇一は思い始めていた。そう思ったが、心に喝を入れて、強がってみせた。
「そうは言うっすけど。」
「ああ。」
「結構強いよ?」
「出来るの?」
『出来ます。貴女方の力を借りなければ出来ないのが難点ですが。』
「えっ?」
そう言ったベルトの言葉に、四人は勇一の腰のベルトを見る。
「喋るベルトっすか!?いつの間に持ってたっすか、勇一!?」
「しゃ、喋ったー!?呪いだー!?呪いのアイテムだー!?」
「喋る・・・・・・・・ってことは知能がある?」
「みたいね。まぁ、気にするべきはではないわ。」
「確かにね~。風音ちゃん冴えてるね~。」
「普通でしょ。」
風音はそう言うと、勇一を見る。
「それで?」
「いいのか?」
「良いも悪いもないわ。勇、貴方は私たちに協力を求めている。だったら、することは一つ。でしょ?」
「別に気にしないっすよ。」
「そうだよ~、勇一君。必要なんでしょ?」
「けどよ・・・・・・・・。」
風音と空、それにのどかのもう決心したかのように勇一を見る。しかし、どこか決心がついていないのか涼子は三人に対してもう一度考え直すように言う。だが、それで三人の決意が揺らぐはずもなかった。
「・・・・・・・・・っだー、わかった、わかった!勇一、力くらい貸してやる!」
「固まったっすね。」
「揺らぎすぎにも程があると思うけどね~。」
「良いわよ、勇。誰かさんのせいで遅くなったけどね。」
「いや、大丈夫だ。」
『それでは、お手を拝借。』
ベルトがそう言うと、四人の姿が目の前から消える。
『レディ。我が主マイ・マスター、準備できました。』
「了解だ。」
彼女ベルトの言葉に勇一は右腕を左前に伸ばし、左腕を左の脇腹に構える。その構えを取った勇一の腰に巻かれた彼女ベルトにはピンク、黄色、オレンジ、緑、青、紫の七色の色が七つの各ボタンに点灯していた。
「変、身!!」
『ビルドアップ。』
左前に伸ばした右腕を右の脇、ベルトの右側に引き、右側のボタンを押す。左腕はそのまま左側のボタンを右側のボタンを押すのと同時に押す。すると、小さな風が巻き起こり、勇一の身体を風が渦となって包み込む。その風に乗って小さな金属片が浮かぶのが勇一の目に留まる。その小さな金属片は一つではなく、多くの数があった。その多くの金属片が勇一を包んでいる竜巻の風に乗ったせいで勇一の身体はそれらの銀色に包まれる。その風の吹くままに勇一は身をゆだねていると、左脛、右脛、左太もも、右太もも、腰部へとそれらに包まれていく感触に勇一は襲われる。だが、勇一の身体を倒して、勇一に害をなそうという意図は感じられない。現に勇一の身体は倒れてはいなかったし、金属片に覆われた両足と腰ともに勇一は感触を感じていた。そして、腰部を覆うと金属片は勇一の上半身を覆うように上昇する。腹部、右手、左手、胸部、右の二の腕と右肩、左の二の腕と左肩を覆いつくし、勇一の身体は顔面を除き、上半身に下半身の全てが覆いつくされた。そして、顔面を金属片が覆いつくすように、両眼に鼻以外の口と頭を覆いつくす。そうして、両眼だけがまだ覆われていないのを知っているのか、両眼のところには濃い色をしたバイザーが降りてくる。
『コンプリート。』
勇一は自身のの感触を確かめるために、手を握って感触を確かめる。その感触からは力強い頑丈なモノであると訴える感触が感じられた。
『六人の魂を受け継いで、悪を倒せと我が身が叫ぶ!平和を乱す悪は、我が許さん!「パワード・セブン」、ここに、現着!!』
『えっ、銀の翼に思いを乗せて、灯せ平和の青信号、とかじゃないの?』
『のどか、、もろパクリだから。』
『そうね。そうだとすれば、空はアレンジしてるんだから、いいと思うわ。』
『私は分かりませんが、空ちゃんかっこいいです!』
『・・・・・・・・・・・・悪趣味な。』
「空。を言うんだったら、違うぞ?」
『そうっすか?』
「ああ。」
六人それぞれの意見を聞いて勇一は、空に訂正を呼び掛けた。だが、どこがおかしいのかと空は勇一に質問する。勇一は空の質問に軽く頷いて、右脇を引き絞り、右拳を右肩まで上に上げる。
の思いを受け継いで、悪を倒せと我が身が叫ぶ!平和を乱す悪は、俺が、いや、が許さん!『パワード・セブン』、ここに、現着!!」
そう言うと、勇一は目の前のロボットに指を差す。
「覚悟しやがれ、『ハガネイラー』!!」
『なにが覚悟しろですか!食らいなさい、ドリル!クラッシャー!マグナムッ!』
勇一の言葉に宮子は怒った様子で、先ほどと同じように右の拳を勇一に打ち出してくる。だが、勇一は素直に受け取るほどの気力も根性はなかった。
「空、?」
『飛べなくはないっすけど、やれるかどうかまでは保証できないっすよ。』
「やれるなら、上等だ。」
そう、空に確認を取った次の瞬間、『ハガネイラー』の右拳が勇一の立っていた場所をえぐる。
『やったか!?』
『あれほどの攻撃を受ければ、無事ではいられまい。』
『・・・・・・まぁ、いくらなんでも攻撃するはどうかと思いますけどね。』
『私のせいですの?』
勇一を倒したと思ってか、宮子たち四人はそんなことを話し出す。
まぁ、大地を削るほどの攻撃を避けらるはずもないと思っているのだろう。少なくとも、普通であれば誰でもそう思うだろう。
、だが。
「あぶねぇ、あぶねぇ。あと少しで当たるとこだったぜ。」
『う~ん。そんな風には思えないっすけどね。』
『普通はそう思わないよ。』
、ね。』
『ま、あいつらの反応が普通だろ。知らないんだし。』
「そんなもんかねぇ。あと、のどかの言う通りだと思うぞ、空。誰でも避けられるものじゃないしな。」
『な、なにぃ!?』
そんなことを勇一は空中で話していた会話が聞こえたのか、『ハガネイラー』はガバッと顔を上げる。














「ほら、見ろ。バレちまった。」
『くっ、避けましたか!ならば、もう一発!アーム、リターン!』
『ハガネイラー』はもう一度、拳を打ち出すために回収のためのワイヤーを右腕に向けて射出する。それを見逃す勇一ではなかった。
「させっかよ!」
勇一はそう言うと、身体を『ハガネイラー』に向ける。だが、勇一の次の動作を考えなかった『ハガネイラー』ではなかった。
『させませんわ!プロテクション・ウォール!』
左腕を前に突き出すと、透明な障壁が『ハガネイラー』の前に出現する。その瞬間、勇一は左腕を引き絞り、左の拳を障壁に突き刺す。
「のどかっ!」
『了解だよ~。ちょいとお借りして。元気ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、一発ぅぅぅぅぅぅぅ~!』
のどかの気が抜けそうになる掛け声とともに、打ち出した左拳とは逆の右の拳を引き絞る。
「チヲビタァァァァァァァァァァァァァァァァン、ビィィィィィィィィィィィィィィ!!」
勇一は掛け声とともに右の拳を打ち出す。撃ち出された拳は障壁に阻まれるかと思ったが、ビキビキッと音を立てると、障壁は砕かれる。砕かれた瞬間にくるりと空中で勇一は一回転する。
「空ッ!」
『了解っす!レイダァァァァァァァァァァァァァァァァァ、キックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
空の掛け声とともに、勇一は右足を『ハガネイラー』に突き入れる様に突き出すとブォォォォォ!!と背中から前に身体が勢いを増して突き進む。
「一文字突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
空の言葉に合わせる様に勇一も雄たけびを上げて蹴りが『ハガネイラー』の顔面を捉え、『ハガネイラー』は態勢を崩した。
『くっ、その程度でこのハガネイラーは倒れませんわ!』
宮子はそう言うと、態勢を直すついでか、勇一の身体を捉えようとする。だが、勇一もただやられわけにはいかなかった。
『勇!借りるわよ!』
「ああ!やっちまえ、風音!」
勇一がそう言うと、両腕に取り付いていたアームがガチンッ!と組み合わさり、左右それぞれ一本ずつ、計二本の刃が両腕に現れる。『ハガネイラー』の右腕が勇一の身体を握りつぶそうとしたときに勇一の身体が激しく回り出す。
「疾風怒濤ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!大回転、魔弾!!」
握りつぶさんとしていた右の拳は勇一に切り刻まれ、小さな爆発と共にその場に崩れ落ちる。
フリーになった勇一は一度、『ハガネイラー』から距離を取る。
『やっちまっていいよな、勇一!』
「加減はしろよ、涼子!」
『できたらな!!』
そう言うと、勇一は両腕を振い、二本の刃をアームの形に戻し、両腕からアームを取り外すと、あっという間に、一つの兵器の形にアームを変化させる。
超電磁砲レールガン
人類史上に残る人類が持ちうる兵器の中でも光速の速さで弾丸を打ち出し、被弾した物体など元あった形などを取らせぬほどの衝撃を与える人類史上最高でありながら、凶悪の兵器である。
!!』
加減をする気など元からないというように涼子は言うと、引き金を引いた。
バチィィィィィィィィィィ!!と激しい放電音が周囲に鳴り響くのと『ハガネイラー』の胴体に小さな穴が空くのはほぼ同時だった。












「で?」
「はい?で?とは?」
『ハガネイラー』が倒れるのと勇一が地面に着き、変身が解かれるのはほぼ同時だった。勇一とベルトの少女を除いた六人は涼子と風音、のどかに空を筆頭に宮子たちをから引き釣り出していた。引き釣り出すとは言っても、主に動いていたのはやる気がこれっぽちも感じられないのどかでやる気が存分にあった涼子はのどかを動かすのに忙しいように見えた。
勇一はそうした彼女たちの動きをなんだかなぁとどこか他人の様に思って見ていたのだが、戦う前に訊こうと思っていた彼女の名前を訊き出そうと銀色の髪を静かに風に揺らされていたベルトの少女に話していた。
「いや、だから、名前。聞いてなかっただろ?」
「そう、でしたか?・・・・・・・・いえ、貴方がそう仰るのであれば、そうなのでしょう。」
どこかに納得したかのように見える彼女に勇一はもう一度、訊いてみた。
「俺は柳宮勇一やなぎみやゆういち。君は?」
「私は星川ほしかわ。星川=スターライト=ルナと言います。」
「分かった、星川。それで、一ついいか?」
「お待ちを。貴方様には苗字ではなく、名で呼ばれたい。少なくとも、その権利が貴方様にはあります。」
「そうは言うがな。」
訊こうとした勇一の言葉をルナは手で制すとその様に勇一に言った。だが、名で呼ぶべきかは勇一には判断は付かなかった。少なくとも、初対面であるはずの少女に対していきなり名で呼ぶほどの度胸は勇一にはなかった。なので、勇一は息を吸うと、言い直すことにした。
「それで、ルナ。一ついいか?」
「はい、なんでしょう?」
ルナは勇一の質問に微笑むように答える。だが、勇一には彼女の微笑む理由が分からなかった。
「俺と君は、初対面だよな。」
「・・・・・・・・・。貴方がそう思うのであればそうでしょう。少なくとも、私と貴方は初対面ではありませんと私は言います。彼女たちとは初対面ですが。」
そう言うと、ルナは翼たち六人の方へと視線を向ける。
彼女の碧い瞳に映る翼たちの姿を見て、そうだったのか、と勇一は思うのと同時に彼女との出会いはどの様なモノだったのだろうかと思いを馳せた。













海上自衛隊、第四海外派遣艦隊旗艦、『しょうかく』。
自衛隊が持ちうる護衛艦の中では別物と言っていいほどの大きさを持つの甲板に一機の戦闘機が降り立つ。海外の強国であり、世界唯一の『正義』を掲げ、『正義』を執行する強国、アメリカから買収した機体であり閃光の名を持つ最新鋭の機体、F-35『ライトニングⅡ』。その機体から一人の男が降り立つ。
その男の格好はとてもパイロットとは言い難いほどの軽装の様に甲板での作業に当たっていた作業員たちの目に映った。
「どこの誰だ、あんな軽装で。」
「パイロットスーツもなしで戦闘機に乗るとか、自殺するようなもんだぞ。」
作業員たちの言葉を聞き流すようにしながら、男は扉を開けて、艦長たちが集まる艦橋へと向かっていった。艦橋に着くと、男の登場に驚いたのか、指揮官達は男に敬礼をする。
「柳宮一等陸佐!なぜここへ!」
があってな。宮内庁からだ。ほれ。」
「宮内庁!?」
男、柳宮鉄也やなぎみやてつやはそう言うと、懐から一通の包みを取り出すと、指揮官たちに見える様にデスクに放り投げる。普通であれば、鉄也の行動は自衛官がとるべき、というよりかは一般人がとるべき行動とは思えないものであった。だが、それを咎めようとは誰もしなかった。
「アメリカの軍事行動支援に少しテロリストのバカどもを蹴散らしてこいとの指示だ。私のほかにできるとは思ってはいなかったのだろうな。」
「しかし、そうであればがあるはずでは?」
「なに、我が子につらい選択をさせるのであれば、させないまでのこと。それが、親としての責任だろう?」
「は、はぁ。」
鉄也の発言にどのような意図があるか分からなかった指揮官は鉄也の言葉に空返事する。その様子を見ていた別の指揮官が鉄也に言う。
「一佐。出撃であるならば燃料を補給してからがいいでしょう。」
「うん?ああ、そうだな。頼めるか?」
「アイアイサー。」
「であれば、食事でも貰おうか。すぐには出れんだろうしな。食堂にいるぞ。なにかあったら呼んでくれ。」
「分かりました!」
ビシッと指揮官は鉄也に敬礼をする。だが、鉄也は軽く返礼を済ますとささっと艦橋を後にした。
鉄也が去ったあとでは、鉄也の言葉に首をひねった自衛官が指揮官に問うていた。
「誰ですか、彼?」
「知らんのか!?柳宮一等陸佐と言えば、宮内庁の懐刀として有名なお方だぞ!そのお方を知らないとは。」
「えっ、そうなんですか!?」
「ああ。あのお方が来たということは、陛下からの勅令であろう。人を殺めるテロリストに陛下も心痛めておられておいでだろうな。」
「それほどまでのお方がなぜ?」
「さてな。一介の自衛官である俺達には知らんことだ。」
そんなことを二人は話していたが、鉄也はそう言われて恐怖心を『しょうかく』にいる自衛官に与える影響を考えてはいなかった。







アメリカ軍がテロリスト集団と交戦する前に一人の男によってテロリスト全員が武装解除されたうえで、地面に首を突っ込んだ形で逆さまになった状態で見つかり、アメリカ軍に謎の恐怖を与えたのがたった一人の日本人で、その理由が『親としてやった。反省はしていない。』ということであったのは別の話である・・・・・・・・・・・。
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