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第二部 事の発端
第十四話 隻眼の白き二丁銃
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見渡る限り木々しかないと言える薄ら暗さが目立つ森の中。
その森の中を歩く三つの姿があった。
一つはほぼ白一色の鋼鉄に身を包んだその三つの中では身長が飛び抜けて高くマントを着けた男の姿。
一つは白い布地のフード付きの服にフードを深く被った女性の姿。
最後の一つは短く切り揃えられた緑色の髪を揺らして身体の動きに合わせ背に付けたマントを着けた女性、その三つ、いや、三人の姿だ。
その三人は一見すると行く当てもなくただ歩いている様に見えるが、行き先を間違うことなく進んではいた。ただ、何も知らない第三者からしてみれば迷っている様に見えたが。
『・・・・・・にしても、クソ長いな。移動用の足があればどうにかなるんだが・・・・・・。』
「そうは言いますが、マスター。足に使おうと思った戦車の燃料がない上に補給もままならないとあっては仕方ないのでは・・・・・・・・・・?」
『言うなよ・・・・・・・。最後に使ったのが何時だったか覚えてなかったとは言ってもまさか燃料がないわ、予備もないわで焦ったの、俺なんだぞ?』
男の、ケンジの言葉にフードを被った女性、レオナがすかさずツッコミを入れる。その彼女のツッコミにケンジは反論をするが、それをどのように解釈しようとしても誰がどう聞いても単なる言い訳にしか聞こえなかった。
二人の言葉に緑の髪を揺らす女性、ケイトは少しため息交じりに言った。
「・・・・・・・・・・・でも、チーフ。・・・・・・・・・・・基本、アレの整備とかしてたの。・・・・・・・・・・・・チーフだよ?・・・・・・・・・・・・・チーフが居なかった間。・・・・・・・・・・・・私たちがやっても良かったけど。・・・・・・・・・・・私たちの誰も知らないし。」
『そりゃな。あの車両とかの知識を持ってて、「旅団の七人」以外で知ってるの、居なかったし。それに、まぁ、知ってはいても教えようともしなかったしな。』
ケイトの言葉に彼は頷きながら応える。
それもそうだろう。
なんせ車両などはケンジがいた地球でしかない技術であり、知識でもある。一から作るとあってはそれは何年、何十年という歳月が必要になるだろう。その期間を短縮できたのは一重にスキルという地球側では存在しないとんでもないものがあってこそだと言えるだろう。
そうであったとしても、車両の燃料に使うモノを一から採掘するのは遊び慣れているケンジ達、『旅団』の七人であってもやる気はなかったが。それ故に、短距離しか移動できないのだが。
だが、それはレオナとケイトの二人には知る由もないことであった。
そう。
知識は持ち得たとしてもそれを扱うだけの技術がなくては全く使うことが出来ない宝の持ち腐れとなってしまうわけだ。
知識はあっても技術がないか、技術はあっても知識はないか。
実際には、そのどちらかなわけだ。
その様にケンジは思って歩を進める。
・・・・・・・・・・・・・・一応、採掘などの知識はあったのだが、単にいちいち掘るのが面倒だとか『パイルバンカー』を作ったのにドリルで掘るとかロマンのクソもねぇなという理由で掘っていないし、作ってもいない等という理由であるのは別の話。
閑話休題。
そういうこともあってケンジ達三人は深い闇に覆われた森の中を歩いていた。
ふと、思って森にある木々に向けてケンジは目を移す。
一本一本、大したことはないように感じるが、陽が出ている状況で全く下の方に陽が降りてこないという状況下では樹木の太さは太くはならない。太くなったとしても、下草に栄養を取られるかして樹木は決して太くはならずに細くなるからだ。そうしたこともあってケンジは疑問に思ったのであった。
下に光が届かない環境下において何故この森の樹木は太いのだろうと。
それは、一重に『ゲームの世界だから』という理由だけでは済まない様に思えてしまう。
となれば、太陽光以外のなにかの力を受けていると考えてみるべきなのだろう。そう考えて、ケンジは疑問を口にした。
『あ~、ちょっとした疑問なんだが。・・・・・・・ちょっといいか?』
後ろを歩く二人が足を止めるような音を聞いてケンジは後ろを振り返った。
「ja。なんでしょうか、マスター?」
「・・・・・・・・・・・・・・なに、チーフ?」
『いや、なに。別に大した疑問じゃねぇんだ。・・・・・・・・そうじゃねぇんだがな?』
そう言った彼の言葉にレオナとケイトの二人は頭に疑問符を浮かべながらも、彼の言葉に何も言わずに聞いていた。
彼女たち二人の態度に、ケンジは内心で、ありがたいねぇ、と二人に感謝しながら言葉を続けた。
『この森の樹について、なんだが・・・・・・・。』
「・・・・・・・・・・・・・・樹?」
「樹、ですか?」
彼の疑問に何がおかしいのか、という様に言う二人に対してケンジは、この世界じゃ普通なのかな?と思いながら、続けた。
『なんか、妙に太いから光以外にも栄養を摂れる方法があるのかな?って思ってな。』
な?大したことじゃないだろ?と二人に確かめる様に一度外した目を元に戻したが、二人は明らかに悩んだ様子だった。
「ふむ・・・・・・・・。光以外での栄養摂取ですか・・・・・・・・。分かりますか、ケイト?」
「・・・・・・・・・・・・・・う~ん。・・・・・・・・・・・・・・・分からない、かな。」
「そうですか。・・・・・・・・・・因みにですが、マスター。マスターがおられた世界ではこの森で生えている樹木は存在しなかったのですか?」
『樹はあったぞ。とは言ってもきちんと種類を判別しながらいたわけじゃねぇから種類まで一緒か?って訊かれると分からねぇけどな。でも、この暗さでってなると人一人分ないしぱっと見、四、五人って太さの樹にってのはなってねぇな。少なくても腕一本か、拳一つ分だが。』
それでも、小さいんだがな。
そうケンジは言葉を継げ足し、レオナは彼の言葉について考える様に黙ってしまう。そんなレオナとは打て変わってケイトは何かに納得したかのように小さく首肯した。
「・・・・・・・・・・・・・・つまり、チーフは。・・・・・・・・・・・・・この暗さでこの太さになってるってことに。・・・・・・・・・・・・疑問に思ってるってこと?」
『まぁ、な。世界が違うなら違くて当たり前なんだが、どうも気になってな・・・・・・・・。何かが引っ掛かって気になるんだ・・・・・・。』
彼の言葉を聞いてケイトは何が疑問点なのかを探る様に訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・・一応、訊くんだけど。・・・・・・・・・・・・チーフの世界には魔力とかあったの?」
ケイトの疑問にケンジは一瞬、鼻で笑った。
『あっ?ねーよ、んなもん。少なくても、俺が知る限りじゃ俺がいた世界にはなかったな。』
それがどうした?と訊く様に彼はケイトを見た。
彼女はそんな彼の視線を受け取ると、コクリと小さく頷いた。
「・・・・・・・・・・・・・・だったら、簡単。・・・・・・・・・・・・・・貴方が疑問に思った光以外のモノ。・・・・・・・・・・・・・それは。」
『・・・・・・・・・・・それは?』
ケイトが長引かせるように言った言葉に釣られて同じ言葉をケンジは復唱した。
それは一体何なのか?それを知りたいという欲望に駆られ、ゴクリと彼は息を呑んでケイトの言葉を待つ。
そして、ケイトがそれを口にしようとしたその瞬間、レオナがハッと閃いた様子で言った。
「魔力ですか!!!!成る程、成る程。それならば合点がいきましょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・レオナ、先に言わないで。・・・・・・・・・・・それ、私が言うとこ。」
レオナが言ったことに、ケイトは反論するが、当の本人は聞く耳を持たない様子で軽く流していた。
そんな様子を見てケンジはため息を吐くと、レオナにそう思った理由を訊いた。
『で、レオナ。なんでそう思った?』
「いいですか、マスター。先ほど貴方は貴方がおられた世界には魔力は存在しないと申されました。そして、現在おられる世界には魔力というモノが存在します。であるならば、答えは一つ。」
『だったら、それが関係してる・・・・・・・・って思った方が良さそうだな。』
レオナの解説にケンジも合点がいったという様子で呟きながら頷いた。
「ja。それにこの森には静かではありますが、大きな魔力の存在を感じます。そう考えると、私たち二人が感じている魔力も納得できるものかと。」
『えっ。そんなに魔力とか感じる位にあんの?』
彼が驚いた風に二人に訊いてくる疑問に二人は静かにではあるが、しっかりと頷いた。
「ja。・・・・・・・と言っても、今すぐに異常が起こる等といったモノではなく、少し不快感を感じる程度ですが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・私もレオナと同意見、かな?」
『ってなると、別に急いで通過しなくちゃいけないってことじゃないんだな?』
「ja。それほど、問題にする必要はないかと。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・問題ない、よ?」
ケイトの言葉にケンジは大きく不安に思ってしまう。だが、あまり話さない彼女が大丈夫だと言うのであれば大丈夫なのだろうと思うことにしたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、ケイトの場合であればケンジを無視してでもどうにかするだろうと思っていた部分が強かったからなのだが。
であれば、歩く道を変えた方が良かったのでは?と思われるだろうが、これにもきちんとした理由があって今現在歩いている森を通過するルートが『要塞』への最短距離だったからだ。
最短距離ということは、『要塞側』でも早急にケンジたちを補足できるということであり。
つまりは。
「両手を上げて頭の上に組め。そしたらそこを動くなよ、身元不明者。一歩でも動かしたらお前らの脳みそ吹き飛ばすぞ?いいな、動くなよ?」
足元に一発弾丸が当たる音と共に高い声の女性の声が三人の耳に届く。
おいおい、相も変わらず物騒だな、こいつは、と思いながらもケンジは両手を頭の後ろで組んだ。
ケンジがした動きをレオナとケイトも(渋々といった具合であったが)したことにほっと彼は内心の中で安堵した。
「よぉ~し、組んだな。おいそこの・・・・・・・・おい、でかいの。後ろ振り向け。ゆっくりな?ゆっくり振り向くんだ。どこにも手を向けるんじゃない。頭の後ろに手を組んだまま振り返るんだ。」
やれやれ、仕方がないな、と言った具合にケンジはゆっくりと身体を振り向かせようとする。だが、そうしようとした際に、フードの中に隠れているレオナと目が合った。
彼が自身を見ていることに理解したレオナは一瞬だけ、頭部の手に向ける様にして目を斜め上に上げる。
私が気を引きましょうか、マスター?
その動作でレオナが気を引こうとしていると思ったケンジはすぐに、だが短く首を左右に振った。
いや、それはしなくていい。
二人が声に出さずに動作だけで会話している様子をケイトは横目で見ていた。まぁ、彼がレオナになんと指示を出しているのはだいたいの流れでしか分からなかったが。
そうして、ケンジが身体を振り向かせると、そこには両手に一丁ずつ、計二丁の『弱すぎてしょぼい銃』をケンジ達に構える左目に眼帯を掛けている白く短い髪をしている全身に完全武装をした女性だった。動きやすさを考えてか胴体部の胸部には装甲は貼られていないが、腹部を守る様にしっかりと防護フレームが付けられていた。その女性の背後には宙を浮かぶように他の武装が取り付けられた武装ユニットが二つあった。
一見すると、素肌の露出は少なく見えるが、首元から胸部にかけて開けた場所が目に付いてしまう。たぶんそれはあまり露出してないから意識するとそう見えるんだろうな、などと比較的どうでもいいことを考えながら、その女性の動きを観察していた。
「うん?その姿にその武装・・・・・・・・・・。どこかで見たような・・・・・・・・・、はっ、ま、まさかっ!!」
その女性はケンジたちの姿をしばし観察すると、突然にしてケンジ達三人に対して構えた銃を下に向けた。
「し、失礼しました!!!」
『気が付いたか、▽。』
失礼したと言う彼女に対して、分かったかとケンジは言った。
「不審な動きをする者たちがいるとの連絡を受け、急行した次第ですが。・・・・・・それがまさか、スパルタンたる貴方だったとは。・・・・・・・・・・お久しぶりです、チーフ。お手をお下げください。」
『別に撃ってくれてもいいんだぜ?・・・・・・・・ま、その場合は完全に潰すけどな。』
そう言いながら差し出された彼女の手をケンジは握り返した。
彼女の名は▽。『旅団』メンバーの一人の『支援要員』の一人である。
彼女もまたケンジ達『プレイヤー』の存在を知っており、理解しているのだろうと彼女がケンジを呼んだ際に『チーフ』と言ったことで察していた。
「ハハハハ・・・・・・。貴方がそう言うと、全く冗談に聞こえませんね。」
『そこは笑うところだろ。』
ケンジの言葉を聞くと、彼女は乾いた笑いをしながら彼の背後にいる二人に向けて視線を向けた。
「久しぶりだな、レオナ。引き篭もりの従者が久々に外に出て来たんだ。・・・・・・・・・・・どうだ、久しぶりの外の空気は?」
「お久しぶりです、▽。・・・・・・・・・・・・そのお言葉、貴女にそのままお返しします。外の状況も分かっていないのはどちらですか?」
「かなりの辛口なコメントだ。私もこれでも情報収集には動いてはいるんだぞ?ただ、『メカノイス』相手に情報を渡さないというよく分からん風潮があるおかげで集まらないだけで。」
「成程。では、そういうことにしておきましょうか。」
「そこは流すところだ・・・・・・・・・。」
レオナのコメントにやれやれと両手を上げ、ケイトの方へと視線を向け・・・・・・・・・・。
「誰だ、お前。」
誰であるのか分からないという様にそれまでの空気を換えるほどの真剣な顔にすると、彼女はそう言った。
▽の発言を聞くまで、すっかりと忘れていたことではあったが、ケンジが帰ってくるまでの間、全身毛むくじゃらの姿であったことを思い出すと、ケンジは彼女が誰かを教える様に言ったのだった。
『ケイトだ、▽。』
「えっ、ケイト?いやいや。・・・・・・いやいや、チーフ。あまり冗談を言うモノではないよ。ケイトは全身緑の毛むくじゃらだっただろう?それがこんな・・・・・・・・・・・こんな女性なわけがないじゃないか。」
現実が受け入れられないのだろう、事実を否定する▽に今度はレオナが教えた。
「貴女が否定したくなる気持ちも分かります、▽。・・・・・・・・・・しかし、この女性がケイトであることは貴女がいくら否定しようとも覆ることのない事実です。・・・・・・・・諦めて現実を受け入れて下さい。」
「お前まで冗談を言うか、レオナ。いいか、よく聞け、二人とも!!!あの、ケイトが、自分の髪なんぞ切るわけがないだろう!!!私は知ってるんだぞ!!!!少し前にレオナのところに買い物に行った時に全身が緑色の歩く毛むくじゃらに会ったことを!!!!その毛むくじゃらが自身のことをケイトだと言ったことを!!!!そして、あいつが面倒くさがりなのは知ってはいたがまさかあんなになるまでの面倒くさがりだったということを知ってしまったんだ!!!」
そこまで息を途切れることなく言った▽はケイトのことを指差しながら言ったのだった。
「そんな面倒くさがりのヤツが自身のことをケイトだと言ったんだ!!!だとすれば、コイツは・・・・・・・この髪を切っている女がケイトのはずがない!!!!チーフ、レオナ、言ってくれ!!!!コイツはどこのどいつだ!!!!!?」
そこまで酷いか?とケンジは▽の言葉に耳を傾けていたが、そう言えば、久しぶりに帰った時にアイツ、全身毛むくじゃらだったな・・・・・・・・。懐かしいな・・・・・・・・・。
▽の言葉を聞いて、どこか懐かしさを感じていたケンジであった。
そうして思考を完全にこことは別のどこかへと向けるケンジを他所に話は進んでいく。
「▽。あのですね・・・・・・・。貴女がそう思うのは分かります。・・・・・・・・・・えぇ、分かりますとも。髪も切らずにただ伸ばして毛むくじゃらになったケイトが髪を切るはずがないことも理解できます。そんなに自分で髪を切ることが面倒でしたら私が切りましょうか?、とケイトに訊いた時にただ一言、『嫌』と拒否されましたから知っていますとも。えぇ、貴女だけではありませんとも。」
ですが。
「貴女がどんだけ否定しようとも、・・・・・・・・肯定したくなくとも。彼女がケイトであることは事実であり、偽ることなど出来ません。」
しかし、レオナが真摯に言ったところで▽には信じることなど出来ずに訊いてしまうのだ。
「しかし、アイツは・・・・・・・アイツは、毛むくじゃらになるまで髪を伸ばしていたんだぞ?それが髪を切る?切るわけがないだろう?」
「確かに、貴女の言う通りです、▽。」
しかし。
「それも我らが主たるマスターがお戻りになれるまでのこと。あのお方がお戻りになられてから、すぐに髪を切りました。」
私も手を出したとはいえ。
「今、この場に立っている、この女性は、間違えなく、ケイトです。それは偽ることのない紛れもない事実であり、真実です。」
そうキッパリと断言するレオナにまだ▽は信じられてはいない様子だった。だが、ケンジとレオナの二人が嘘は吐けども下らないことにしか吐かないことを思い出すと、少し不審に思いながらケイトに訊いたのだった。
「・・・・・・・・お前。ほんとに、ケイトなのか?」
恐る恐るといった具合にケイトに疑問をぶつける▽に対し、ケイトはコクリと頷くと答えたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・そうだよ?」
彼女の肯定の言葉を聞くと、受け入れらない現実に▽は何も言えなくなってしまったのだった。
その森の中を歩く三つの姿があった。
一つはほぼ白一色の鋼鉄に身を包んだその三つの中では身長が飛び抜けて高くマントを着けた男の姿。
一つは白い布地のフード付きの服にフードを深く被った女性の姿。
最後の一つは短く切り揃えられた緑色の髪を揺らして身体の動きに合わせ背に付けたマントを着けた女性、その三つ、いや、三人の姿だ。
その三人は一見すると行く当てもなくただ歩いている様に見えるが、行き先を間違うことなく進んではいた。ただ、何も知らない第三者からしてみれば迷っている様に見えたが。
『・・・・・・にしても、クソ長いな。移動用の足があればどうにかなるんだが・・・・・・。』
「そうは言いますが、マスター。足に使おうと思った戦車の燃料がない上に補給もままならないとあっては仕方ないのでは・・・・・・・・・・?」
『言うなよ・・・・・・・。最後に使ったのが何時だったか覚えてなかったとは言ってもまさか燃料がないわ、予備もないわで焦ったの、俺なんだぞ?』
男の、ケンジの言葉にフードを被った女性、レオナがすかさずツッコミを入れる。その彼女のツッコミにケンジは反論をするが、それをどのように解釈しようとしても誰がどう聞いても単なる言い訳にしか聞こえなかった。
二人の言葉に緑の髪を揺らす女性、ケイトは少しため息交じりに言った。
「・・・・・・・・・・・でも、チーフ。・・・・・・・・・・・基本、アレの整備とかしてたの。・・・・・・・・・・・・チーフだよ?・・・・・・・・・・・・・チーフが居なかった間。・・・・・・・・・・・・私たちがやっても良かったけど。・・・・・・・・・・・私たちの誰も知らないし。」
『そりゃな。あの車両とかの知識を持ってて、「旅団の七人」以外で知ってるの、居なかったし。それに、まぁ、知ってはいても教えようともしなかったしな。』
ケイトの言葉に彼は頷きながら応える。
それもそうだろう。
なんせ車両などはケンジがいた地球でしかない技術であり、知識でもある。一から作るとあってはそれは何年、何十年という歳月が必要になるだろう。その期間を短縮できたのは一重にスキルという地球側では存在しないとんでもないものがあってこそだと言えるだろう。
そうであったとしても、車両の燃料に使うモノを一から採掘するのは遊び慣れているケンジ達、『旅団』の七人であってもやる気はなかったが。それ故に、短距離しか移動できないのだが。
だが、それはレオナとケイトの二人には知る由もないことであった。
そう。
知識は持ち得たとしてもそれを扱うだけの技術がなくては全く使うことが出来ない宝の持ち腐れとなってしまうわけだ。
知識はあっても技術がないか、技術はあっても知識はないか。
実際には、そのどちらかなわけだ。
その様にケンジは思って歩を進める。
・・・・・・・・・・・・・・一応、採掘などの知識はあったのだが、単にいちいち掘るのが面倒だとか『パイルバンカー』を作ったのにドリルで掘るとかロマンのクソもねぇなという理由で掘っていないし、作ってもいない等という理由であるのは別の話。
閑話休題。
そういうこともあってケンジ達三人は深い闇に覆われた森の中を歩いていた。
ふと、思って森にある木々に向けてケンジは目を移す。
一本一本、大したことはないように感じるが、陽が出ている状況で全く下の方に陽が降りてこないという状況下では樹木の太さは太くはならない。太くなったとしても、下草に栄養を取られるかして樹木は決して太くはならずに細くなるからだ。そうしたこともあってケンジは疑問に思ったのであった。
下に光が届かない環境下において何故この森の樹木は太いのだろうと。
それは、一重に『ゲームの世界だから』という理由だけでは済まない様に思えてしまう。
となれば、太陽光以外のなにかの力を受けていると考えてみるべきなのだろう。そう考えて、ケンジは疑問を口にした。
『あ~、ちょっとした疑問なんだが。・・・・・・・ちょっといいか?』
後ろを歩く二人が足を止めるような音を聞いてケンジは後ろを振り返った。
「ja。なんでしょうか、マスター?」
「・・・・・・・・・・・・・・なに、チーフ?」
『いや、なに。別に大した疑問じゃねぇんだ。・・・・・・・・そうじゃねぇんだがな?』
そう言った彼の言葉にレオナとケイトの二人は頭に疑問符を浮かべながらも、彼の言葉に何も言わずに聞いていた。
彼女たち二人の態度に、ケンジは内心で、ありがたいねぇ、と二人に感謝しながら言葉を続けた。
『この森の樹について、なんだが・・・・・・・。』
「・・・・・・・・・・・・・・樹?」
「樹、ですか?」
彼の疑問に何がおかしいのか、という様に言う二人に対してケンジは、この世界じゃ普通なのかな?と思いながら、続けた。
『なんか、妙に太いから光以外にも栄養を摂れる方法があるのかな?って思ってな。』
な?大したことじゃないだろ?と二人に確かめる様に一度外した目を元に戻したが、二人は明らかに悩んだ様子だった。
「ふむ・・・・・・・・。光以外での栄養摂取ですか・・・・・・・・。分かりますか、ケイト?」
「・・・・・・・・・・・・・・う~ん。・・・・・・・・・・・・・・・分からない、かな。」
「そうですか。・・・・・・・・・・因みにですが、マスター。マスターがおられた世界ではこの森で生えている樹木は存在しなかったのですか?」
『樹はあったぞ。とは言ってもきちんと種類を判別しながらいたわけじゃねぇから種類まで一緒か?って訊かれると分からねぇけどな。でも、この暗さでってなると人一人分ないしぱっと見、四、五人って太さの樹にってのはなってねぇな。少なくても腕一本か、拳一つ分だが。』
それでも、小さいんだがな。
そうケンジは言葉を継げ足し、レオナは彼の言葉について考える様に黙ってしまう。そんなレオナとは打て変わってケイトは何かに納得したかのように小さく首肯した。
「・・・・・・・・・・・・・・つまり、チーフは。・・・・・・・・・・・・・この暗さでこの太さになってるってことに。・・・・・・・・・・・・疑問に思ってるってこと?」
『まぁ、な。世界が違うなら違くて当たり前なんだが、どうも気になってな・・・・・・・・。何かが引っ掛かって気になるんだ・・・・・・。』
彼の言葉を聞いてケイトは何が疑問点なのかを探る様に訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・・一応、訊くんだけど。・・・・・・・・・・・・チーフの世界には魔力とかあったの?」
ケイトの疑問にケンジは一瞬、鼻で笑った。
『あっ?ねーよ、んなもん。少なくても、俺が知る限りじゃ俺がいた世界にはなかったな。』
それがどうした?と訊く様に彼はケイトを見た。
彼女はそんな彼の視線を受け取ると、コクリと小さく頷いた。
「・・・・・・・・・・・・・・だったら、簡単。・・・・・・・・・・・・・・貴方が疑問に思った光以外のモノ。・・・・・・・・・・・・・それは。」
『・・・・・・・・・・・それは?』
ケイトが長引かせるように言った言葉に釣られて同じ言葉をケンジは復唱した。
それは一体何なのか?それを知りたいという欲望に駆られ、ゴクリと彼は息を呑んでケイトの言葉を待つ。
そして、ケイトがそれを口にしようとしたその瞬間、レオナがハッと閃いた様子で言った。
「魔力ですか!!!!成る程、成る程。それならば合点がいきましょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・レオナ、先に言わないで。・・・・・・・・・・・それ、私が言うとこ。」
レオナが言ったことに、ケイトは反論するが、当の本人は聞く耳を持たない様子で軽く流していた。
そんな様子を見てケンジはため息を吐くと、レオナにそう思った理由を訊いた。
『で、レオナ。なんでそう思った?』
「いいですか、マスター。先ほど貴方は貴方がおられた世界には魔力は存在しないと申されました。そして、現在おられる世界には魔力というモノが存在します。であるならば、答えは一つ。」
『だったら、それが関係してる・・・・・・・・って思った方が良さそうだな。』
レオナの解説にケンジも合点がいったという様子で呟きながら頷いた。
「ja。それにこの森には静かではありますが、大きな魔力の存在を感じます。そう考えると、私たち二人が感じている魔力も納得できるものかと。」
『えっ。そんなに魔力とか感じる位にあんの?』
彼が驚いた風に二人に訊いてくる疑問に二人は静かにではあるが、しっかりと頷いた。
「ja。・・・・・・・と言っても、今すぐに異常が起こる等といったモノではなく、少し不快感を感じる程度ですが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・私もレオナと同意見、かな?」
『ってなると、別に急いで通過しなくちゃいけないってことじゃないんだな?』
「ja。それほど、問題にする必要はないかと。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・問題ない、よ?」
ケイトの言葉にケンジは大きく不安に思ってしまう。だが、あまり話さない彼女が大丈夫だと言うのであれば大丈夫なのだろうと思うことにしたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、ケイトの場合であればケンジを無視してでもどうにかするだろうと思っていた部分が強かったからなのだが。
であれば、歩く道を変えた方が良かったのでは?と思われるだろうが、これにもきちんとした理由があって今現在歩いている森を通過するルートが『要塞』への最短距離だったからだ。
最短距離ということは、『要塞側』でも早急にケンジたちを補足できるということであり。
つまりは。
「両手を上げて頭の上に組め。そしたらそこを動くなよ、身元不明者。一歩でも動かしたらお前らの脳みそ吹き飛ばすぞ?いいな、動くなよ?」
足元に一発弾丸が当たる音と共に高い声の女性の声が三人の耳に届く。
おいおい、相も変わらず物騒だな、こいつは、と思いながらもケンジは両手を頭の後ろで組んだ。
ケンジがした動きをレオナとケイトも(渋々といった具合であったが)したことにほっと彼は内心の中で安堵した。
「よぉ~し、組んだな。おいそこの・・・・・・・・おい、でかいの。後ろ振り向け。ゆっくりな?ゆっくり振り向くんだ。どこにも手を向けるんじゃない。頭の後ろに手を組んだまま振り返るんだ。」
やれやれ、仕方がないな、と言った具合にケンジはゆっくりと身体を振り向かせようとする。だが、そうしようとした際に、フードの中に隠れているレオナと目が合った。
彼が自身を見ていることに理解したレオナは一瞬だけ、頭部の手に向ける様にして目を斜め上に上げる。
私が気を引きましょうか、マスター?
その動作でレオナが気を引こうとしていると思ったケンジはすぐに、だが短く首を左右に振った。
いや、それはしなくていい。
二人が声に出さずに動作だけで会話している様子をケイトは横目で見ていた。まぁ、彼がレオナになんと指示を出しているのはだいたいの流れでしか分からなかったが。
そうして、ケンジが身体を振り向かせると、そこには両手に一丁ずつ、計二丁の『弱すぎてしょぼい銃』をケンジ達に構える左目に眼帯を掛けている白く短い髪をしている全身に完全武装をした女性だった。動きやすさを考えてか胴体部の胸部には装甲は貼られていないが、腹部を守る様にしっかりと防護フレームが付けられていた。その女性の背後には宙を浮かぶように他の武装が取り付けられた武装ユニットが二つあった。
一見すると、素肌の露出は少なく見えるが、首元から胸部にかけて開けた場所が目に付いてしまう。たぶんそれはあまり露出してないから意識するとそう見えるんだろうな、などと比較的どうでもいいことを考えながら、その女性の動きを観察していた。
「うん?その姿にその武装・・・・・・・・・・。どこかで見たような・・・・・・・・・、はっ、ま、まさかっ!!」
その女性はケンジたちの姿をしばし観察すると、突然にしてケンジ達三人に対して構えた銃を下に向けた。
「し、失礼しました!!!」
『気が付いたか、▽。』
失礼したと言う彼女に対して、分かったかとケンジは言った。
「不審な動きをする者たちがいるとの連絡を受け、急行した次第ですが。・・・・・・それがまさか、スパルタンたる貴方だったとは。・・・・・・・・・・お久しぶりです、チーフ。お手をお下げください。」
『別に撃ってくれてもいいんだぜ?・・・・・・・・ま、その場合は完全に潰すけどな。』
そう言いながら差し出された彼女の手をケンジは握り返した。
彼女の名は▽。『旅団』メンバーの一人の『支援要員』の一人である。
彼女もまたケンジ達『プレイヤー』の存在を知っており、理解しているのだろうと彼女がケンジを呼んだ際に『チーフ』と言ったことで察していた。
「ハハハハ・・・・・・。貴方がそう言うと、全く冗談に聞こえませんね。」
『そこは笑うところだろ。』
ケンジの言葉を聞くと、彼女は乾いた笑いをしながら彼の背後にいる二人に向けて視線を向けた。
「久しぶりだな、レオナ。引き篭もりの従者が久々に外に出て来たんだ。・・・・・・・・・・・どうだ、久しぶりの外の空気は?」
「お久しぶりです、▽。・・・・・・・・・・・・そのお言葉、貴女にそのままお返しします。外の状況も分かっていないのはどちらですか?」
「かなりの辛口なコメントだ。私もこれでも情報収集には動いてはいるんだぞ?ただ、『メカノイス』相手に情報を渡さないというよく分からん風潮があるおかげで集まらないだけで。」
「成程。では、そういうことにしておきましょうか。」
「そこは流すところだ・・・・・・・・・。」
レオナのコメントにやれやれと両手を上げ、ケイトの方へと視線を向け・・・・・・・・・・。
「誰だ、お前。」
誰であるのか分からないという様にそれまでの空気を換えるほどの真剣な顔にすると、彼女はそう言った。
▽の発言を聞くまで、すっかりと忘れていたことではあったが、ケンジが帰ってくるまでの間、全身毛むくじゃらの姿であったことを思い出すと、ケンジは彼女が誰かを教える様に言ったのだった。
『ケイトだ、▽。』
「えっ、ケイト?いやいや。・・・・・・いやいや、チーフ。あまり冗談を言うモノではないよ。ケイトは全身緑の毛むくじゃらだっただろう?それがこんな・・・・・・・・・・・こんな女性なわけがないじゃないか。」
現実が受け入れられないのだろう、事実を否定する▽に今度はレオナが教えた。
「貴女が否定したくなる気持ちも分かります、▽。・・・・・・・・・・しかし、この女性がケイトであることは貴女がいくら否定しようとも覆ることのない事実です。・・・・・・・・諦めて現実を受け入れて下さい。」
「お前まで冗談を言うか、レオナ。いいか、よく聞け、二人とも!!!あの、ケイトが、自分の髪なんぞ切るわけがないだろう!!!私は知ってるんだぞ!!!!少し前にレオナのところに買い物に行った時に全身が緑色の歩く毛むくじゃらに会ったことを!!!!その毛むくじゃらが自身のことをケイトだと言ったことを!!!!そして、あいつが面倒くさがりなのは知ってはいたがまさかあんなになるまでの面倒くさがりだったということを知ってしまったんだ!!!」
そこまで息を途切れることなく言った▽はケイトのことを指差しながら言ったのだった。
「そんな面倒くさがりのヤツが自身のことをケイトだと言ったんだ!!!だとすれば、コイツは・・・・・・・この髪を切っている女がケイトのはずがない!!!!チーフ、レオナ、言ってくれ!!!!コイツはどこのどいつだ!!!!!?」
そこまで酷いか?とケンジは▽の言葉に耳を傾けていたが、そう言えば、久しぶりに帰った時にアイツ、全身毛むくじゃらだったな・・・・・・・・。懐かしいな・・・・・・・・・。
▽の言葉を聞いて、どこか懐かしさを感じていたケンジであった。
そうして思考を完全にこことは別のどこかへと向けるケンジを他所に話は進んでいく。
「▽。あのですね・・・・・・・。貴女がそう思うのは分かります。・・・・・・・・・・えぇ、分かりますとも。髪も切らずにただ伸ばして毛むくじゃらになったケイトが髪を切るはずがないことも理解できます。そんなに自分で髪を切ることが面倒でしたら私が切りましょうか?、とケイトに訊いた時にただ一言、『嫌』と拒否されましたから知っていますとも。えぇ、貴女だけではありませんとも。」
ですが。
「貴女がどんだけ否定しようとも、・・・・・・・・肯定したくなくとも。彼女がケイトであることは事実であり、偽ることなど出来ません。」
しかし、レオナが真摯に言ったところで▽には信じることなど出来ずに訊いてしまうのだ。
「しかし、アイツは・・・・・・・アイツは、毛むくじゃらになるまで髪を伸ばしていたんだぞ?それが髪を切る?切るわけがないだろう?」
「確かに、貴女の言う通りです、▽。」
しかし。
「それも我らが主たるマスターがお戻りになれるまでのこと。あのお方がお戻りになられてから、すぐに髪を切りました。」
私も手を出したとはいえ。
「今、この場に立っている、この女性は、間違えなく、ケイトです。それは偽ることのない紛れもない事実であり、真実です。」
そうキッパリと断言するレオナにまだ▽は信じられてはいない様子だった。だが、ケンジとレオナの二人が嘘は吐けども下らないことにしか吐かないことを思い出すと、少し不審に思いながらケイトに訊いたのだった。
「・・・・・・・・お前。ほんとに、ケイトなのか?」
恐る恐るといった具合にケイトに疑問をぶつける▽に対し、ケイトはコクリと頷くと答えたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・そうだよ?」
彼女の肯定の言葉を聞くと、受け入れらない現実に▽は何も言えなくなってしまったのだった。
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