デリートマン

わいんだーずさかもと

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第26話【デリートマンの決断③】

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事件の発生から2週間が経ち、おおまかな状況はあきらかになっていた。

被害者は中学1年生の少年。石で頭を殴られたのが致命傷とのことだった。加害者は少年の友達という、15歳~17歳の少年、3人だった。

当初、この少年らは「遊んでいただけ」と事件への関与を否定していたが、捜査が進むにつれ、犯行を自供し始めた。しかし報道される供述内容は、

「殴ったり蹴ったりしたが、罰ゲーム、死ぬとは思っていなかった」

「こづいた程度、いつもの遊び」

「普段からやっている遊びだから、こんなことになるなんて思ってなかった」

など、反省の色が見えないどころが、殺意を否定し、自らを守ろうとする供述ばかりだった。

石で頭を殴っておいて、「死ぬとは思っていなかった」とはどういうことだ?

この期に及んでも自分を守ることしか考えることができない人間など、いなくなった方がいい。

まあ、それはこういう少年に限らず、保身しか考えない政治家などにも言える話だが…。

到底、こういう人間は許すことができない。

「このニュース、本当に悲しい。亡くなった子のお父さんの会見とか、可哀そうすぎるよ」

今日もようこがうちに来ており、夜のニュースを一緒に見ていた。

ここ数日、亡くなった少年の父親の会見が報道されるのだが、ようこの言うとおり、可哀そうすぎて見ていられなかった。

「息子が何をしたのか?」

「息子の笑顔にもう会えない」

「何もいらない、息子を返してほしい」

涙ながらに心から声を振り絞っていた。おれに息子はいないが、父親の言葉を聞くと心をわしづかみにされるような、そんな感覚になる。

そして、母親は現実を受け入れられずに精神を病んでしまい、入院しているとの報道があった。

自らの保身しか頭にない加害者は、未成年という理由だけで実名、写真など報道されないが、今の時代である。SNSで加害者3人の名前と顔写真が特定され、拡散されていた。

今の時代、いくらテレビなどの報道で情報を伏せたところで、SNSという強力なツールがある。到底、隠しきれるものではないのだ。そういう時代にも関わらず、加害者の情報を伏せる報道を見ていると滑稽な気にさえなってくる。

主犯格とされる加害者の名は、恐川龍こわがわたつ、17歳。フリーターとされており、SNSで顔写真はもちろん、住所、家族構成に至るまで曝け出されていた。

「恐川、他の二人も、こういうやつに存在する価値なんかない」

「ともくん、でも、SNSで言われてるだけで、そう確定してる訳じゃないじゃん」

「確定だ。今までこういうふうにさらけ出された情報が間違っていた例をおれは知らん」

「でも…SNSって自由に発言できる無法地帯じゃん…」

「ほな聞くけど、ようこはどう思う?この恐川、犯人じゃないと思うか?」

「それは…多分、犯人だろうって思う。でも、ちゃんと報道されてないんだよ。テレビとか、そういうメディアで報道されてないんだよ」

「テレビで報道されるから真実?おれは違うと思うよ。むしろ嘘の方が多いと思う。テレビで報道されてるから正しくて、SNSが無法地帯やから信用できへんってのがナンセンスやぞ。むしろ、SNSから得れる情報に真実が多いと思うよ」

報道機関など、世間的に知られたらまずい情報などは、どうせ上から圧力をかけられるのだ。そして、捻じ曲げられて報道される。一般人が知れる情報なんて、いいように書きかえられた情報だけだ。そういう意味では、『無法地帯』かもしれないが、SNSの方がよっぽど信用できる。

ただ、ここまでSNSが影響力を持ってくると、今後SNSに対しての規制もどんどん厳しくなっていくだろう。

「でもね、犯人って言われてる人の家庭環境も、本当だとしたら可哀そうじゃない。だって…」

「関係ない。こんなやつに同情の余地はない」

恐川の家庭環境についてもSNSで晒されていた。小学生の頃に両親が離婚。母親についていくが、母親が新しく作った男から日常的に暴行を受ける。そして、恐川が中学になるとその男の暴行が増してくる。

ある日、酒に酔った男が包丁を振りかざした。恐川は包丁を奪い、反射的にその男を刺してしまう。男は死亡。しかし、恐川は正当防衛が認めれ罪に問われることはなかった。

それ以降は母親と二人暮らしになるが、ほぼ家に帰らず夜の街をふらつく生活となる。

こんなところだ。でも、そんなことはどうでもいい。被害者少年を殺害していい理由になるはずがないのだ。同情なんて、微塵もしてやる必要はない。

「ようこ、被害者の子、助かったら嬉しいか?お父さんのこんな会見、見なくてよくなったら嬉しいか?」

「それは、こんなことなくなってほしいし、そうなったら嬉しいよ。でも、もう起こっちゃったことだから」

「恐川、もしこいつがおらんかったら、こんな事件起こってないよな」

「え?うん。それはそうかも、でも…」

「でも、なに?」

「そうなのかな。情報が本当だとして、この犯人の子がいなくなったら、この事件なくなるのかな」

「なくなるやろ。こいつ主犯やぞ」

「うん。そうだとして…だよ。そうだとしたら、確かにこの犯人は憎い。でも、もっと、この子だけじゃなくて、憎むべきは違うところにあるんじゃないかな?」

「どういうこと?」

「うまく言えないんだけど…、この子、こうなりたくてなったわけじゃないんじゃないかな」

「違う、こいつは不良品や。こんな奴、産まれてこんでよかった」

「ともくん、それは違うと思うんだよ、うまく言えないけど、多分それは違う」

「いや、産まれてこなくていい人間は、きっとおる。最近、はっきりとそう思う」

「ともくん…それだ。今わかった。ともくんが昔と変わったところ。昔は、そんな人を切り捨てるようなこと、言わなかった。仕事でもね、最近そうだよ。『あいつはいらん』とか言うようになった。人をね、選別してるような気がするんだよ。『いる人』と『いらない人』に」

そうかもしれない。自分では気がつかなかったが、無意識のうちにそうしているかもしれない。いよいよ、隠れていた自分の本性が出てきたのかもしれなかった。

「ようこ…、多分、そうや。いや、おれはそうしてるな」

「うん。言わかなったけどね、実は違う人といるような気がしてたんだよ。ずっと」

こんな日が来るとは、思っていた。

『あなたはともくんじゃない』

そう言われる日がくると思ってたし、そのために、ようこに毎日きてもらってたのだ。

そして、もう二度とようこの知ってる田坂智には戻れない。だから、その時がきたら、決めていた。

「ようこ、おれら…」

「別れないよ。別れない。待ってるから…ともくん帰ってくるの、待ってる。目の前にともくんいるのに変だけど、待ってるからね」

そう言われるのがわかっていたかのように、ようこが言葉を遮ってきた。簡単に引き下がりそうにない。

今は、別れ話に時間をかけたくなかった。

「ようこ…とりあえず明日から1人にしてくれ。いろいろ考えたい」

「わかった。じゃあ、明日からしばらく来ないね。というより、今から帰る。まだ電車あるし。正直、今、ちょっと一緒にいるのつらいんだ。でも、ともくん帰ってきたらすぐ教えてよ!私の知らないともくん」

ようこは笑って、泣いていた。誰に向かって何を話しているのか、本人もきっと分かっていないんだろう。

「悪い、気持ちの整理というか、落ち着いたら連絡する」

「うん」

簡単な荷物をまとめて出ていこうとするようこを玄関まで送った。

「じゃあ、気をつけて帰ってな」

「うん。やっぱり、私の知らないともくんだ」

「え?」

「私の知ってるともくんは、絶対に駅まで送ってくれたよ」

そう言われてみればそうだった。ようこに「ここでいいから!」と言われてもいつも送っていってた。

「ごめん…」

「ううん。いいよ。だって、違う人だもん。じゃあね」

手を振って出ていくようこ。ようこは待っていたかもしれないが、その背中を追う気にはなれなかった。

(ようこ…ごめん)

すぐにやりたいことがあった。

ここ最近、人を消す気になっているのにデリートサイトが立ちあがってこなかった。それはきっとようこがいたからだ。

1人じゃないと、きっと『あの人』は出てきてくれない。初めの頃、あんなに嫌だったデリートサイトや研究員の人に対して、今はまったく違う感情を持っている。

(はやく…消したい。不要な人間は一刻も早く削除すべきだ。1人だときっと…)

急いで寝室へ戻った。

「やっぱり、そう思ってたよ」

電気が消えているはずの寝室がうす暗く光っている。

デリートサイトが立ちあがっていた。
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