デリートマン

わいんだーずさかもと

文字の大きさ
2 / 33

第2話【デリートマン誕生】

しおりを挟む
走った。駅を下りてから家までのいつもの道なのに、やけに長く感じる。

(グッチー…ほんとに消えたのか…)

嫌いだった。自分がこれまでの人生で出会ってきた中で1、2を争うくらい嫌いでダメなやつだった。でも、それでも自分に人を消す権利なんてあるはずがない。

マンションに着く。10階建てのマンションで部屋は5階だった。エレベーターが何階で止まっているかなど確認せず、階段を駆け上がる。

勢いのまま階段を駆け上がった方が速い気がした。玄関のドアを開け、乱暴にくつを脱ぎ捨てる。

部屋の間取りは2LDK。玄関を開けると小さな玄関ホールがあり、正面のドアを開けるとリビング。ホール、リビングに面した部屋がそれぞれ1つずつあるのだが、おれはリビングに面した部屋を寝室として使用している。

リビングを突っ切り寝室へ駆け込む。

パソコンが立ち上がり、デリートサイトが表示されていた。もう、ログイン後の状態になっていた。

「おい!おい!!」

パソコンに向かってそう叫んだが、反応はない。

(そうだ。メッセージ)

乱暴にキーボードをたたく。



「おい!どーなってんねん!!藤木が消えたぞ!」

すぐに返信が返ってきた。

「はい。藤木さんの削除依頼をいただきましたので、ご依頼通りに処理させていただきました」

(何がご依頼通りだ)

「昨日はいたずらかなと思ってん。ほんまに消してほしかった訳やない。もういいから元に戻してくれ!」

「できません。一度消した人間は、元に戻せません」

(やっぱり、ほんまに、きえた…おれが…消した……?)

心臓の音が聞こえた。

「どうなってる?どうなってんのか教えてくれ」

何がなんだかわからない。悪い夢なら覚めてほしかった。

「昨日はご質問がないようでしたので詳細な説明はしませんでしたが、必要であればご説明します。どの部分がご不明でしょうか?」

(どの部分だと?全部だよ)

理解できてることなんか一つもない。あるとすれば、これがいたずらじゃないということくらいだ。

「お前は誰だ?このサイトは何だ?誰が何のためにこんなことやってんねん。あんたらの目的は?」

衝動のままにキーボードをたたく。関西弁と標準語が混じるおかしなメッセージになっている。

「サイトの仕様以外はお答えできないことになっているのですが、田坂さまは記念すべき会員第一号ですので、できる範囲でお答え致します。

まず私ですが、ある研究機関に所属している者です。このデリートサイトは私の所属する研究機関で開発されたもので、私も開発メンバーの一員です。

目的ですが、おおまかに言いますと研究を進めるためとなります。今実施している研究にどうしても必要なデータがありまして、このデリートサイトはそのデータを集めるためのツールと理解していただければ結構です。

研究内容について今は明かせませんが、田坂さまにはこの研究にご協力いただきますので、いつか、お話できるときがくると思います」

(研究?協力?ふざけんな!)

「あのさ、何やってるかわからん研究に協力できるわけないやろ。そもそも、する気もないけど」

「田坂さまにその気がなくても、私どもとしては問題ございません。

『結果、ご強力いただいている』という形になりますので。加えて言いますと、もうすでにご協力いただいております。貴重なデータを一ついただけました。ご協力、感謝致します」

(勝手に感謝するな。おれが協力した?既にデータを一つ渡した?何を言ってるんだ)

「感謝するのは勝手やけど、おれ、何もしてへんぞ。このサイトでデータ収集すんねやろ?おれ、このサイトに何も入力してへんしな。このサイトでやったことって」

キーボードを打つ手が止まった。

(このサイトでやったこと。藤木を…グッチーを…けしたこと…か?)

「グッチーを消したこと。それが協力か?」

「結果的にそうなります。しかし、この部分は理解していただかなくてかまいません」

(こっちがかまうんだよ)

「人消すことが協力か?さっぱりわからへん。何やろうとしてる?」

「先ほども申しましたが、今はお答えすることができません。いつか、お話できると思います」

(そうだった)

これ以上聞いても研究内容については教えてもらえないらしい。とりあえずは研内容については考えないことにした。

(一旦落ち着こう)

何がわからないのかがわからないのだ。まず、今わからないことを明確にしないといけない。

今の状況を整理するため、オレはもう一度説明文を読み返した。



このDELETE SITEはあなたが選んだ人を消し去ることができるサイトです。

消し去るとは殺すことでなく「いなかったこと」つまり「生まれてこなかったことにする」ことを意味します。

当サイトはあなたが選んだ人物の消去を毎日深夜0時に実施します。例えば1月1日に選ばれた人物は1月2日の深夜0時。つまり1月1日の24時に消去されることになります。そして、消去された日からはその人が生まれてこなかった場合の現実が始まります。

ここで注意していただきたいのは、あなたから見た場合にその人がいない現実が始まるだけであって、あなた以外の周りの方には何の違和感もないということです。あなたには突然その人が消えたように見えますが、周りの方にとってはそもそもそんな人はいないので、普通の日常通りとなります。

あなたから見た場合、その人がいない歴史に突如変わるので過去が変わったように見えます。しかし、重ねて申しますが、周りの方はそれが普通の日常なのです。まずはこの違和感に慣れてください。



(まず、前半のこの部分だ)

確かに、みんなの反応は普通だった。藤木を知っているオレがおかしな人になっていた。

「生まれてこなかったことにする」

とは文字通りの意味だろう。つまり、藤木なんて人間は初めからこの世の中に存在しないんだ。今の現実はオレが覚えてる藤木がいた世界とは別の世界。藤木が存在しなければ、国重って男が部長になってたんだ。

藤木が存在しないので、小島もうつ病にならずに元気だったんだ。そういう過去になってて、みんなはずっと国重部長の下で働いてる。ずっと前から、そしてこれからも。

過去が変わったように見えるとはそういうことらしい

(ちょっと待てよ…てことは、おれも国重部長の下で働いていたことになる。でも、おれにはその記憶がない。藤木のことしか覚えてない)

「とりあえず、研究内容はええわ。人を消すことによって起こる変化について教えて。藤木が存在しない世界、つまり今の世界では国重が部長になってる。それはなんとなく理解できるんやけど、おれの記憶がおかしいぞ。

だって、その場合俺も国重の下でずっと働いてたことになるやろ?そやのに、おれにはその記憶がまったくない。どうなってるん?」

「ようやくサイトの仕様に質問が移りましたね。サイトの仕様に関しては納得いくまでお答えしますよ。

田坂さまが人を消した場合、消した人が存在しなかった場合の過去に変わり、それは現在にも引き継がれます。ここまではご納得いただいていると思います。

そしてご質問の記憶に関してですが、田坂さまの記憶には何の変化も起こりません。つまり、生じた過去の変化に関連する記憶は、田坂さまにはまったくないことになります。

今回のケースですと、ご質問いただいている国重さんと仕事をしてきた過去。また、細かい話になりますが、例えば、藤木さんの命令で田坂さまが先輩の新藤さんと一緒にA社に訪問したことがあったとします。

しかし国重さんの下では訪問先がB社に変わっていたとします。その場合、田坂さまはA社に行った記憶はありますが、B社に行った記憶はないのです。そして、当然ですがB社に行ったことが今の世界では真実となります。

ですので、田坂さまが新藤さんに「A社に行った時の話ですけど・・・」と話しても新藤さんからすれば「何それ?」となりますし、逆に新藤さんが田坂さまに「この前訪問したB社なんだけど・・・」と言っても、田坂さまからすると「何の話?」となるわけです。

サイトの説明文に書かせていただいている『違和感』とはそういうことなのです」

そういうことか。

「つまり、今いる現実の世界で考えた場合、おれは部分的な記憶喪失みたいになるわけだ」

「おっしゃられるとおりです」

(なるほどね。違和感に慣れろって書いてるけど、そんなもん慣れれるもんなのかな。おれは藤木と仕事した記憶しかないしな。慣れろって言われても…)

そんなことを考えている時、一つの疑問が出てきた。

(あれ?藤木に関するものとかどうなる?奥さんは別の人と結婚してるか独身でいるはず。子供だって当然存在しないずだ。でも、写真とかは…)

そう思って、スマートフォンの写真を確認する。

(消えてる…消す時に送った藤木の写真も、藤木に「可愛いやろ」って言われて無理やり保存させられた子供の写真も、そして、アドレス帳に入ってた藤木の連絡先も消えてる)

「写真とかも消えるんや」

はい。そういったものも全て消えます。「藤木」という人物、またその人が築いてきた歴史は田坂さまの記憶にしか残りません」

(そうか。おれはあいつの歴史とか微々たることしか知らんけど、あいつはあいつなりに頑張ってきたはず。これからやりたいこともあったはず。それを、おれが…やっぱり、許されないことをした。もう…誰も消したくない)

「人が消えたために起こる過去の変化、それに関連する記憶についてはだいたい分かった。

サイトにはさ、「殺すわけではない」って書いてるけど、おれからしたらやっぱり殺したも同然や。もう誰も消したくない」

「罪悪感がありますか?」

「ないわけないやろ」

「なるほど。しかし田坂さま、あなたは殺人者ではありませんよ。今日会社に行って、誰かから「人殺し!」と非難されましたか?「主人を返せ!」と奥さんから連絡がありましたか?

非難されないし、連絡もありませんよね。もちろん、警察があなたを捕まえに来ることもない。

なぜか?

それは「藤木」という人物など最初からこの世に存在しないからです。ですので田坂さま、あなたが罪悪感を感じる必要など微塵もないのです」

(理屈ではそうかもしれんけど…)

無理だ。おれは藤木のことを覚えてる。そういうならおれの記憶からもみんなと同じように藤木消してほしかった。それなら、何も感じなかったのに。

(そういや記憶?思い出?ルールみたいなのがあったな)

後半を読み進めてみる。



次に削除の方法ですが、DELETE(ファイルアップロード)より削除したい人物の写真をアップロードしてください。複数人写っているものでも、「1番右の人です」など補足してもらえれば大丈夫です。削除できる人数は1日1人となります。もちろん、毎日削除していただかなくても大丈夫です。

削除するにあたりあなたに発生する代償ですが、1人削除する毎に、あなたの記憶から思い出が1つ消えます。消す思い出については、「思い出リスト」より選択してください。あらかじめ当サイトであなたの思い出を洗い出しております。もし削除する人物を指定後、削除する思い出を選択されなかった場合、その時点で残っている中で一番古い思い出から削除されます。

そして最後になりますが、会員有効期限は「思い出がなくなるまで」です。あなたの思い出が全てなくなった時、自動的に退会となりますので悪しからずご了承ください。その他、不明点などありましたらトークルームより質問お願いいたします。



(いたずらやと思ってたから、思い出なんて選択してない。でも、何か消えたんか)

「思い出は?おれ、なんか消されたんか?」

「はい。記載にあります通り、選択されない場合は一番古いものから削除されますので、一番古いものを削除させていただきました」

「何を消した?」

「少年野球をされていた思い出です」

(少年野球?そんなものしていない。野球を始めたのは中学だ。)

「おれが野球を始めたん、中学や。少年野球なんてしてへんけど?」

「いえ、小学4年生から野球をされています。今度ご実家に行かれた時など、ご両親に確認されてみては?写真なども残っているかもしれませんよ」

「ほんまにか?おれ、なんも思い出されへん」

(本当に消されたのか。でも、こいつらなら平気でやりそやな…え?ちょっと待てよ!)

「てことは、消された部分の記憶の話も噛み合えへんくなるんやないんか?」

「そうなります。これから大変ですね」

(呑気に言うな!消してんの誰だよ…)

でも、これで人を消すのは終わりだ。これ以上はない。そう決めていたが、気になっていることがあった。

『思い出リスト』

これがどういったリストなのか気になっていた。おれはそのボタンを押してみた。

(これは…なんだ?おれのリアルな思い出、というか歴史だ。どうやって…)

「思い出リストが気になりますか?」

「ならなへんわけないやろ」

(どうやったんだ、これ?)

そこには小学校時代から覚えている行事などが並べられていた。『少年野球』の項目は削除済みになってる。また、人に関する思い出もズラッと並んでいた。大学生時代時代の友人、『〇〇との思い出』など、これまで関わってきた人すべての名前がそこにあった。

「これ、なんでわかんの?どうやって集めたん?」

「気になりますか。本来、個人情報の収集方法についてはお答えできないことになっているのですが、田坂さまは会員第一号なので、特別にお答えします。

でもその前に、思い出リストについて補足説明させていただきますね。

まず、リストは「やってきたこと」と「人」。大きくはこの2つのカテゴリに分かれます。今回削除させていただいた少年野球は前者になります。

そして、田坂さまが明確に覚えている時期からの「こと」や「人」でリストは作成されています。ですので、幼稚園や小学校低学年時代にやったこと、また、その時代にしか関わらなかった人に関する思い出はありません。

次に「やってきたこと」に関してどのくらいの期間で区切るかですが、小学校、中学校、高校、大学、社会人というくくりになります。

例えば今回削除した野球ですと、「初めて出たあの試合」など、細かいくくりにはならず、少年野球の思い出すべてが消えます。運動会などの行事もそうです。

「優勝したあのリレー」などの細かい設定はできず、選択した時代すべての運動会の思い出が消えます。

「人」に関してはその人との思い出すべてが消えます。しかし、その人を忘れる訳ではありません。その人のことは覚えているのですが、その人と一緒に頑張ったこと、遊びに行ったところ、飲んだこと、喧嘩したことなど、それらすべての記憶が消えます。

田坂さまが会員第一号ですので、まだデータがなく何とも言えないのですが、人との思い出を消した場合、おそらく田坂さまがその方に抱いている「好き」とか「嫌い」などの感情が消えます。ただの「知っている人」という認識になるはずです。

もちろん、消えた後にまた感情が出てくることはあるかもしれませんが。

また、「人」については注意事項があります。それはその方との思い出が「やってきたこと」リストにもある場合、その思い出も消えてしまいます。

例えば、田坂さまが一緒に高校野球を頑張った仲間にAさんがいたとします。そして、そのAさんとの思い出を消した場合、「やってきたこと」リストの中から高校野球の思い出も同時に消えます。

ですので、田坂さまと関わりが深い方の思い出を消した場合、一気にたくさんの思い出が消える可能性が出てきますのでご注意ください。

逆は大丈夫です。高校野球の思い出を消したとしても、Aさんと遊んだりした他の思い出が消える訳ではありません。Aさんと高校野球を頑張った思い出だけが消えます。

以上となりますが、リストについて何か質問はありますか?」

細かいところまで考えると何か出てきそうな気はしたが、リストに関しては大まかには理解できたし、何よりもう人を消す気は無かったので、聞きたいことは無かった。それよりも気になっていることを聞きたかった。

「大丈夫。リストについては何となく理解できた。それより、どうやってこのリストをつくった?」

「リストについてご理解いただけたようで何よりです。それでは、データの収集方法についてですが、田坂さま、IoTという言葉をご存知でしょうか?」

(IoT、確かInternet of Thingsだったかな。すべてのものがインターネットにつながるとか何とかだったな)

「聞いたことある。確か、Internet of Thingsやったっけ?身の周りのものがインターネットにつながるとか何とか。ただ、詳しくは知らん」

「そうです。Internet of Things。すべてのものがインターネットにつながる時代です。テレビや携帯は持ちもん、車だってインターネットにつながっています。

今の時代、田坂さまの身の回りにあるもので、インターネットにつながっていないものはないと言っても過言ではありません。そして、インターネットにつながったすべてのものからはデータ収集が可能です。

ここまでは大丈夫でしょうか?」

「それは何となくわかる。でもおれ、ブログみたいなんもやってへんし。いちいち出会ってきた人をどっかに登録したりもしてへんし、やってきたこと記録したわけやない。おれのデータが集まるわけないと思うんやけど」

「田坂さまに何も登録していただく必要はないんですよ。重ねて言いますが、インターネットにつながったものからはすべてデータ収集が可能です。

そして今、すべてのものがインターネットにつながっているんです。お分かりになりますか?」

いまいちピンとこない。

「ネットにつながってるものからデータが取れるのはわかるけど、おれのデータが取れるのがわからへんねん。だって、おれがインターネットにつながって」

そこまで打ち込んで手が止まった。

「田坂さま、わかりやすく言いますね。われわれから見ると田坂さまはデバイスの一つに見えるんです」

血の気が引いていく。

「何をした?おれの体に何か埋め込んだんか?」

キーボードをたたく手が震えていた。

「いえ、何もしておりません。ですが、田坂さまはしっかりと私たちの開発したネットワークに繋がっております」

(もう、やめてくれ…)

これ以上聞きたくないとも思ったが、聞けるのを止めれるはずがなかった。

「どうやって?」

「田坂さまが出している信号を拾って通信しているんです。これは田坂さまに限った話ではなく、人間である以上、全員が出している信号になりますが」

「なんのことや?おれ、なんにも出してない。おれが信号出してるなら、発信機のようなものを埋め込まれたとしか思われへんぞ」

「いえ、私どもは何もしておりません。ですが、今現在も田坂さまは信号を発信しております。微弱ですが、田坂さまの頭からの信号になります」

(頭からの信号?)

少し考える…

(あっ)

と声をあげそうになった。

「まさか、脳波か?」

「そうです。脳波自体は極めて微弱な信号になりますが、それを我々の技術で無線通信ができるレベルに変換させ、通信させております。もちろん、周波数帯域は我々独自の帯域を使用します」

「ふざけんな!そんなことできるわけ」

ないだろう。

そう打とうとしたが、手が止まった。人を消して過去を変えれるような奴らだ。それぐらい当たり前のようにやりそうだ。

「いつからデータをとってる?」

「田坂さまが生まれたその瞬間からです。すべての人間は、生まれた瞬間に我々のネットワークへ接続されます」

(そういうことか。おれが見てきたことや感じたこと、いや、もう全てか)

「よくわかったよ。おれのパソコンに入り込める理由とかも気になってたけど、もう聞く必要がなくなった。

人をつなぐ技術がある。1台のノートパソコンをつなぐぐらいどうってことないんやろうな。IDもパスワードも筒抜けか」

「無断で入り込んでしまい申し訳ございませんでした。ですが、我々は田坂さまを選んだんです。田坂さまは選ばれた人間なのです。

その点を考慮していただき、無断で侵入してしまったこと、許していただきたく存じます」

(それだ。ずっと引っかかってた。なぜおれなんだ?)

「聞かせてくれへんか。なんで、なんでおれなん?選定した理由は?」

「田坂さま、脳波を使って通信することにより、その人間の思考パターンというデータもとれます。このデータを収集できるのは大きい。その人間がどういう性格で、どういう思考パターンで行動するかわかりますからね。

おそらくは、今は我々の方が田坂さまの性格や思考パターンについて、ご本人である田坂さまより把握できてると思いますよ」

「ちょっと待て!その分析間違えてないか?なんでおれ?

ごく平凡なサラリーマンやぞ。人より秀でてるもんなんか一つもない。あんたらだって優秀な人に手伝ってもらった方がええやろ?

なんでこんな平凡な男を選ぶ?」

「いえ、分析の結果、我々の求めている人材に一番近い結果が出たのは、田坂さま、あなたなのです。田坂さまを置いて他にはいません。

我々はこのデリートサイトの会員さまを、「デリートマン」と呼ぶことにしております。

田坂さま、あなたは記念すべきデリートマン第一号なのです」

(冗談じゃない。人消し実験なんかに付き合うか)

「なるほど、わかった。でも、残念なお知らせがあんぞ。あんたらのデータ分析ロジックな、やっぱりバグってる。おれを選んでる時点で使いもんにならん分析プログラムや。

だって、おれはもう人を消す気ないからな」

本音だった。

「いえ、田坂さま、プログラムの不具合ではありません。あなたは優秀なデリートマンになります。これから人を消していくことになります」

「何回も同じこと言わせんな!おれは消さんっていうてるやろ!

なんであんたらに「おれが人を消す」ってわかるねん。おれが「もう消さへん」って決めてんねん。消すわけがない。

それとも何か、おれはマインドコントロールでもされるんか?」

「いえ、田坂さま、マインドコントロールなどしません。あなたの思うままに行動してください。その結果、あなたは人を消すことになります。

そう思う理由はたった一つ、あなたは私たちの選んだデリートマンだからです」

(これ以上言っても無駄だ)

「わかった。よー見とけよ。あんたらのプログラムがバクってたのを証明したる」

「楽しみにしております田坂さま。

最後に。このサイト、webサイトという形をとっておりますが、このPCからしかアクセスできません。アドレスもありませんしね。

またこれは前回言ったと思いますが、サイトの立ち上げ、終了などはすべてこちらで管理します。ですので、田坂さまがこのデリートサイトを立ち上げるということはできません。

しかし、それほど心配していただくことはありません。田坂さんが必要と思われた時、必ずサイトは立ち上がっているはずですので。

それと、言い忘れていたことがあります。研究の関係上、このデリートサイトは国内でしか効力を発揮できない仕様になっております。ですので、海外の方は消せません。

例えば、核実験を繰り返す国の首相を消そうとしてもそれはできませんのでお伝えしておきます。それでは、本日の削除はいかがなさいますか?」

「サイトのアドレスもないし、そんな気はしとったよ。おれから立ち上げることもできへんねんな。了解。立ち上げる必要なんか、もうないから問題ありません。

あと、もちろん人は消しません。今日だけやなくて、明日からもずっとな」

「かしこまりました。田坂さま。

それでは、本日の削除はなしということなので、本日はこれにて失礼いたします。次、また田坂さまが必要とされた時にデリートサイトが立ち上がりますので、その時まで。

それでは、失礼致します」

サイトが閉じられ、いつも使っているノートパソコンに戻った。

(もう、人は消さへんよ。だからあんたと話すこともない。さよなら…名前聞いてない。まあいいか。さよなら。どっかの研究機関の人)

やり取りが終わると、一気に疲れが押し寄せてきた。

自分が選ばれたことはプログラムのバグだと思っている。そう思っているのは事実だが、一つだけ、引っかかった。それは、「もし自分がいなければ」とか「この人がいなければ」などをよく考えていたことだ。でも、本当に消えて欲しいなど思ったことは一度もない。

(やっぱりプログラムのバグだな。疲れたし、少し休もう)

そう思ってベッドに横になろうとした時に玄関の開く音がした。

「とーもーくーん!」

(管楽器かお前は)と突っ込みたくなるようなよく通る声で、そう叫びながらようこが入ってくる。

(今日は休めそうになさそうだな)

そう思って時計を見た。もう夕方になろうとしていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...