デリートマン

わいんだーずさかもと

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第16話【デリートマンの友達⑦】

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たまさんの店で飲んだ翌日は休みだったので、おれは自分の部屋で考え込んでいた。

(やっぱり、間違いない)

けんぼーの話を聞いて、田坂はしげさんが母親からメールをもらったことを確信した。
あれから、お店にけんぼーが来て話してくれた。

その日、けんぼーはしげさんのお店に飲みにいくつもりにしていたらしく、店に向かう途中にしげさんを見かけたので呼びとめた。そして、しげさんは携帯にメールがあったので、母親の病院に行くと言って、尻無川の方へ歩いていった。

ここまではきよさんから聞いた通りだが、けんぼーの話には続きがあった。
しげさんのお店、「しげきち」は平日の暇な日など、早めに店を閉めることがあるので、この日もてっきり店が閉まっていると思って、けんぼーはあきらめて違うお店に行こうとしていたのだが、しげきちの赤ちょうちんがまだ店先に出ていたらしい。

けんぼーは、奥さんがまだお店をやっているなら少し飲ませてもらおうと思って、しげきちに寄った。店に入ると、カウンターに座っていた奥さんが両手で電話を握りしめていたが、けんぼーに気づくと、一瞬だけ凄く驚いた顔を見せた。しかし、その表情は本当に一瞬で、そのあとすぐいつもの顔に戻って、

「今日はもう閉店なんです」

と笑った。ただ、

「閉店なんです」

というわりに店は何も片付いておらず、閉店という感じがしなかった。そして、そのとき見せた麻里の驚きの表情が「どえらい顔」だったらしい。

けんぼーの話はこういう内容だったが、たまさんは「はいはい」と適当に聞いていた。確かにろれつの回っていない酔っ払いの話し方だったが、おれには嘘をついているようにはどうしても思えなかった。
そして、話を聞いて新たに1つ疑問が出てきた。

『なぜ、麻里は閉店の準備をしていなかったのか』

という疑問。しげさんは平日暇なとき、早くに店を閉めることがある。そのときは閉店を麻里に任せてウォーキングをすることがあるので、それ自体は不自然なことではない。
ただ、しげさんが早くに店を閉めるときは、必ずお客さんが一人もいないときだ。一人でもお客さんがいれば、しげさんは絶対に店を閉めないので、その日もしげさんがウォーキングに出た時点では一人のお客さんもいなかったことになる。

しげさんの家は、「しげきち」から徒歩5分とかからないすぐ近くのマンションだ。そのマンションから、しげさんとけんぼーが出会う場所まで徒歩10分といったところ。家に帰って急いでウォーキングの準備を済ませたとしても、しげさんが店を出てから、けんぼーが店に入ってくるまで、少なくても30分はあったはずだ。30分もの間、赤ちょうちんも消さずに、のれんもしまわずに、店の中も片付けずに、麻里は何をしていたのだ?
仕事そっちのけでしなければけない『何か』をしていたのではないのか?

そしてもう1点。しげさんの話では店に入ったとき、麻里が両手で電話を握りしめていたそうだが、誰からの連絡を待っていたんだ。少なくても、仕事を忘れてしまうくらい重要な連絡であることは間違いないはずだ。
この30分間に麻里が『何か』をしたことは間違いない。いや、『何か』じゃない。この時間に母親になり済まし、しげさんにメールを送ったのだ。そして、その後の計画も、おそらく用意されてたのだろう。

(どうやったんだ)

ベッドに横たわりながら、横の机に置いてあるパソコンをちらっと見た。デリートサイトは立ち上がっていない。どうやら、こちらが聞きたいことがあっても、人を消す関連以外のことには反応してくれないらしい。

(お前だったらわかるだろう、教えてくれたっていいじゃないか)

パソコンの画面は変わらず暗いままだ。

(今度出て来たらあいつに文句言ってやろう)

ふーっ、と息をついて天井を見上げる。

真っ白な天井が、何のアイデアも浮かんでこない自分の頭の中のように思えた。

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


その日の夜、おれはパソコンを使って作業をしていた。デリートサイトが立ち上がってきたわけではなく、年賀状の作成をするためだ。考えてもわからないものは仕方ない。おれはこういうとき、何か別の関係ない作業をすることにしている。

それに、もう年末なので、そろそろ年賀状を書いておかないといけない時期でもあった。
毎年、年賀状を出しているメンバーの住所はパソコンのソフトに入れてあるので、まずはおもての宛名を印字していく。引越しなどで住所変更があったデータは都度修正していき、一通り宛名の印字が終わった。

(あ、忘れるとこだった)

年賀状のうらを作成しようとしたが、1人、重大な人物を忘れていた。彼女のようこだ。去年はまだ付き合って日が浅かったが、年賀状をくれた。
もちろん返そうと思ったが、ようこは差出人である自分の名前しか書いておらず、自身の住所を記載していなかったので住所がわからなかった。

だから電話でもしてようこに住所を聞こうと思ったのだが、めんどくさくなってしまい、そのままにしてしまった。そして、正月明けに会ったときである。

「なんでよー!なんでともくん年賀状くれないのよー!!私のこと好きじゃないからでしょー!!」

と、それはご立腹だった。ひどく短絡的な思考回路だと思ったがこちらに非があることも間違いないので、素直に謝って、事情を説明した。

「住所聞いてくれたらいいじゃん!!この薄情ものー!!」

いや、それはその通りだが、そもそも返信を期待するなら自分の住所を書くべきだ。というより、普通は書くだろう。ただ、そんなことを言えば火に油をそそぐことになるので、言わなかったが。

(今年はさすがに元旦に届くようにしないとな)

結局、住所を聞きそびれていたので、

「住所を教えて」

という旨のメールを送った。返信があるまで、うらのデザインでも考えておこう。

(しかし、郵便局は差出人の氏名や住所の確認はしないんだな)

もし、そういうのをちゃんとしてくれていたら、ようこの年賀状は届かなかったのだ。たとえば、

『差出人は氏名と住所を明記することにして、それが本当の場合のみ、相手に届けることにする』

というルールだったらどうだろう。

宛先の住所と名前は実際に届けるから、もちろん合ってなければ届かないが、それを差出人側にも適用しておいてくれたら、自分が避難されることはなかった。ただ、そんなことをすれば、郵便局員さんの仕事量が2倍になるが。

(郵便局員さんに怒られるな)

そう思ったときだ。ふと、1つの考えが頭をよぎった。

(年賀状やはがきなら、なり済ませるんじゃないのか?)

そのはずだ。

仮にだ、自分がはがきを出すときに、差出人を『やまだたろう』とし、住所も適当に記載する。しかし、宛先の住所と氏名さえ合っていれば、『やまだたろう』さんとして、そのはがきは相手へ届くはずだ。はがきを届ける前に、『やまだたろう』なる人物と、記載された住所が実在するかなど、郵便局は調べない。実際にはがきを出した自分、『田坂智』はどこにも出てこない。

『やまだたろう』さんは架空の人物だが、実在する人物でも可能なはずだ。
たとえば、第三者が差出人名と住所にしげさんの母の名前、住所を記載して、しげさんにはがきを送れば、それはそのまましげさんに届いてしまう。

このとき、受け取ったしげさんはそれが母親だと信じて疑わないのではないのか?
はがきの場合筆跡などがあるが、もしメールで同じことができれば、筆跡など関係なくなる。

(メールはどうなんだ)

おそらく、メールでの差出人は送信アドレスになる。
そして、受信側では受信したメールアドレスを元に、携帯に記録されている連絡先をチェックして、誰からのメールかを表示するはずだ。

もし連絡先に登録されていないメールアドレスだと、名前でなくメールアドレスがそのまま表示される。だから、迷惑メールなどは長ったらしいわけのわからないメールアドレスがそのまま表示されるのだ。
メールを送受信する際、郵便局に当たるのはメールサーバーになるだろう。このメールサーバーがどういうプログラムになっているのかわからないが、郵便局と一緒で、差出人情報についての確認はしないのではないのか?

つまり、差出人として届いたメールアドレスが、本当にそのアドレスを持っている携帯端末から送られたものなのか、チェックなどしないのではないのか?
そんなことを考えているとき、スマートフォンがメールの受信を知らせた。
画面に『ようこ』とある。

これは、自分のスマートフォンに登録してある『ようこのアドレス』から受信があったことを知らせているだけだ。それだけのことで、本当に『ようこ』からだとは厳密にいえばわからないはずだ。

(自分の送信アドレスを変更して送ることもできるんじゃないのか)

はがきでは差出人を偽ることくらい簡単にできるんだ。知識がある人間なら、簡単にできるような気がした。
スマートフォンを手に取る。そして、その中の連絡先から一人の名前を探した。

袴田はかまださん』

探していた名前はすぐに見つかった。その人物に電話をかける。袴田さんは東京本社のシステム開発部門に所属する先輩だ。開発部門はコンピューターのスペシャリスト集団といった雰囲気で他者を寄せ付けない空気があり、田坂はどこか苦手だった。しかし袴田は、その集団の中にいながらそんな空気を微塵も感じさせない、気さくでおだやかな人物だった。

「もしもし、大阪で大活躍中の田坂さんですか。どうされましたか?」

電話口から聞こえてくる声は、相変わらずのふざけた軽い感じだ。

「すみません突然お電話して、今大丈夫ですか?」

「晩酌始めたとこだからまだ酔ってないよ。どうした?」

いつもは軽口で返すのだが、こちらの声に余裕がないので、袴田も真剣な口調になってくれる。

「すみません。お楽しみ中のところ。実は、袴田さんに聞きたいことがありまして…」

おれはゆっくりと話を始めた。
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