おばあちゃんの迎え火

わいんだーずさかもと

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おばあちゃんの迎え火

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田舎に行けるお盆休みは、僕にとって一番の楽しみだった。
「大きくなったねぇ」
大好きなおばあちゃんが優しく言ってくれるその一言から、僕のお盆休みは始まる。
木に登って虫を捕ったり、海に潜って魚を捕ったり。
捕った虫や魚を見せると、おばあちゃんはいつも
「すごいねぇ」
と言ってくれた。
でも、大好きなおばあちゃんはもういない。
去年、病気で死んじゃったんだ。

「こうたくん、よくきたね。何年生になったの?」
「4年生です」
「そう、大きくなって。ゆっくりしてきんさいよ」
田舎に着くとおばさんが迎えてくれた。
お母さんのお姉さんだ。
いつもは、おばあちゃんが真っ先に出迎えてくれる。でも、おばあちゃんはもういない。
「けんじさん、お盆も仕事って大変なんだね」
お父さんは仕事なので、今年のお盆はお母さんと僕だけだ。
「そうなの、いろいろ仕事大変そうで。姉さん、今年はこうたと2人だけどよろしくね」
「ぜんぜんいいよー。ゆっくりしていきんさい」
「ありがとう。あ、そうだ。こうた、おばあちゃんのところいこう」
お母さんと僕は仏壇へ行った。
仏壇には、去年まではなかったおばあちゃんの写真があった。
線香をあげて、お母さんと一緒に手を合わす。
でも、僕にはまだおばあちゃんがいなくなった実感がなかった。

夕方、おばさんが庭先で火を焚いていた。
おばあちゃんに教えてもらった。『迎え火』だ。
この火から出る煙を目印に、ご先祖様が帰ってくる。
おばあちゃんもこの煙を目印に帰ってくるんだ。
そんなことを思いながら、僕は煙を見上げていた。

次の日から、おばあちゃんを探すことにした。
煙を目印におばあちゃんが帰ってきてくれたなら、おばあちゃんはどこかにいるはずだ。
「おばあちゃーん」
家の中のいろんなところを探した。でも、おばあちゃんはいなかった。
その次の日も探すが、どこにもいない。
ずっとおばあちゃんを探し続けたが、見つけることができなかった。そしてとうとう、明日が帰る日になってしまった。

一緒に遊んだところにいるかもしれない。
そう考えた僕はその日、おばあちゃんと一緒に虫を取りに行った山に行くことにした。
だいたいの場所はわかるはずだ。そう思って家を出た。
しばらく歩いて山には着いたが、ここではない気がした。
思えば、1人で田舎の道を歩くのは初めてだ。いつも、おばあちゃんと一緒だったから。
山を歩いているうちに、僕は迷っていることに気がついた。どこをどう歩いてきたかもわからないので、どうやって帰って良いかもわからない。
「おばあちゃーん」
呼んでみるが、もちろん返事はなかった。
あたりも少しつづ暗くなり始めてきて、僕は不安になってきた。
その時だった。
目の前に白い煙が現れた。
その煙は、空に向かって伸びるのではなく、目の前の道をスーッと伸びて行った。
これをたどっていけばいいのかな。
そう思った僕は、煙が伸びて行く方へ歩いた。
すると山を抜けた。もう少し歩くと見たことのある道へ出た。
煙はそのまま田舎の家まで続いているようだった。

僕は煙を辿って無事に家に着くことができた。もう辺りは暗く、夜になりかけていた。
「こうた、あんたどこ行ってたの!」
お母さんがこっちへ走ってきて、怒った。多分、僕がいなくなったのでみんなで僕を探していたのかもしれない。
「あれ、煙がない」
気がつくと、僕を導いてくれた煙がいつの間にか消えていた
「なんなの?煙って?」
きっと、おばあちゃんだ。僕が迷子になったから、おばあちゃんが家を教えてくれたんだ。
「なんでもない。遅くなってごめんなさい」
「変な子ねぇ、もう、心配させないでよ!とりあえず早く家に入りなさい」
「うん」
僕はお母さんに言われるがまま、家に入った。

僕は玄関を入って、すぐに仏壇の方へ行った。
「あんた、どこ行くの?」
「おばあちゃんのとこ」
「もうご飯だよ」
「後ですぐ行くから」
仏壇の前に座った。
仏壇にはおばあちゃんの写真があった。
「おばあちゃんだよね。煙。おばあちゃん、ありがとう」
僕は目を閉じて手を合わせた。
(カタン)
目の前で音がしたの目を開けると、おばあちゃんの写真が倒れていた。
僕はおばあちゃんの写真を元通りに戻したのだが、写真からおばあちゃんが消えており、そこに写っているのは背景だけになっていた。
「おばあちゃん?」
何回写真を見直しても、そこにおばあちゃんはいなかった。
(サッサッサッ)
後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえる。
(サッサッサッ)
その音は僕のすぐ後ろで止まった。
後ろに、どこか暖かい感じのする気配を感じた。
振り向くと、そこにはおばあちゃんがにっこり笑って立っていた。
「おばあちゃん…」
僕、大きくなった?背も伸びたんだよ。
そう言いたかったが、うまく言葉が出てこず。おばあちゃんを見ることしかできなかった。
「大きくなったねぇ」
おばあちゃんは、去年よりも優しくそう言ってくれた。
「おばあちゃん…」
僕は涙声になっていた。
「こうたのことずーっと待ってたんだよ」
そう言っておばあちゃんは僕の頭を撫ででくれた。
「おばあちゃん、おばあちゃーん」
僕はおばあちゃんに抱きつき、わんわんと泣いた。
「会いたかったよー」
「ばあちゃんもこうたに会いたかったよ」
たくさん言いたいことがあったが、僕は泣くことしかできなかった。
おばあちゃんは泣き続ける僕を抱きしめてくれた。
「ばあちゃん、こうたのことずっと見とるけんね」
うん、うん。と僕はおばあちゃんの胸の中で頷いた。
「お盆はね、来年も、その次も、その次もずーっとばあちゃんいるけん、こっちきんさいね」
おばあちゃんも少し涙声になっているように聞こえた。
「うん。僕、来年もその次も、その次もずーっとくる」
「ありがとうね。こうた。ばあちゃん嬉しいよ」
僕はおばあちゃんの顔を見た。おばあちゃんも泣いていた。
「じゃあね、こうた。おばあちゃん、いくけんね。来年も待っとるからね」
おばあちゃんは、にっこり笑ってそう言うと消えてしまった。
でも、体全体におばあちゃんの温もりは残っていた。

「姉さん、ありがとう。またね。ほら、こうたもお礼言いなさい」
「おばさん、ありがとうございました」
帰り仕度をしながら、お母さんと僕はおばさんにお礼を言った。
「こうたくん、おばあちゃんいなくなったけど、おばさん待っとるけん、来年もきんさいよ」
おばあちゃん、いなくなってないよ。
そう思ったが、口に出すのはやめておいた。
「はい。来年もまたきます。あ、おばあちゃんにもお礼言ってきます」
僕は仏壇へ走った。仏壇にあるおばあちゃんの写真は元通りに戻っていた。
「おばあちゃん、ありがとう。凄く楽しかった。来年もまたくるね」
僕はおばあちゃんの写真にそう言って、笑った。
すると、写真の中のおばあちゃんも笑ったように見えた。
その顔は
「待っとるけんね」
と言ってくれているようだった。
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