少女に抱かれて行く異世界の旅 ~モフモフの魔物は甘えん坊!~

火乃玉

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まったり地球での生活編

名誉挽回の処方箋6

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 大きな豚だ。
 しかも生意気なことに二足歩行。
 手には先端に石をつけた槍のようなものを持っている。

 動きはそれほど早くはない。
 だけど――

「うわ、あぶなっ」

 槍の軌道が鼻先をかすめた。
 敵のレベルは13。私のレベルは1。
 命中すれば体力を8割ほど持っていかれる。すでに一度経験済みだ。

 アクティブなモンスターに出会うまでフィールドを進んで行ったところ、初めて会ったのがこの豚兵長というモンスターだった。いきなり突進してきて鼻っ面に一発入れられ、瀕死にさせられた。
 しかし、だからこそ遠慮せずに叩きのめせるというもの。

 フィールドは森林から草原へと変化している。
 見通しは良く、平坦で足場も良い。

 豚兵長の攻撃の主軸は突き。大袈裟に構えてから一撃を放ってくるので比較的読みやすい。攻撃に合わせてサイドステップによる回避を入れて、隙ができたところへ攻撃を叩きこむ。

 ウサギのキャラクターが短い足をぐるんと回転させて回し蹴りをヒットさせた。それは拳闘士特有の勇猛さとはかけ離れた、コミカルで愛着のわく所作に見えた。そのままコテンと転んでしまっても不思議ではないぐらい不安定な印象を受けたのだ。さすがムー太の分身である。

 レベル差があるため、豚兵長はなかなか倒せない。
 敵のHPバーは敵の頭上に表示されており、残りHPがどのぐらいかパーセントで見れるのだけど、通常攻撃で1%、さきほどの回し蹴り(スキル)を使って2%しか減らすことができない。

 効率の面で言えば最低のレベル上げである。
 どんなマゾプレイかとも思う。
 けれど、ムー太スタイルのモンスターを倒せない以上、これは必須事項。通過儀礼のようなものだ。

 とはいえ、豚兵長を五体倒したところで、こちらのジョブレベルも7となり、倒すペースもだんだんと早くなってきた。そして副産物として、多用している回し蹴りのスキルレベルも12まで上げることができた。これは嬉しい誤算だ。

 豚兵長を倒したらどうするのか。次の豚兵長を倒すのだ。
 豚兵長は仲間と群れるのを嫌うのか、フォールド上に単体でぽつんと立っていることが多い。こいつがもし群れていたら、私のレベル上げはより困窮こんきゅうを極めていただろう。

 距離の離れた次の豚兵長のところまでウサギが走る。
 ってってってー、と短い足をバタバタさせて走って行く。そんな姿もまた愛らしくかわいらしい。

 ベッドですやすやと寝息を立てているムー太の顔をちらりと見やる。
 やはりどことなく似ている。一生懸命なのだけれど、どこか抜けている。そんなところが。

 無心で豚兵長をしばき続けていたところ、気がつけばプレイヤーレベルは12、職業レベルは15となっていた。倒すのに苦労していた豚兵長も、今では四発も殴れば昇天させることができる。ドロップした皮のグローブと皮のブーツもしっかり装備しておく。

「よし、そろそろ次のマップへ行きますか」

 そこからのレベル上げは順調そのものだった。
 敵の攻撃パターンを解析し、攻撃をかわし、一撃を入れて距離を取る。超格上の豚兵長と戦うために編み出したこの戦法が、どの敵に対しても有効であったためである。
 もちろん、すぐに倒せる敵の場合は距離など取らずに、連撃を入れて仕留めるのもありだろう。そちらの方が効率が良いのかもしれない。しかし、ムー太のキャラクターを傷つけたくないという思いと、無傷で勝利することに楽しみを見出した私は、ヒットアンドアウェイ戦法を好んで多用したのだった。

 三日が過ぎた。
 昼は学校、夜はムー太の相手、そして深夜にMMORPG。ヘビーなスケジュールが続いて絶賛寝不足中である。しかし、最初の返済期日まであと4日。返済額は100万G。1日たりとも休む余裕はない。

 プレイヤーレベルは28、職業レベルは36まできた。
 現在のレベルだと、だいたい1時間あたり5万Gは稼げるので、20時間ほど狩りをすれば目標は達成できる。1日平均5時間のプレイが必要で、睡眠時間はよりシビアなものとなっていくだろう。

 しかし、順調だったゲームプレイの方も、この辺りから苦戦を強いられるようになってくる。順調だったヒッドアンドアウェイ戦法が通用しなくなってきたのだ。
 というのも、ヒットアンドアウェイ戦法は一対一の相手には有効なのだけれど、複数の敵相手だと思ったように回避できずに被弾してしまうのだ。この頃だと、五体六体を同時に相手することが当たり前になってきている。敵が群れている場合は仕方ないにしても、少し離れて孤立しているような敵を攻撃した場合でも、仲間を呼ばれて大乱闘に発展してしまう。

 ダメージを受ける以上、回復しなければ死んでしまう。
 必然的に体力回復用のポーションを飲むことになるのだけれど、大乱闘になると敵の数だけ被弾も増え、ポーションを飲むペースも早くなる。そしてその費用がかさみ、お金が貯まらないという結果につながる。
 それでも可能な限り乱闘を避けて敵を倒すようにしていけば、1時間で5万Gの貯蓄をすることは可能。節約を心掛けながら、私はレベル上げとお金稼ぎにまい進した。

 それから更に二日が過ぎた。
 プレイヤーレベルは35、職業レベルは48になった。
 ゲームは中盤に差し掛かっている。
 最初の返済金額である100万Gはすでに達成している。
 レベルが上がったことで効率が上がったためだ。
 このタイミングで、私はMKO最大の都市、王都レガルタへ辿り着いていた。

 ロード画面で何度も見た、花舞う城の画像。その光景が目の前にあった。
 王都では、色とりどりの綺麗な花びらが桜吹雪のように舞っている。どこから飛んできているのだろう。無限にわきあがり画面を彩っている。
 建物も非常に大きい。王都を象徴する中央のお城はもちろん、貴族が住んでいると思われる屋敷の一つ一つまでもが緻密に、そして豪奢に作りこまれている。栄華よここに極まれりという印象だ。
 旅の途中、通過してきた村や街はもっと小さくみすぼらしかった。中には発展した街もあったけれど、王都と比べたらその発展などないに等しい。

 そして何より、人口が圧倒的に違う。
 王都の大通り。そこに出された露店(プレイヤーが出す個人的な商店)の数は百や二百を優に超えているではないか。しかもその露店を行きかう、人、人、人の波。小さい頃によく遊びに行った夜祭の屋台を思い出す。あの時に負けないぐらいの人の波が今、目の前にあった。

 田舎から都会へ上京するとこんな気分になるのかもしれない。
 最初こそ目新しい光景に目を奪われ、辺りをキョロキョロとしていたものの、それにも疲れ、王都の郊外へキャラクターを立たせ、私自身はぼーっと放心していた。

「すごいんだけど、人がいっぱいいるのはリアルもネットも苦手かも」

 いつからだったろう。夜祭に行かなくなったのは。小さい頃は目を輝かせていたはずなのに。

 朝の4:30。区切りは良い。最低限のノルマである100万Gも達成できた。
 今日はとりあえず寝て、明日またやればいいか。そう考え、コーヒーを一口啜った時だった。
 目の前にプレイヤーが立っていることに気がついた。

 全身鎧のアバターには見覚えがある。
 黒光りするフルアーマーを着込んだその男――兜をかぶっているため性別はわからないが中身は確実に男――が、こちらに一歩踏み出した。
 鳥肌がブワッと立つのがわかった。
 頭上に表示されたプレイヤーネームにも見覚えがある。

「こいつ。こいつは――」

 私の全身は硬直していた。どうしたらいいのか判断に困ったからだ。
 全身鎧の男との距離が詰まる。
 文句の一つでも言ってやろうかと思った。
 その次の瞬間、落雷が落ちたみたいに青白く画面が明滅した。
 そして閃光が収まるとそこには――

「なっ、え……なにが」

 ウサギのキャラクターが地面に突っ伏して倒れている。
 画面左上にあるHPは0の表示。
 攻撃を受けたのだということに気づくまでしばらく時間がかかった。
 ウサギは力なく地面に横たわり、マウスを操作しても一切の入力を受け付けない。死んでしまったのだ。大事に大事に、今日この日まで一度も死なせることなくプレイしてきた。私の大事なムー太。その分身が死んでしまったのだ。

 怒りがお腹の底から湧き上がるのを感じた。
 けれど、私には何もできなかった。死亡しているプレイヤーはチャットを打つことすらできない。
 できるのは画面越しに男のことを睨みつけることだけ。

 全身鎧の男は、何も言わずにその場を立ち去った。



 ◇◇◇◇◇

 ムー太は見ていた。

 薄暗い部屋の中でパソコンにかじりつくようにしている七海の後ろ姿を。
 彼女が何をやっているのかはわからなかった。
 ただ一生懸命に頑張っていることだけは伝わってきた。

 普段はオンラインゲームなどプレイしない彼女。例えプレイしても、すぐに飽きてしまうことをムー太は知っている。だというのに、ここ数日の間ずっと、彼女は根気良くプレイを続けている。それもムー太が寝静まったあとにこっそりと。

 そのゲームをムー太は知らない。
 ただ不思議なことに、画面の中を自由に飛び回るウサギは、ムー太が愛用していたキャラクターと似ている。

 興味はあった。
 ただなんとなく邪魔をしてはいけない気がした。
 それほどまでに一生懸命だったから。

 布団から半分だけ体を出して、じっと見つめる。
 画面が激しく明滅した。
 七海は頭を抱えてうな垂れた。
 元気に動いていたはずのウサギのキャラクターが力なく倒れている。
 しばしの沈黙。
 彼女はぶるんぶるんと頭を振り、すぐにゲームを再開した。

 ムー太は見ていた。
 彼女の奮闘する姿を。
 再び眠くなりまどろみの中へ落ちていくまで。
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