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第1話【デリートサイト】
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「もしもー僕がー、こーのー世界にー、生まれてーこなーかーったらー、僕のー愛したーあのー女の子はー、いったいー誰をー愛してーいたんだろー、もしもー、あ!また歌ってる途中に曲変える!」
「ブランキーばっかりやだもん」
そう言って違う曲をかけ始めたのは彼女のようこ。付き合い始めて1年になる。いつも車で出かけるときは大好きなブランキージェットシティーの曲をかけるのだが、30分もしないうちに違うアーティストに変えられる。
「ブランキー最高のバンドやのに、よさがわからんかなぁ」
「今の曲、なんか歌詞が暗いよ」
「もしおれが存在しなければ…みたいな歌詞。オレは好きなんです。ようこ、オレがおらんかったら他の誰と付き合ってたんやろな」
「ともくんのいない世界とか、考えられません。ともくん、私いなかったら他の誰かと付き合ってる?」
「うん」
「薄情なやつー。ねぇ、私のどこが好き?」
「それ、おれの嫌いな質問ランキング不動の1位やわ」
「どうしてよ!」
「そもそも好きになるのに「どこが」とかないやろ。好きになったから好きやねん。こことここ、そしてこの部分を気に入りました結果、めでたくあなたを好きになりました。みたいな説明できへんやろ」
「うまくごまかされてる気がする。好きになった理由というかきっかけというか」
「ごまかしてへんし、理由とかないわ。部屋探しやないねん。素敵なキッチンが決め手でした。みたいな明確な説明無理やん。だいたい恋愛感情を理屈で考えようとする時点でナンセンスやわ」
「誰もそんな話してない!ちゃんと見てくれてるか不安になっただけ!なによ!『もし存在しなかったら』とか考える方がナンセンスだよ!存在するんだから。生まれてきたことをなかったことになんてできないじゃん!」
確かに。そんなことできるわけがない。
できるわけないが、おれはふと、もし自分が存在しなければ…とか、もしこの人の存在がなければ…など考えてしまうことがあった。まあ、確かにナンセンスと言われればそれまでだ。
「あ!『ようこがいなかったら今、誰とどうしてただろう』とか考えてるでしょ!」
図星をつかれて笑うしかなかった。
「なによー!」
横で怒り出すようこ。
(今日は機嫌を直してもらうのに時間がかかりそうだ)
おれは今のうちから対策を考えておくことにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おはようございます」
9時前、いつもの時間に出社する。
「おう田坂おはよう。あれ、寝不足か?顔ひどいぞ」
昨日、ようこの機嫌がなんとかなおったのが夜中の2時。そこから「わたし明日仕事昼からやし仲直り会しよう!」ということで朝方まで飲みに付き合わされたのでほとんど寝ていない。こっちは朝から仕事なのでたまったものではない。
「新藤さん、ほとんど寝てないんですよ」
「ははは、そうか。グッチー来る前に顔洗ってシャンとしてこいよ」
そう言ってくれたのは先輩の新藤さん。仕事もでき、なんでも話せる大好きな先輩だ。グッチーというのはおれたちの上司である藤木さんのあだ名。なぜグッチーかというと…
「みんなおはよう。今日は朝から営業会議やからよろしく。その後は他部署のあかん連中と打ち合わせか。あいつら、ほんまあかん。あの部署、上司も部下ぜんぜんあかんわ。だいたい、この会社仕事でけへんヤツが多すぎるねん。あかん会社やわぁ。ん?おい田坂!なんじゃその顔は、死にそうな顔しとるやないか!お前はいつも…」
出社と同時に愚痴り始めるこの男こそ、上司の藤木である。朝の9時から他人の悪口、愚痴を言い放ち、実に発言の9割以上が他人の悪口か愚痴という凄まじい男だ。
そのためグッチーと命名されたわけだが、女性社員は「グッチーは響きがかわいいから腹が立つ」という理由で愚痴男と呼んでいた
笑いをかみ殺している新藤さんの横を通って、トイレに行き顔を洗う。あらためて顔を見る。確かにひどい顔だ。グッチーではないが、ほんとうに死にそうな顔だなと思った。
そんな死にそうな顔をしているおれは田坂智。今年で35歳になる営業マンだ。1度結婚に失敗してるが、子供はいない。今の会社には30歳のときに入社した。入社時は大阪支社での採用であったが、2年前から東京の本社勤務となった。
グッチーもそうだが、大阪から本社勤務となる人が多く、本社オフィスの約半数が関西人。そのため、標準語と関西弁が入り混じるオフィスになっていた。おれも東京生活が3年目に入るので、関西弁と標準語が混じるおかしな言葉を使うようになっていた。
できる限りまともな顔に戻し、席へ戻る。今日は月曜日、月曜の朝は定例の営業会議だった。営業会議といってもグッチーの会社批判、他部署の悪口を聞くだけの会議なので何の生産性もない。聞きたくもない愚痴を散々聞いたあと、外出する。
会社がシステム開発会社なので、基本的に自社で開発したシステムの営業となる。おれは基幹システムを担当しており、お客様は製造メーカーなどの生産部門がメインだった。
この日は午前と午後に訪問のアポイントが1件づつ。午後の仕事が終わり、お客さまのところを出たのが4時。予定より少し早かったが、疲れ果てていたのでその日は直帰することにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
5時過ぎに家に着く。定時は6時なのでだいぶ早いが、日報など適当にごまかせばよい。営業という仕事は結果がすべてだ。極端な話、結果さえ出せば1日8時間働かなくたって良い。
「残業してほとんど寝ずに頑張ったんですけど、契約取れなかったんです」
という人よりも、
「今日、ほとんど漫画喫茶でサボってましたけど、1件契約取ってきました」
という人の方が評価されるべきだ。
営業成績は良い方だったので、おれは適度に息抜きをしていた。関西にいるころは営業中よく甲子園に高校野球を見に行ったものだ。
結果を出す限り自分のペースで仕事ができる。それが営業の最大の魅力だと常々思っていた。
(とりあえず、なんか食べて寝よう)
そう思い、キッチンへ向かおうとしたとき、テーブルに書置きを見つけた。
『おなかすかして帰ってくると思ったのでうどんを作っておきました。温めてたべてね。ようこ』
(そうか、今日仕事昼からだからうどん作ってくれたのか。でも、うどんってダシか何か作っといてくれたんかな)
冷蔵庫を空ける。てっきり鍋にうどんのダシが入れてあるものだと思っていたが、鍋がなく、どんぶりがぽつんと置いてあった。
ダシだけどんぶりに入れたのかな。そう思ってどんぶりを出して見ると、そこにはのびきった天ぷらうどんがあった。
(なんで天ぷらうどん完成させて出ていくんだろう…)
完成させてしまうと、当然うどんはのびのびになる。天ぷらもボロボロになっていた。うどんのダシだけでいい。それ温めて後からうどんと天ぷらを入れないと…
でも、それ言うとまた
「せっかく作ったのになによー!」
って怒るんだろうな。
まあ、こういうのは作ってくれた気持が嬉しいので、のびきった天ぷらうどんを温めていただくことにした。
お腹が落ち着くと、急激に眠くなってきた。
(もう今日は寝よう)
寝室へ行く。寝る前にパソコンのメールだけチェックしておこうと思い、寝室のテーブルに置いてあるノートパソコンを立ち上げようとすると、すでに立ち上がっていおり、何かのサイトが表示されていた。
(ようこが何か見ていたのかな)
そう思い画面を見ると、『DELETE SITE』というタイトルのサイトが表示されており、そのログイン画面が立ち上がっていた。
(デリートサイト?何だこれ?)
全く知らないサイトだった。
(やっぱりようこか。とりあえずメーラーを立ち上げよう)
そう思った時、スマートフォンがメッセージを受信した。差出人は送信専用アドレスとなっていた。
「田坂智さま
こちらDELETE SITE事務局です。このたびは突然のご連絡で申し訳ございません。
実はこのたび、私どもが長年かけて開発してまいりましたDELETE SITEが完成し、記念すべき当サイトの会員第1号として、田坂さまを選出させていただきました。詳しい説明はサイト内でいたしますので、まずはこのメールに記載してるID、パスワードにてログインしていただきますようお願いいたします。」
(迷惑メールか?)
無視しようと思ったが、自分の名前がドンピシャであっている。何より、目の前でサイトが立ち上がっているのだ。とてもただの迷惑メールと思えなかった。
記載されているID、パスワードでログインするとサイトが表示されたが、もの凄く簡易的なサイトだった。画面右上にログイン情報が表示されている。
ここに自分の名前と年齢。中央上部に「Let’s Delete!」という可愛い感じのロゴがあり、その下にサイト説明と思われる文章。その下にボタンが三つならんでいる。左から「DELETE(ファイルアップロード)」「思い出リスト」「DELETE履歴」ボタン。そしてその下に「トークルーム」と書かれた大きなテキストエリアがあり、下の方に入力用のエリアがあった。
それらを確認した時、再びスマートフォンがメッセージを受信した。
「田坂智さま
ログインありがとうございます。
それでは、これよりはサイト内で説明に入らせていただきます。サイト内に大きめのトークルームと記載されたテキストエリアがあります。今後はこちらでやり取りをしていくことになります。」
そして、サイト内のトークルームに最初のメッセージが送られてきた。
「まずはサイトに記載されております説明文を読んでください。その上で質問事項などにお答えしていきます。」
(これは何なんだ?)
わけのわからないことだらけだったが、とりあえず説明文を読んでみることにした、そこには次のように記載されていた。
「このDELETE SITEはあなたが選んだ人を消し去ることができるサイトです。
消し去るとは殺すことでなく「いなかったこと」つまり「生まれてこなかったことにする」ことを意味します。
当サイトはあなたが選んだ人物の消去を毎日深夜0時に実施します。例えば1月1日に選ばれた人物は1月2日の深夜0時。つまり1月1日の24時に消去されることになります。そして、消去された日からはその人が生まれてこなかった場合の現実が始まります。
ここで注意していただきたいのは、あなたから見た場合にその人がいない現実が始まるだけであって、あなた以外の周りの方には何の違和感もないということです。あなたには突然その人が消えたように見えますが、周りの方にとってはそもそもそんな人はいないので、普通の日常通りとなります。
あなたから見た場合、その人がいない歴史に突如変わるので過去が変わったように見えます。しかし、重ねて申しますが、周りの方はそれが普通の日常なのです。まずはこの違和感に慣れてください。
次に削除の方法ですが、DELETE(ファイルアップロード)より削除したい人物の写真をアップロードしてください。複数人写っているものでも、「1番右の人です」など補足してもらえれば大丈夫です。削除できる人数は1日1人となります。もちろん、毎日削除していただかなくても大丈夫です。
削除するにあたりあなたに発生する代償ですが、1人削除する毎に、あなたの記憶から思い出が1つ消えます。消す思い出については、「思い出リスト」より選択してください。あらかじめ当サイトであなたの思い出を洗い出しております。もし削除する人物を指定後、削除する思い出を選択されなかった場合、その時点で残っている中で一番古い思い出から削除されます。
そして最後になりますが、会員有効期限は「思い出がなくなるまで」です。あなたの思い出が全てなくなった時、自動的に退会となりますので悪しからずご了承ください。その他、不明点などありましたらトークルームより質問お願いいたします。」
いたずらサイトにしては中々手が込んでいる。なぜおれの連絡先、名前が分かったのか、なぜ勝手にサイトのログイン画面が立ち上がってたのか。そしてそもそも、なんのためにこんな手の込んだいたずらをするのか。
いろいろ言いたいことはあったが、メールチェックしてさっさと寝ようと思った。メーラーを立ち上げる。しかし、メーラーのアイコンが全く反応しない。サイトが表示されているブラウザだけがアクティブになっている。
「ご質問はございませんか?ないようでしたら本日の削除はいかがなさいますか?」
そうメッセージがきた。
(本日の削除か…ほんとに消してくれるなら、消してほしいヤツは山ほどいるよ)
「藤木だ。藤木を消してくれ。
あかん。もうちょっと乗って遊んだろうと思ったけど、眠いわ。お前、こんないたずらやめた方がええぞ。」
そう送った後ブラウザを閉じようとしたが、閉じるボタンが見当たらない。ショートカットキーでも閉じない。タスクマネジャーにも出てこない。よく見るとブラウザのアドレスバーに何も表示されていない。
「手続きの途中でブラウザは閉じれませんよ。起動、終了、全てこちらで管理しています。また、当サイトが立ち上がった状態でノートパソコンを閉じるとアラーム音がなります。藤木さんの削除手続きに入っておりますので、写真のアップロードをお願いします。アップロード完了後、ブラウザの閉じるボタンを有効にいたします。」
(こいつ相当パソコンできるな。メールチェック早くしたいし、ブラウザ閉じるボタン早く有効にしてもらわないと)
そして、忘年会か何かでとった藤木の写真を送った。幸い藤木一人で写ってる写真があったのでそれを送った。
「アップロードしましたよー。早く閉じさせてー。」
「写真確認いたしました。それでは明日の0時に藤木さんを削除いたします。これよりブラウザを閉じるボタンが有効になりますが、思い出を選択後に終了されることをお勧めします。もし思い出を選択されない場合、現時点での一番古い思い出から削除されることになります。」
このメッセージ受信後、ブラウザを閉じるボタンが有効になった。おれはすぐにブラウザを閉じ、メールをチェックした。特に返信する必要のないメールばかりだったので、そのままパソコンを終了し、ベッドに潜りこんだ。
(しかし、手の込んだいたずらをするもんだな。でも、よく考えたら個人情報盗まれてるばかりか、ハッキングもされてるのか。別にサーバーって訳でもない個人パソコンなのに、そんなことできるものなのか。明日、会社の開発チームの人に聞いてみよう)
そんなことを思いながら眠りについた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝、いつもの時間に目が覚める。12時間近く寝たようだ。疲れたときはこのくらい寝ることができる。おれの特技の一つだ。そしていつもの電車に乗り、会社へ向かった。
9時前に会社へ着く。
「おはようございます」
「おう田坂!おはよう!今日はしゃきっとしとるな」
「新藤さん、昨日はめっちゃ寝ましたから」
そう言って自席へつこうとしたとき、
「田坂!おはよう!!」
と声をかけられた。見ると全然知らない人だった。
「あ、おはようございます。あの…どちらさん……?」
「おいおい田坂!寝すぎか?国重部長忘れるか?それか、なんか新しいギャグか?」
(国重部長?誰だ?それは。おれらの上司は人の悪口か愚痴しか言わない残念すぎる男、グッチーじゃないか)
「新藤さん、今日はグッチーまだですか?」
「グッチー?」
「はい。あの、藤木さんですよ」
「誰だ?それ?」
「誰って、おれたちの上司じゃないですか。発言の9割以上が人の悪口か愚痴の人ですよ」
「そんな残念な人間、この世に存在するわけないだろ。こいつ、本格的に寝ぼけてるな」
「田坂さん、今日なんか変ですね」
そう言ってきたのは営業事務のゆきちゃん、グッチー1番のお気に入り女性社員で、よくご飯に誘われていた。ことごとく断り続けていたが。
「ゆきちゃん。愚痴男、当然覚えてるよな?ご飯誘われる度にこの世の終わりみたいな顔してたもんな」
「誰ですか?それ?田坂さんやっぱり今日おかしいですよ」
「田坂さん、本気で寝ぼけてる。面白い」
久しぶりに聞く声。
(小島だ!小島がいる!)
小島とはおれが東京勤務になった年に入った新卒社員だったのだが、毎日聞かされる藤木の愚痴に耐え切れず、心を病んでしまって休職し、そのまま退職した可哀想なやつだった。
「小島!体は大丈夫か?病気はもういいのか?」
「田坂さん、本当に大丈夫ですか?僕、健康そのものですよ。病気なんてしないですよ」
(何なんだ。何がどうなってる…)
「田坂、調子おかしいなら今日帰っていいぞ。お前は十分結果を出してる。1日休むくらいどうってことない」
(なんだ、この見るからにイケてる人物は。国重とか言ったっけ?仕事できるオーラが半端ない)
「田坂、お言葉に甘えたら?」
「新藤さん、おれ、今日おかしいですか?」
「うん。絶不調だよ」
「そうですか。でも、個人のノルマは達成してるかもしれないけど、今月部門の売上目標に全然届きそうにないですよね。そんな中で帰らせてもらうのはちょっと」
「そうでもないだろ」
そう言って新藤さんがパソコンをこちらに向け売上データを見せてくれた。
(何だ…この売上金額は…グッチーが仕切ってた頃の倍どころの騒ぎではない。3倍近い。新藤さんの売上半端ないし、おれの売上も上がってる。小島もおれとそんなに変わらない。他のメンバーの売上も凄いことになってる。何なんだ、これ)
「新藤さん、これって…」
(あっ!昨日のあれ…)
そのとき、思い出した。昨日のあのサイトのことを。いたずらじゃなかったのか。
(なんて書いてあった?断片的にしか思い出せない。殺すんじゃなくて、いなくなるとかなんとか。周りの人は普通。その人がいない世界。おかしいのは自分だけとかなんとか。思い出せない。おれが、おれがほんとにグッチーを消したのか。グッチーの家族は?奥さんも子供もいたはずだ)
気づくと震えていた。
「田坂、顔色悪いぞ」
「新藤さん、おれ、おれ、、、消した。」
「何言ってんだお前は。国重部長の許可もあるし、今日はもう帰れ」
(やっぱりあのサイトだ!本物だったんだ。何しやがった。わからないこと全部聞かないと。グッチーを戻さないと。早く帰らないと!)
「すみません!今日は帰らせてもらいます!」
(あのサイトの管理人、何者なんだ…)
早く帰らないといけない。でも、自分の家が悪魔が住む館のように思えてきて、怖くて仕方なくなっていた。
「ブランキーばっかりやだもん」
そう言って違う曲をかけ始めたのは彼女のようこ。付き合い始めて1年になる。いつも車で出かけるときは大好きなブランキージェットシティーの曲をかけるのだが、30分もしないうちに違うアーティストに変えられる。
「ブランキー最高のバンドやのに、よさがわからんかなぁ」
「今の曲、なんか歌詞が暗いよ」
「もしおれが存在しなければ…みたいな歌詞。オレは好きなんです。ようこ、オレがおらんかったら他の誰と付き合ってたんやろな」
「ともくんのいない世界とか、考えられません。ともくん、私いなかったら他の誰かと付き合ってる?」
「うん」
「薄情なやつー。ねぇ、私のどこが好き?」
「それ、おれの嫌いな質問ランキング不動の1位やわ」
「どうしてよ!」
「そもそも好きになるのに「どこが」とかないやろ。好きになったから好きやねん。こことここ、そしてこの部分を気に入りました結果、めでたくあなたを好きになりました。みたいな説明できへんやろ」
「うまくごまかされてる気がする。好きになった理由というかきっかけというか」
「ごまかしてへんし、理由とかないわ。部屋探しやないねん。素敵なキッチンが決め手でした。みたいな明確な説明無理やん。だいたい恋愛感情を理屈で考えようとする時点でナンセンスやわ」
「誰もそんな話してない!ちゃんと見てくれてるか不安になっただけ!なによ!『もし存在しなかったら』とか考える方がナンセンスだよ!存在するんだから。生まれてきたことをなかったことになんてできないじゃん!」
確かに。そんなことできるわけがない。
できるわけないが、おれはふと、もし自分が存在しなければ…とか、もしこの人の存在がなければ…など考えてしまうことがあった。まあ、確かにナンセンスと言われればそれまでだ。
「あ!『ようこがいなかったら今、誰とどうしてただろう』とか考えてるでしょ!」
図星をつかれて笑うしかなかった。
「なによー!」
横で怒り出すようこ。
(今日は機嫌を直してもらうのに時間がかかりそうだ)
おれは今のうちから対策を考えておくことにした。
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「おはようございます」
9時前、いつもの時間に出社する。
「おう田坂おはよう。あれ、寝不足か?顔ひどいぞ」
昨日、ようこの機嫌がなんとかなおったのが夜中の2時。そこから「わたし明日仕事昼からやし仲直り会しよう!」ということで朝方まで飲みに付き合わされたのでほとんど寝ていない。こっちは朝から仕事なのでたまったものではない。
「新藤さん、ほとんど寝てないんですよ」
「ははは、そうか。グッチー来る前に顔洗ってシャンとしてこいよ」
そう言ってくれたのは先輩の新藤さん。仕事もでき、なんでも話せる大好きな先輩だ。グッチーというのはおれたちの上司である藤木さんのあだ名。なぜグッチーかというと…
「みんなおはよう。今日は朝から営業会議やからよろしく。その後は他部署のあかん連中と打ち合わせか。あいつら、ほんまあかん。あの部署、上司も部下ぜんぜんあかんわ。だいたい、この会社仕事でけへんヤツが多すぎるねん。あかん会社やわぁ。ん?おい田坂!なんじゃその顔は、死にそうな顔しとるやないか!お前はいつも…」
出社と同時に愚痴り始めるこの男こそ、上司の藤木である。朝の9時から他人の悪口、愚痴を言い放ち、実に発言の9割以上が他人の悪口か愚痴という凄まじい男だ。
そのためグッチーと命名されたわけだが、女性社員は「グッチーは響きがかわいいから腹が立つ」という理由で愚痴男と呼んでいた
笑いをかみ殺している新藤さんの横を通って、トイレに行き顔を洗う。あらためて顔を見る。確かにひどい顔だ。グッチーではないが、ほんとうに死にそうな顔だなと思った。
そんな死にそうな顔をしているおれは田坂智。今年で35歳になる営業マンだ。1度結婚に失敗してるが、子供はいない。今の会社には30歳のときに入社した。入社時は大阪支社での採用であったが、2年前から東京の本社勤務となった。
グッチーもそうだが、大阪から本社勤務となる人が多く、本社オフィスの約半数が関西人。そのため、標準語と関西弁が入り混じるオフィスになっていた。おれも東京生活が3年目に入るので、関西弁と標準語が混じるおかしな言葉を使うようになっていた。
できる限りまともな顔に戻し、席へ戻る。今日は月曜日、月曜の朝は定例の営業会議だった。営業会議といってもグッチーの会社批判、他部署の悪口を聞くだけの会議なので何の生産性もない。聞きたくもない愚痴を散々聞いたあと、外出する。
会社がシステム開発会社なので、基本的に自社で開発したシステムの営業となる。おれは基幹システムを担当しており、お客様は製造メーカーなどの生産部門がメインだった。
この日は午前と午後に訪問のアポイントが1件づつ。午後の仕事が終わり、お客さまのところを出たのが4時。予定より少し早かったが、疲れ果てていたのでその日は直帰することにした。
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5時過ぎに家に着く。定時は6時なのでだいぶ早いが、日報など適当にごまかせばよい。営業という仕事は結果がすべてだ。極端な話、結果さえ出せば1日8時間働かなくたって良い。
「残業してほとんど寝ずに頑張ったんですけど、契約取れなかったんです」
という人よりも、
「今日、ほとんど漫画喫茶でサボってましたけど、1件契約取ってきました」
という人の方が評価されるべきだ。
営業成績は良い方だったので、おれは適度に息抜きをしていた。関西にいるころは営業中よく甲子園に高校野球を見に行ったものだ。
結果を出す限り自分のペースで仕事ができる。それが営業の最大の魅力だと常々思っていた。
(とりあえず、なんか食べて寝よう)
そう思い、キッチンへ向かおうとしたとき、テーブルに書置きを見つけた。
『おなかすかして帰ってくると思ったのでうどんを作っておきました。温めてたべてね。ようこ』
(そうか、今日仕事昼からだからうどん作ってくれたのか。でも、うどんってダシか何か作っといてくれたんかな)
冷蔵庫を空ける。てっきり鍋にうどんのダシが入れてあるものだと思っていたが、鍋がなく、どんぶりがぽつんと置いてあった。
ダシだけどんぶりに入れたのかな。そう思ってどんぶりを出して見ると、そこにはのびきった天ぷらうどんがあった。
(なんで天ぷらうどん完成させて出ていくんだろう…)
完成させてしまうと、当然うどんはのびのびになる。天ぷらもボロボロになっていた。うどんのダシだけでいい。それ温めて後からうどんと天ぷらを入れないと…
でも、それ言うとまた
「せっかく作ったのになによー!」
って怒るんだろうな。
まあ、こういうのは作ってくれた気持が嬉しいので、のびきった天ぷらうどんを温めていただくことにした。
お腹が落ち着くと、急激に眠くなってきた。
(もう今日は寝よう)
寝室へ行く。寝る前にパソコンのメールだけチェックしておこうと思い、寝室のテーブルに置いてあるノートパソコンを立ち上げようとすると、すでに立ち上がっていおり、何かのサイトが表示されていた。
(ようこが何か見ていたのかな)
そう思い画面を見ると、『DELETE SITE』というタイトルのサイトが表示されており、そのログイン画面が立ち上がっていた。
(デリートサイト?何だこれ?)
全く知らないサイトだった。
(やっぱりようこか。とりあえずメーラーを立ち上げよう)
そう思った時、スマートフォンがメッセージを受信した。差出人は送信専用アドレスとなっていた。
「田坂智さま
こちらDELETE SITE事務局です。このたびは突然のご連絡で申し訳ございません。
実はこのたび、私どもが長年かけて開発してまいりましたDELETE SITEが完成し、記念すべき当サイトの会員第1号として、田坂さまを選出させていただきました。詳しい説明はサイト内でいたしますので、まずはこのメールに記載してるID、パスワードにてログインしていただきますようお願いいたします。」
(迷惑メールか?)
無視しようと思ったが、自分の名前がドンピシャであっている。何より、目の前でサイトが立ち上がっているのだ。とてもただの迷惑メールと思えなかった。
記載されているID、パスワードでログインするとサイトが表示されたが、もの凄く簡易的なサイトだった。画面右上にログイン情報が表示されている。
ここに自分の名前と年齢。中央上部に「Let’s Delete!」という可愛い感じのロゴがあり、その下にサイト説明と思われる文章。その下にボタンが三つならんでいる。左から「DELETE(ファイルアップロード)」「思い出リスト」「DELETE履歴」ボタン。そしてその下に「トークルーム」と書かれた大きなテキストエリアがあり、下の方に入力用のエリアがあった。
それらを確認した時、再びスマートフォンがメッセージを受信した。
「田坂智さま
ログインありがとうございます。
それでは、これよりはサイト内で説明に入らせていただきます。サイト内に大きめのトークルームと記載されたテキストエリアがあります。今後はこちらでやり取りをしていくことになります。」
そして、サイト内のトークルームに最初のメッセージが送られてきた。
「まずはサイトに記載されております説明文を読んでください。その上で質問事項などにお答えしていきます。」
(これは何なんだ?)
わけのわからないことだらけだったが、とりあえず説明文を読んでみることにした、そこには次のように記載されていた。
「このDELETE SITEはあなたが選んだ人を消し去ることができるサイトです。
消し去るとは殺すことでなく「いなかったこと」つまり「生まれてこなかったことにする」ことを意味します。
当サイトはあなたが選んだ人物の消去を毎日深夜0時に実施します。例えば1月1日に選ばれた人物は1月2日の深夜0時。つまり1月1日の24時に消去されることになります。そして、消去された日からはその人が生まれてこなかった場合の現実が始まります。
ここで注意していただきたいのは、あなたから見た場合にその人がいない現実が始まるだけであって、あなた以外の周りの方には何の違和感もないということです。あなたには突然その人が消えたように見えますが、周りの方にとってはそもそもそんな人はいないので、普通の日常通りとなります。
あなたから見た場合、その人がいない歴史に突如変わるので過去が変わったように見えます。しかし、重ねて申しますが、周りの方はそれが普通の日常なのです。まずはこの違和感に慣れてください。
次に削除の方法ですが、DELETE(ファイルアップロード)より削除したい人物の写真をアップロードしてください。複数人写っているものでも、「1番右の人です」など補足してもらえれば大丈夫です。削除できる人数は1日1人となります。もちろん、毎日削除していただかなくても大丈夫です。
削除するにあたりあなたに発生する代償ですが、1人削除する毎に、あなたの記憶から思い出が1つ消えます。消す思い出については、「思い出リスト」より選択してください。あらかじめ当サイトであなたの思い出を洗い出しております。もし削除する人物を指定後、削除する思い出を選択されなかった場合、その時点で残っている中で一番古い思い出から削除されます。
そして最後になりますが、会員有効期限は「思い出がなくなるまで」です。あなたの思い出が全てなくなった時、自動的に退会となりますので悪しからずご了承ください。その他、不明点などありましたらトークルームより質問お願いいたします。」
いたずらサイトにしては中々手が込んでいる。なぜおれの連絡先、名前が分かったのか、なぜ勝手にサイトのログイン画面が立ち上がってたのか。そしてそもそも、なんのためにこんな手の込んだいたずらをするのか。
いろいろ言いたいことはあったが、メールチェックしてさっさと寝ようと思った。メーラーを立ち上げる。しかし、メーラーのアイコンが全く反応しない。サイトが表示されているブラウザだけがアクティブになっている。
「ご質問はございませんか?ないようでしたら本日の削除はいかがなさいますか?」
そうメッセージがきた。
(本日の削除か…ほんとに消してくれるなら、消してほしいヤツは山ほどいるよ)
「藤木だ。藤木を消してくれ。
あかん。もうちょっと乗って遊んだろうと思ったけど、眠いわ。お前、こんないたずらやめた方がええぞ。」
そう送った後ブラウザを閉じようとしたが、閉じるボタンが見当たらない。ショートカットキーでも閉じない。タスクマネジャーにも出てこない。よく見るとブラウザのアドレスバーに何も表示されていない。
「手続きの途中でブラウザは閉じれませんよ。起動、終了、全てこちらで管理しています。また、当サイトが立ち上がった状態でノートパソコンを閉じるとアラーム音がなります。藤木さんの削除手続きに入っておりますので、写真のアップロードをお願いします。アップロード完了後、ブラウザの閉じるボタンを有効にいたします。」
(こいつ相当パソコンできるな。メールチェック早くしたいし、ブラウザ閉じるボタン早く有効にしてもらわないと)
そして、忘年会か何かでとった藤木の写真を送った。幸い藤木一人で写ってる写真があったのでそれを送った。
「アップロードしましたよー。早く閉じさせてー。」
「写真確認いたしました。それでは明日の0時に藤木さんを削除いたします。これよりブラウザを閉じるボタンが有効になりますが、思い出を選択後に終了されることをお勧めします。もし思い出を選択されない場合、現時点での一番古い思い出から削除されることになります。」
このメッセージ受信後、ブラウザを閉じるボタンが有効になった。おれはすぐにブラウザを閉じ、メールをチェックした。特に返信する必要のないメールばかりだったので、そのままパソコンを終了し、ベッドに潜りこんだ。
(しかし、手の込んだいたずらをするもんだな。でも、よく考えたら個人情報盗まれてるばかりか、ハッキングもされてるのか。別にサーバーって訳でもない個人パソコンなのに、そんなことできるものなのか。明日、会社の開発チームの人に聞いてみよう)
そんなことを思いながら眠りについた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝、いつもの時間に目が覚める。12時間近く寝たようだ。疲れたときはこのくらい寝ることができる。おれの特技の一つだ。そしていつもの電車に乗り、会社へ向かった。
9時前に会社へ着く。
「おはようございます」
「おう田坂!おはよう!今日はしゃきっとしとるな」
「新藤さん、昨日はめっちゃ寝ましたから」
そう言って自席へつこうとしたとき、
「田坂!おはよう!!」
と声をかけられた。見ると全然知らない人だった。
「あ、おはようございます。あの…どちらさん……?」
「おいおい田坂!寝すぎか?国重部長忘れるか?それか、なんか新しいギャグか?」
(国重部長?誰だ?それは。おれらの上司は人の悪口か愚痴しか言わない残念すぎる男、グッチーじゃないか)
「新藤さん、今日はグッチーまだですか?」
「グッチー?」
「はい。あの、藤木さんですよ」
「誰だ?それ?」
「誰って、おれたちの上司じゃないですか。発言の9割以上が人の悪口か愚痴の人ですよ」
「そんな残念な人間、この世に存在するわけないだろ。こいつ、本格的に寝ぼけてるな」
「田坂さん、今日なんか変ですね」
そう言ってきたのは営業事務のゆきちゃん、グッチー1番のお気に入り女性社員で、よくご飯に誘われていた。ことごとく断り続けていたが。
「ゆきちゃん。愚痴男、当然覚えてるよな?ご飯誘われる度にこの世の終わりみたいな顔してたもんな」
「誰ですか?それ?田坂さんやっぱり今日おかしいですよ」
「田坂さん、本気で寝ぼけてる。面白い」
久しぶりに聞く声。
(小島だ!小島がいる!)
小島とはおれが東京勤務になった年に入った新卒社員だったのだが、毎日聞かされる藤木の愚痴に耐え切れず、心を病んでしまって休職し、そのまま退職した可哀想なやつだった。
「小島!体は大丈夫か?病気はもういいのか?」
「田坂さん、本当に大丈夫ですか?僕、健康そのものですよ。病気なんてしないですよ」
(何なんだ。何がどうなってる…)
「田坂、調子おかしいなら今日帰っていいぞ。お前は十分結果を出してる。1日休むくらいどうってことない」
(なんだ、この見るからにイケてる人物は。国重とか言ったっけ?仕事できるオーラが半端ない)
「田坂、お言葉に甘えたら?」
「新藤さん、おれ、今日おかしいですか?」
「うん。絶不調だよ」
「そうですか。でも、個人のノルマは達成してるかもしれないけど、今月部門の売上目標に全然届きそうにないですよね。そんな中で帰らせてもらうのはちょっと」
「そうでもないだろ」
そう言って新藤さんがパソコンをこちらに向け売上データを見せてくれた。
(何だ…この売上金額は…グッチーが仕切ってた頃の倍どころの騒ぎではない。3倍近い。新藤さんの売上半端ないし、おれの売上も上がってる。小島もおれとそんなに変わらない。他のメンバーの売上も凄いことになってる。何なんだ、これ)
「新藤さん、これって…」
(あっ!昨日のあれ…)
そのとき、思い出した。昨日のあのサイトのことを。いたずらじゃなかったのか。
(なんて書いてあった?断片的にしか思い出せない。殺すんじゃなくて、いなくなるとかなんとか。周りの人は普通。その人がいない世界。おかしいのは自分だけとかなんとか。思い出せない。おれが、おれがほんとにグッチーを消したのか。グッチーの家族は?奥さんも子供もいたはずだ)
気づくと震えていた。
「田坂、顔色悪いぞ」
「新藤さん、おれ、おれ、、、消した。」
「何言ってんだお前は。国重部長の許可もあるし、今日はもう帰れ」
(やっぱりあのサイトだ!本物だったんだ。何しやがった。わからないこと全部聞かないと。グッチーを戻さないと。早く帰らないと!)
「すみません!今日は帰らせてもらいます!」
(あのサイトの管理人、何者なんだ…)
早く帰らないといけない。でも、自分の家が悪魔が住む館のように思えてきて、怖くて仕方なくなっていた。
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