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まったり地球での生活編
約束のルカス
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「危ないと思ったらすぐに帰ってくるのよ」
マフラーをムー太の頭にぐるぐると巻きながら、七海が心配そうに言った。
ムー太はまんまるの体を上方へ向けて胸を張り、力強く「むきゅう」と返す。
「絶対、絶対だからね。地球と違って向こうは危険なんだから」
マフラーをターバンのように巻き終わると、最後に三日月型の髪飾りを頭のてっぺんに挿す。この二つはムー太の所有物であり、宝物でもある。七海の匂いが染み込んだマフラーと、イゼラとの別れ際、餞別として貰った木製の髪飾り。この三日月型の髪飾りは、魔樹から削り取って作られた貴重な品でもある。
このマフラーをつけていると、七海の匂いに包まれて彼女に抱かれているような安心した気分になれる。そしてこの髪飾りをつけていると、イゼラに見守られているような気がして勇気が湧いてくる。
準備完了!
冷たいフローリングの上で、ムー太は背伸びするように七海を見上げた。
「むきゅう!」
温厚な性格で平和主義。臆病であり、優しくもあるムー太だけれど、実は頑固な一面も持ち合わせている。一度こうと決めたら一直線。目的に向かって一心不乱に突き進む性格なのは、核を巡る旅路においても明白だった。
不安に翳る七海の表情。普段は明るい彼女が見せるその暗く沈んだ表情の意味を、ムー太は理解している。彼女がどれほどムー太のことを愛し、心配してくれているのかを誰に説明されるまでもなく、肌で正しく感じ取っている。
しかしその心配を押し切ってでも、絶対にやり遂げなければならないことがムー太にはあった。それは日に日に少しずつ大きくなっていき、今では強い使命感を感じるまでに膨らみ成長してしまった。
だからムー太は決めた。
身振り手振りで必死にアピールし、七海にそのことを伝えた。
ムー太に迫る危険を七海が傍観することはまずありえない。しかし同時に、ムー太の強い意志を無碍に扱うような真似も彼女は決してしない。
なぜなら二人の関係は友達だから。
対等な関係であるがゆえに、ムー太の行動を完全に制限することを彼女はよしとしないのである。
無論、最初は反対された。
しかし、ムー太の強い意志を確認した彼女が最終的に折れる形となった。
「もう一度言うけど、危ないと思ったらすぐに帰ってくるのよ」
上目に七海を見上げたムー太が、こくんと頷きを返す。
そしてポンポンとその場で二度跳ねると、大きく深呼吸を挟み、そして勇ましく鳴いた。
「むきゅう!」
気合一閃。
ボンボンに魔力を集中させる。
高密度に圧縮された魔力が青白い光となってボンボンの周りに展開される。
ムー太は思い切って、えいやっとステッキを振るみたいにボンボンを振った。
――フレンズゲート
友達の元へと通じるゲートを開くことができる。
それは七海に会うため、ムー太が習得した魔法である。しかし今、そのゲートは七海の元へは繋がっていない。ゲートは今、もう一人の友達の元へと繋がっている。
四角く開いたゲートの先に一人の少女が立っている。
桃色の髪の毛にピンクの瞳。白のワンピースを着ている。
以前はボサボサだった髪の毛は、丁寧に櫛を通したのかサラサラとなびいている。しかしそれとは対照に、元々はムー太とお揃いで純白だったはずのワンピースは、月日の汚れが重なり薄汚れてしまっているようだ。
彼女の顔を視認したムー太は、懐かしそうに鳴いた。
そんなムー太の頭にそっと手を乗せ、優しく撫でながら七海が言った。
「私は行くことができないけど、サチョによろしくね」
「むきゅう!」
ムー太は約束を覚えていた。
ルカスで交わした約束を。
――むーちゃん、また遊ぼうね。約束なの。
涙ぐむ少女の顔をムー太ははっきりと覚えている。
自分との別れを惜しみ、それでも気丈に涙をこらえる少女の姿を。
体の中心に力が漲って来るのがわかる。
強い意志の元、もう一度、ムー太は勇ましく「むきゅう!」と鳴いた。
約束を果たす時が来た。
ムー太はボンボンをフリフリ。七海にしばしの別れを告げると、躊躇することなくぴょんとゲートへ飛び込んだのだった。
◇◇◇◇◇
ゲートをくぐると強い風が吹きつけた。
突然の強風にムー太はぎゅっと身を縮ませる。
と、砂塵が目に入ってしまい、ボンボンでごしごしと黒目をこする。ちょっぴり涙目のムー太である。
やっとのことで目を開けると、そこはルカスの街中だった。
しかし、サチョの姿が見当たらない。さっきまでここにいたはずなのに。
「むきゅう?」
どこへ行ったのだろう?
ゲートを開いてから少し時間が経過してしまったので、その間にどこかへ移動してしまったのかもしれない。
辺りをきょろきょろと見回す。
見覚えのある景色だ。以前、ルカスを訪れた際、通ったことがあるような気がする。けれどもその時は七海に抱かれていたため、どこをどう歩いてきたのかはっきりと把握していなかった。
ここがどこなのかがわからない。
サチョは冒険者ギルドで働いているはずだと七海が言っていた。サチョを見失った現在、目指すは冒険者ギルドということになるのだろうけれど、その肝心要の冒険者ギルドは一体どこにあるのだろうか?
もう一度、ゲートを開くという手もある。
けれども、フレンズゲートの使用には膨大な魔力が必要であり、おいそれと使っていてはすぐに腹ペコになり動けなくなってしまう。フレンズゲートはあくまで最終手段――緊急避難用にとっておかなければならない。そのように七海にも言われている。
早くも途方に暮れかけたムー太の体に、突如として、強い重力が働いた。まんまるの体がかがみ餅のように変形していく。
「むきゅう? むきゅう?」
ムー太は混乱した。
重力は二倍三倍と際限なく大きくなっていく。
このままではぺしゃんこになってしまう!
そう思った時だった。頭上から、
「やっぱり、むーちゃんだー!」
無邪気な少女の声が降ってきた。
懐かしい声だった。
桃色の髪の毛がムー太の額に垂れかかっている。
しかし、嬉しさよりも苦しさの方が先にきた。
「むきゅううう」
潰れた体をよじりねじり。
必死に暴れていると、ふと体にかかっていた重力が和らいだ。
振り返ると、サチョが困ったように眉を寄せ、小首を傾げていた。
「苦しかったの? ごめんね、むーちゃん」
寄りかかるようにして抱き着く彼女の癖をムー太は思い出した。それはそれで懐かしくはあるのだけれど、しかし、ぺしゃんこになるまで潰されては敵わない。ムー太は遺憾の意を表明しようとしたのだけれど、今にも泣きだしそうなサチョの様子に気づき、行動をキャンセル。どうしたのー? とボンボンをわたわたさせ始める。
「あれ? おかしいの。嬉しいはずなのに涙が止まらないの」
ポロポロと透明な雫がこぼれ落ちる。
初めて会った時のように怪我をしているのかもしれないとムー太は思った。けれど、サチョの足元でわたわたと動き回り、様々な角度から見上げてみても、血を流しているような様子はないし、どこかを庇っているような所作もない。
ムー太は困ってしまい、心配そうに鳴いた。
「大丈夫なの。怪我はしてないの」
サチョは己の無事をアピールするようにその場でぴょんぴょんとジャンプして見せた。そして「ほら」と言って逆立ちまでしてみせる。
よく見れば、前に会った時より血色のいい肌をしているし、枯れ木のようにやせ細っていた手足は潤いを得てみずみずしく躍動している。どうやら飢えることなくしっかりご飯を食べられているようだ。
ムー太はようやく安心して笑顔になった。
逆立ちしたサチョを真似て、自身も前方へ転がってみる。しかし、ボンボンを支えにして逆立ちすることはできず、そのままコテンと転がってしまう。前転する形になってしまったムー太を見て、サチョがおかしそうに笑いだした。ムー太もつられてニコニコ笑う。
「そういえば」
サチョがキョロキョロと周囲を見回した。
「ナナちゃんはー?」
フレンズゲートはムー太専用のゲートである。残念ながら七海は通ることができない。
ムー太は残念そうに体を左右に振ってその不在をアピール。そして身振り手振りで今までの経緯を説明していく。そのジェスチャーがどこまで伝わったのかは不明だが、サチョは残念そうに俯いた。
そこでムー太は思い出して、ぐるぐる巻きのマフラーに挟まれた一通の手紙を取り出した。それは七海から預かったサチョ宛ての手紙である。手紙には今までの経緯が簡単に記されている。
手紙を開くと、サチョは何やら難し気な顔をした。眉間にしわが寄っている。
ムー太が疑問形に体を斜めにすると、手紙に視線を落としていたサチョの首も傾いた。彼女はじっと手紙を凝視したまま、
「サチョね、文字のお勉強を始めたばかりなの」
「むきゅう!」
ムー太は文字を読むことができない。
尊敬の眼差しで見上げていると、
「だからね、難しい文字は読めないの」
少し残念そうにそう言って、手紙を丁寧に折りたたむとポケットに入れた。
そして地面に置いてあった大きな紙袋を持ち上げると、
「あとでお兄に読んでもらうの。むーちゃんいこ」
とことこ歩きだす。
その後ろをムー太はぴょんぴょんついていく。
ぐっと力を溜めて前方へジャンプ。着地点に小石があると力点が変わり、次のジャンプで斜めへすっぽ抜けることもある。
一方でサチョの方も、大きな紙袋のせいでバランスが悪いのか、あるいは視界が塞がれてしまっているためか、ムー太と同じように足取りが乱れることがある。おっとっと、とバランスを取るところなんかはムー太とそっくりだ。
不安定な歩みとはいえ、勝手知ったるルカスゆえかサチョの足取りに迷いはない。小柄な彼女の歩幅が狭いことが幸いして、ムー太はなんとかついていけている形だ。少し息が切れている。
時折、サチョは首だけを回して振り返り、ちゃんとついて来れているのかムー太の所在を確認してくれる。ムー太は抱っこしてほしいのだけれど、サチョにそのような余裕はない。
人通りはまばらである。
ルカスの街には賑やかな区域もあったはずだが、ここは閑散としているようだ。木造の建物が大半を占め、その多くが老朽化している。ムー太の目から見てもボロボロであるように見えた。
木造の居住区を抜けると、丘へと繋がる石畳の道が伸びているのが見えた。
その先に聳える砦のような建物には見覚えがある。
冒険者ギルドだ。
ルカスの初期。開拓時代に避難所として使われていた砦を改装し、冒険者ギルドとして再利用しているのである。その一風変わった外観を好奇心旺盛なムー太ははっきりと記憶している。
先立つサチョが重厚な両開きの扉に手をかけ、金属でできた金具を引っ張ると少しだけ扉が開いた。人ひとりがぎりぎり通れるぐらいの隙間が開いている。サチョに続いてその隙間へ飛び込むと、不意に、ひやりとした冷気が額を打った。
入口正面には広々としたロビーに受付カウンターが並んでいる。
サチョは真っすぐ受付カウンターへ向かうと、視界を塞ぐほどの大きな紙袋をその上へ置いた。
受付に座っていた女性が立ち上がり、にこりと微笑んで、
「ご苦労様。少し荷物が多かったわね。大変だったでしょう」
「ううん。大丈夫なの」
どうやらお使いを頼まれていたらしい。
ムー太は素直に感心して、その場でぴょんぴょんジャンプ。サチョのふくらはぎの辺りをぽふぽふと叩いて称賛の鳴き声をあげる。サチョは少し照れ臭そうに「えへへ」と笑い、唐突にムー太の両脇をむんずと掴み上げると、両腕で抱えるようにして移動を始めた。
捕獲される形となったムー太は少しびっくり。もしも知らない人間に同じことをされていたら、全力で逃げ出そうと暴れていただろう。けれどもサチョは友達である。驚きはしても、警戒する対象ではない。ムー太は抵抗することなく大人しく連行されることを選んだ。
ただ少し欲を言えば、七海のように上手に抱いてほしいところではある。小柄で華奢な体型のせいか、彼女はムー太を完全に抱き切れておらず、ズレ落ちていきそうな感覚――お尻の辺りに空間が空いていてスースーする――があり落ち着かないのだ。
ロビーから見て左手奥。冒険者たちが交流するためのスペースがある。
サチョは円卓テーブルの上へムー太を置くと「ちょっと待っててなの」と言って姿を消した。ムー太は注意深く辺りを見回す。
交流スペースには冒険者の姿がちらほらと見受けられた。
パーティ単位で固まっているのだろうか。三人組と四人組のパーティが別々の円卓テーブルについて談笑している。いずれも屈強な冒険者のように見える。幸い、誰一人としてムー太に注意を払う者はいない。
小さく息をつき、ムー太はひそかに安堵する。
冒険者たちの中にはムー太を捕えようとする不届き者たちがいる。以前、ルカスを訪れた際にも、ムー太を巡ってトラブルになりかけた。この世界において、街中は安全地帯とは呼べないのである。
と、これはムー太の思考。
しかし実は、神の視点から物語を眺めた場合、その警戒は全く必要がない。
そもそも「フレンズゲート」とは生物兵器である白マフたるムー太が、来るべき黒マフとの決戦に備えて習得した魔法である。その魔法は世界を滅ぼしてしまうほどに凶悪な黒マフに対抗し得る性能を備えているはず。にも関わらず、限定的なゲートを開くだけでは余りにもお粗末ではないだろうか。
それはムー太らしいと言えばらしいのだが。
しかし、白マフを創造したのは超高度魔法文明の大魔術師なので、当然、フレンズゲートは、ただ限定的なゲートを開くだけというお粗末な魔法ではない。
つまり結論を言えば、もう一つ隠された効果がある。
もう一度、おさらいしておこう。
フレンズゲートとはムー太が七海にもう一度会うために習得した魔法である。
必然、その願いが強く反映された効果を秘めている。
想像してみてほしい。異世界の魔物であるムー太がゲートをくぐって七海の元へやって来た時、すんなりと日本の地で暮らすことが本当に可能だろうか?
言い換えるなら、ムー太が日本にやって来た時、障害となるものはなんだろうか。それは日本の法律――天然記念物のような扱いを受け、彼女の元を引き離されること。あるいは、人間たちの好奇の目に晒され、捕獲されること。最悪の場合、解剖されてしまうかもしれない。
しかし、ムー太が日本にやって来てからそれらの問題は一切起こっていない。七海がうまく立ち回っているからではない。ムー太が地球へ日本へ学校へやって来た瞬間から、学生たちはムー太がいて当たり前であるかのように振る舞っていた。本来、異世界の事情など知らぬ京子でさえ「マフマフ?」と口走っていた。
それはなぜか?
ムー太がそこにいて当たり前だと、全人類の認識を書き換えているからである。フレンズゲートをくぐったその瞬間にそれは適用される。ゲートの起動に七海もびっくりするほどの魔力を必要とするのはそのためだ。
全人類の上書きされた認識は時が経つごとに少しずつ薄れていくが、ゲートをくぐった直後は強力に作用している。
その特性を利用すれば、国を亡ぼすことのできる凶悪な魔法である。
なぜなら、そこにいるのが当たり前なのだから、警備の者に警戒されることはなくなり、どこでも自由に出入りが可能となる。暗殺者がゲートを使用すれば、国王だろうと要人だろうと簡単に暗殺できてしまうだろう。
が、実際の使用者はムー太なので、世界に異変は起こらず平和なのである。
というわけで、ゲートをくぐってルカスへ到着した瞬間から、こちらの世界でも、ムー太はそこにいて当たり前なのだと人々の認識が書き換わっている。だから魔物が街中を歩いていても誰も騒がないし、捕獲しようとする冒険者もいない。
けれど、ムー太はそれらの複雑な事情を知らないので、この世界の人間を絶賛警戒中なのである。
丸テーブルに突っ伏し、鏡餅のように平たくなった形状。アンテナ代わりにボンボンをピコンと立てて、哨戒モードに入ったムー太が警戒を続けていると、その脇をサチョがたったったと駆けていくのが見えた。その姿を目で追う。彼女は板でできたボードの前で立ち止まり、持ってきた紙束をボードへペタペタ貼り始めた。
手の届く範囲のボードが埋まると、次にサチョは椅子を脚立代わりに高い所にも紙を貼っていく。不安定に見える椅子の上だけれど、危なげなくテキパキと作業をこなしていく。
小脇に抱えていた紙束をすべて貼り終えると、再び小走りに駆けてゆき、次に戻って来た彼女は両手にグラスを持っていた。透明のグラスに入っているのは赤い液体。ルビーのように光り輝くその飲み物にムー太は見覚えがあった。
セロの実から作られたセロジュース。定食屋だったろうか。以前、七海とサチョとの三人で飲んだ記憶がある。
「はい、こっちはむーちゃんの分」
ストロー付きのグラスが目の前に置かれる。ストローが付いているのはムー太が飲みやすいようにとの配慮からだろう。ムー太はありがとうの意味を込めて「むきゅう」と鳴くと、早速ストローに口をつけて一気に吸い上げた。赤色の液体がつーっとのぼってくる。
酸味と甘みが同時にくる。ムー太はよく味わいごくんと飲み込んだ。爽やかな風味が口の中に優しく残りじわりと広がった。懐かしい味だった。
ちょこんと座った椅子の上で、サチョも美味しそうにゴクゴク飲んでいる。
「サチョね、ギルドのお手伝いをしてるの」
テキパキと作業をこなすサチョの姿が脳裏へ浮かぶ。毎日のルーティンワークとなっているのだろう。その手際は見事なものだった。
ムー太は相槌を打つように「むきゅう」と鳴いた。
「少しだけどお賃金も貰えるの」
このジュースはそのお金で買ったのだろうとムー太は理解する。お金を稼ぐ。ムー太にはできないことだ。サチョを見る目が憧憬の眼差しへと変わる。彼女はジュースを飲みながら足をバタバタさせている。
サチョは色々なことを語った。
彼女の兄は冒険者となり、ルカスを拠点とし活動していること。
今は冒険者ギルドの長ギールと一緒に暮らしていること。
アヴァンはムー太と別れた後にルカスへ戻り、そして南方の海へ旅立ったこと。
お腹いっぱい食べられるようになり、少し体重が増えたものの、これ以上太らないか心配であること。
近所の悪ガキと喧嘩になり、見事勝利したこと。
そして日も暮れかけた頃、受付のお姉さんが肉料理を乗せたお皿を運んで来た。
「はい、これ支部長から。今日もご苦労様だったわね」
お皿は二つあって、どうやら一つはムー太の分であるようだ。
ムー太は目を輝かせて「むきゅう」と鳴いた。
「はい、むーちゃん。あーん」
一口大にカットされたステーキをフォークに刺して、ムー太の口元まで運んでくれる。パクッと一口。
「むきゅう!」
おいしい! ムー太はニコニコ笑顔になった。
その日、夕食を終えたムー太たちは、ルカス支部長ことギールの家へ招かれ、サチョと仲良く同じ布団で眠った。
その後、三日ほどルカスへ滞在した後、地球へと帰った。
無事に帰宅したムー太は「無期懲役抱っこの刑」という謎の刑を七海に言い渡され、その日はずっと離して貰えなかった。
ムー太は自由に生きている。
明日は何をしようかと呑気に考える。
生物兵器として創られたムー太だけれど、のんびり屋さんだから戦うことがとっても苦手。故郷を取り戻したいと強く願ったのは、エリンであってムー太ではない。兄弟のような存在である黒マフと戦う理由がムー太にはない。
だからこれでいいのだ。
毎日を楽しく平和に過ごせるならそれが一番いい。
七海といつまでも一緒に。
マフラーをムー太の頭にぐるぐると巻きながら、七海が心配そうに言った。
ムー太はまんまるの体を上方へ向けて胸を張り、力強く「むきゅう」と返す。
「絶対、絶対だからね。地球と違って向こうは危険なんだから」
マフラーをターバンのように巻き終わると、最後に三日月型の髪飾りを頭のてっぺんに挿す。この二つはムー太の所有物であり、宝物でもある。七海の匂いが染み込んだマフラーと、イゼラとの別れ際、餞別として貰った木製の髪飾り。この三日月型の髪飾りは、魔樹から削り取って作られた貴重な品でもある。
このマフラーをつけていると、七海の匂いに包まれて彼女に抱かれているような安心した気分になれる。そしてこの髪飾りをつけていると、イゼラに見守られているような気がして勇気が湧いてくる。
準備完了!
冷たいフローリングの上で、ムー太は背伸びするように七海を見上げた。
「むきゅう!」
温厚な性格で平和主義。臆病であり、優しくもあるムー太だけれど、実は頑固な一面も持ち合わせている。一度こうと決めたら一直線。目的に向かって一心不乱に突き進む性格なのは、核を巡る旅路においても明白だった。
不安に翳る七海の表情。普段は明るい彼女が見せるその暗く沈んだ表情の意味を、ムー太は理解している。彼女がどれほどムー太のことを愛し、心配してくれているのかを誰に説明されるまでもなく、肌で正しく感じ取っている。
しかしその心配を押し切ってでも、絶対にやり遂げなければならないことがムー太にはあった。それは日に日に少しずつ大きくなっていき、今では強い使命感を感じるまでに膨らみ成長してしまった。
だからムー太は決めた。
身振り手振りで必死にアピールし、七海にそのことを伝えた。
ムー太に迫る危険を七海が傍観することはまずありえない。しかし同時に、ムー太の強い意志を無碍に扱うような真似も彼女は決してしない。
なぜなら二人の関係は友達だから。
対等な関係であるがゆえに、ムー太の行動を完全に制限することを彼女はよしとしないのである。
無論、最初は反対された。
しかし、ムー太の強い意志を確認した彼女が最終的に折れる形となった。
「もう一度言うけど、危ないと思ったらすぐに帰ってくるのよ」
上目に七海を見上げたムー太が、こくんと頷きを返す。
そしてポンポンとその場で二度跳ねると、大きく深呼吸を挟み、そして勇ましく鳴いた。
「むきゅう!」
気合一閃。
ボンボンに魔力を集中させる。
高密度に圧縮された魔力が青白い光となってボンボンの周りに展開される。
ムー太は思い切って、えいやっとステッキを振るみたいにボンボンを振った。
――フレンズゲート
友達の元へと通じるゲートを開くことができる。
それは七海に会うため、ムー太が習得した魔法である。しかし今、そのゲートは七海の元へは繋がっていない。ゲートは今、もう一人の友達の元へと繋がっている。
四角く開いたゲートの先に一人の少女が立っている。
桃色の髪の毛にピンクの瞳。白のワンピースを着ている。
以前はボサボサだった髪の毛は、丁寧に櫛を通したのかサラサラとなびいている。しかしそれとは対照に、元々はムー太とお揃いで純白だったはずのワンピースは、月日の汚れが重なり薄汚れてしまっているようだ。
彼女の顔を視認したムー太は、懐かしそうに鳴いた。
そんなムー太の頭にそっと手を乗せ、優しく撫でながら七海が言った。
「私は行くことができないけど、サチョによろしくね」
「むきゅう!」
ムー太は約束を覚えていた。
ルカスで交わした約束を。
――むーちゃん、また遊ぼうね。約束なの。
涙ぐむ少女の顔をムー太ははっきりと覚えている。
自分との別れを惜しみ、それでも気丈に涙をこらえる少女の姿を。
体の中心に力が漲って来るのがわかる。
強い意志の元、もう一度、ムー太は勇ましく「むきゅう!」と鳴いた。
約束を果たす時が来た。
ムー太はボンボンをフリフリ。七海にしばしの別れを告げると、躊躇することなくぴょんとゲートへ飛び込んだのだった。
◇◇◇◇◇
ゲートをくぐると強い風が吹きつけた。
突然の強風にムー太はぎゅっと身を縮ませる。
と、砂塵が目に入ってしまい、ボンボンでごしごしと黒目をこする。ちょっぴり涙目のムー太である。
やっとのことで目を開けると、そこはルカスの街中だった。
しかし、サチョの姿が見当たらない。さっきまでここにいたはずなのに。
「むきゅう?」
どこへ行ったのだろう?
ゲートを開いてから少し時間が経過してしまったので、その間にどこかへ移動してしまったのかもしれない。
辺りをきょろきょろと見回す。
見覚えのある景色だ。以前、ルカスを訪れた際、通ったことがあるような気がする。けれどもその時は七海に抱かれていたため、どこをどう歩いてきたのかはっきりと把握していなかった。
ここがどこなのかがわからない。
サチョは冒険者ギルドで働いているはずだと七海が言っていた。サチョを見失った現在、目指すは冒険者ギルドということになるのだろうけれど、その肝心要の冒険者ギルドは一体どこにあるのだろうか?
もう一度、ゲートを開くという手もある。
けれども、フレンズゲートの使用には膨大な魔力が必要であり、おいそれと使っていてはすぐに腹ペコになり動けなくなってしまう。フレンズゲートはあくまで最終手段――緊急避難用にとっておかなければならない。そのように七海にも言われている。
早くも途方に暮れかけたムー太の体に、突如として、強い重力が働いた。まんまるの体がかがみ餅のように変形していく。
「むきゅう? むきゅう?」
ムー太は混乱した。
重力は二倍三倍と際限なく大きくなっていく。
このままではぺしゃんこになってしまう!
そう思った時だった。頭上から、
「やっぱり、むーちゃんだー!」
無邪気な少女の声が降ってきた。
懐かしい声だった。
桃色の髪の毛がムー太の額に垂れかかっている。
しかし、嬉しさよりも苦しさの方が先にきた。
「むきゅううう」
潰れた体をよじりねじり。
必死に暴れていると、ふと体にかかっていた重力が和らいだ。
振り返ると、サチョが困ったように眉を寄せ、小首を傾げていた。
「苦しかったの? ごめんね、むーちゃん」
寄りかかるようにして抱き着く彼女の癖をムー太は思い出した。それはそれで懐かしくはあるのだけれど、しかし、ぺしゃんこになるまで潰されては敵わない。ムー太は遺憾の意を表明しようとしたのだけれど、今にも泣きだしそうなサチョの様子に気づき、行動をキャンセル。どうしたのー? とボンボンをわたわたさせ始める。
「あれ? おかしいの。嬉しいはずなのに涙が止まらないの」
ポロポロと透明な雫がこぼれ落ちる。
初めて会った時のように怪我をしているのかもしれないとムー太は思った。けれど、サチョの足元でわたわたと動き回り、様々な角度から見上げてみても、血を流しているような様子はないし、どこかを庇っているような所作もない。
ムー太は困ってしまい、心配そうに鳴いた。
「大丈夫なの。怪我はしてないの」
サチョは己の無事をアピールするようにその場でぴょんぴょんとジャンプして見せた。そして「ほら」と言って逆立ちまでしてみせる。
よく見れば、前に会った時より血色のいい肌をしているし、枯れ木のようにやせ細っていた手足は潤いを得てみずみずしく躍動している。どうやら飢えることなくしっかりご飯を食べられているようだ。
ムー太はようやく安心して笑顔になった。
逆立ちしたサチョを真似て、自身も前方へ転がってみる。しかし、ボンボンを支えにして逆立ちすることはできず、そのままコテンと転がってしまう。前転する形になってしまったムー太を見て、サチョがおかしそうに笑いだした。ムー太もつられてニコニコ笑う。
「そういえば」
サチョがキョロキョロと周囲を見回した。
「ナナちゃんはー?」
フレンズゲートはムー太専用のゲートである。残念ながら七海は通ることができない。
ムー太は残念そうに体を左右に振ってその不在をアピール。そして身振り手振りで今までの経緯を説明していく。そのジェスチャーがどこまで伝わったのかは不明だが、サチョは残念そうに俯いた。
そこでムー太は思い出して、ぐるぐる巻きのマフラーに挟まれた一通の手紙を取り出した。それは七海から預かったサチョ宛ての手紙である。手紙には今までの経緯が簡単に記されている。
手紙を開くと、サチョは何やら難し気な顔をした。眉間にしわが寄っている。
ムー太が疑問形に体を斜めにすると、手紙に視線を落としていたサチョの首も傾いた。彼女はじっと手紙を凝視したまま、
「サチョね、文字のお勉強を始めたばかりなの」
「むきゅう!」
ムー太は文字を読むことができない。
尊敬の眼差しで見上げていると、
「だからね、難しい文字は読めないの」
少し残念そうにそう言って、手紙を丁寧に折りたたむとポケットに入れた。
そして地面に置いてあった大きな紙袋を持ち上げると、
「あとでお兄に読んでもらうの。むーちゃんいこ」
とことこ歩きだす。
その後ろをムー太はぴょんぴょんついていく。
ぐっと力を溜めて前方へジャンプ。着地点に小石があると力点が変わり、次のジャンプで斜めへすっぽ抜けることもある。
一方でサチョの方も、大きな紙袋のせいでバランスが悪いのか、あるいは視界が塞がれてしまっているためか、ムー太と同じように足取りが乱れることがある。おっとっと、とバランスを取るところなんかはムー太とそっくりだ。
不安定な歩みとはいえ、勝手知ったるルカスゆえかサチョの足取りに迷いはない。小柄な彼女の歩幅が狭いことが幸いして、ムー太はなんとかついていけている形だ。少し息が切れている。
時折、サチョは首だけを回して振り返り、ちゃんとついて来れているのかムー太の所在を確認してくれる。ムー太は抱っこしてほしいのだけれど、サチョにそのような余裕はない。
人通りはまばらである。
ルカスの街には賑やかな区域もあったはずだが、ここは閑散としているようだ。木造の建物が大半を占め、その多くが老朽化している。ムー太の目から見てもボロボロであるように見えた。
木造の居住区を抜けると、丘へと繋がる石畳の道が伸びているのが見えた。
その先に聳える砦のような建物には見覚えがある。
冒険者ギルドだ。
ルカスの初期。開拓時代に避難所として使われていた砦を改装し、冒険者ギルドとして再利用しているのである。その一風変わった外観を好奇心旺盛なムー太ははっきりと記憶している。
先立つサチョが重厚な両開きの扉に手をかけ、金属でできた金具を引っ張ると少しだけ扉が開いた。人ひとりがぎりぎり通れるぐらいの隙間が開いている。サチョに続いてその隙間へ飛び込むと、不意に、ひやりとした冷気が額を打った。
入口正面には広々としたロビーに受付カウンターが並んでいる。
サチョは真っすぐ受付カウンターへ向かうと、視界を塞ぐほどの大きな紙袋をその上へ置いた。
受付に座っていた女性が立ち上がり、にこりと微笑んで、
「ご苦労様。少し荷物が多かったわね。大変だったでしょう」
「ううん。大丈夫なの」
どうやらお使いを頼まれていたらしい。
ムー太は素直に感心して、その場でぴょんぴょんジャンプ。サチョのふくらはぎの辺りをぽふぽふと叩いて称賛の鳴き声をあげる。サチョは少し照れ臭そうに「えへへ」と笑い、唐突にムー太の両脇をむんずと掴み上げると、両腕で抱えるようにして移動を始めた。
捕獲される形となったムー太は少しびっくり。もしも知らない人間に同じことをされていたら、全力で逃げ出そうと暴れていただろう。けれどもサチョは友達である。驚きはしても、警戒する対象ではない。ムー太は抵抗することなく大人しく連行されることを選んだ。
ただ少し欲を言えば、七海のように上手に抱いてほしいところではある。小柄で華奢な体型のせいか、彼女はムー太を完全に抱き切れておらず、ズレ落ちていきそうな感覚――お尻の辺りに空間が空いていてスースーする――があり落ち着かないのだ。
ロビーから見て左手奥。冒険者たちが交流するためのスペースがある。
サチョは円卓テーブルの上へムー太を置くと「ちょっと待っててなの」と言って姿を消した。ムー太は注意深く辺りを見回す。
交流スペースには冒険者の姿がちらほらと見受けられた。
パーティ単位で固まっているのだろうか。三人組と四人組のパーティが別々の円卓テーブルについて談笑している。いずれも屈強な冒険者のように見える。幸い、誰一人としてムー太に注意を払う者はいない。
小さく息をつき、ムー太はひそかに安堵する。
冒険者たちの中にはムー太を捕えようとする不届き者たちがいる。以前、ルカスを訪れた際にも、ムー太を巡ってトラブルになりかけた。この世界において、街中は安全地帯とは呼べないのである。
と、これはムー太の思考。
しかし実は、神の視点から物語を眺めた場合、その警戒は全く必要がない。
そもそも「フレンズゲート」とは生物兵器である白マフたるムー太が、来るべき黒マフとの決戦に備えて習得した魔法である。その魔法は世界を滅ぼしてしまうほどに凶悪な黒マフに対抗し得る性能を備えているはず。にも関わらず、限定的なゲートを開くだけでは余りにもお粗末ではないだろうか。
それはムー太らしいと言えばらしいのだが。
しかし、白マフを創造したのは超高度魔法文明の大魔術師なので、当然、フレンズゲートは、ただ限定的なゲートを開くだけというお粗末な魔法ではない。
つまり結論を言えば、もう一つ隠された効果がある。
もう一度、おさらいしておこう。
フレンズゲートとはムー太が七海にもう一度会うために習得した魔法である。
必然、その願いが強く反映された効果を秘めている。
想像してみてほしい。異世界の魔物であるムー太がゲートをくぐって七海の元へやって来た時、すんなりと日本の地で暮らすことが本当に可能だろうか?
言い換えるなら、ムー太が日本にやって来た時、障害となるものはなんだろうか。それは日本の法律――天然記念物のような扱いを受け、彼女の元を引き離されること。あるいは、人間たちの好奇の目に晒され、捕獲されること。最悪の場合、解剖されてしまうかもしれない。
しかし、ムー太が日本にやって来てからそれらの問題は一切起こっていない。七海がうまく立ち回っているからではない。ムー太が地球へ日本へ学校へやって来た瞬間から、学生たちはムー太がいて当たり前であるかのように振る舞っていた。本来、異世界の事情など知らぬ京子でさえ「マフマフ?」と口走っていた。
それはなぜか?
ムー太がそこにいて当たり前だと、全人類の認識を書き換えているからである。フレンズゲートをくぐったその瞬間にそれは適用される。ゲートの起動に七海もびっくりするほどの魔力を必要とするのはそのためだ。
全人類の上書きされた認識は時が経つごとに少しずつ薄れていくが、ゲートをくぐった直後は強力に作用している。
その特性を利用すれば、国を亡ぼすことのできる凶悪な魔法である。
なぜなら、そこにいるのが当たり前なのだから、警備の者に警戒されることはなくなり、どこでも自由に出入りが可能となる。暗殺者がゲートを使用すれば、国王だろうと要人だろうと簡単に暗殺できてしまうだろう。
が、実際の使用者はムー太なので、世界に異変は起こらず平和なのである。
というわけで、ゲートをくぐってルカスへ到着した瞬間から、こちらの世界でも、ムー太はそこにいて当たり前なのだと人々の認識が書き換わっている。だから魔物が街中を歩いていても誰も騒がないし、捕獲しようとする冒険者もいない。
けれど、ムー太はそれらの複雑な事情を知らないので、この世界の人間を絶賛警戒中なのである。
丸テーブルに突っ伏し、鏡餅のように平たくなった形状。アンテナ代わりにボンボンをピコンと立てて、哨戒モードに入ったムー太が警戒を続けていると、その脇をサチョがたったったと駆けていくのが見えた。その姿を目で追う。彼女は板でできたボードの前で立ち止まり、持ってきた紙束をボードへペタペタ貼り始めた。
手の届く範囲のボードが埋まると、次にサチョは椅子を脚立代わりに高い所にも紙を貼っていく。不安定に見える椅子の上だけれど、危なげなくテキパキと作業をこなしていく。
小脇に抱えていた紙束をすべて貼り終えると、再び小走りに駆けてゆき、次に戻って来た彼女は両手にグラスを持っていた。透明のグラスに入っているのは赤い液体。ルビーのように光り輝くその飲み物にムー太は見覚えがあった。
セロの実から作られたセロジュース。定食屋だったろうか。以前、七海とサチョとの三人で飲んだ記憶がある。
「はい、こっちはむーちゃんの分」
ストロー付きのグラスが目の前に置かれる。ストローが付いているのはムー太が飲みやすいようにとの配慮からだろう。ムー太はありがとうの意味を込めて「むきゅう」と鳴くと、早速ストローに口をつけて一気に吸い上げた。赤色の液体がつーっとのぼってくる。
酸味と甘みが同時にくる。ムー太はよく味わいごくんと飲み込んだ。爽やかな風味が口の中に優しく残りじわりと広がった。懐かしい味だった。
ちょこんと座った椅子の上で、サチョも美味しそうにゴクゴク飲んでいる。
「サチョね、ギルドのお手伝いをしてるの」
テキパキと作業をこなすサチョの姿が脳裏へ浮かぶ。毎日のルーティンワークとなっているのだろう。その手際は見事なものだった。
ムー太は相槌を打つように「むきゅう」と鳴いた。
「少しだけどお賃金も貰えるの」
このジュースはそのお金で買ったのだろうとムー太は理解する。お金を稼ぐ。ムー太にはできないことだ。サチョを見る目が憧憬の眼差しへと変わる。彼女はジュースを飲みながら足をバタバタさせている。
サチョは色々なことを語った。
彼女の兄は冒険者となり、ルカスを拠点とし活動していること。
今は冒険者ギルドの長ギールと一緒に暮らしていること。
アヴァンはムー太と別れた後にルカスへ戻り、そして南方の海へ旅立ったこと。
お腹いっぱい食べられるようになり、少し体重が増えたものの、これ以上太らないか心配であること。
近所の悪ガキと喧嘩になり、見事勝利したこと。
そして日も暮れかけた頃、受付のお姉さんが肉料理を乗せたお皿を運んで来た。
「はい、これ支部長から。今日もご苦労様だったわね」
お皿は二つあって、どうやら一つはムー太の分であるようだ。
ムー太は目を輝かせて「むきゅう」と鳴いた。
「はい、むーちゃん。あーん」
一口大にカットされたステーキをフォークに刺して、ムー太の口元まで運んでくれる。パクッと一口。
「むきゅう!」
おいしい! ムー太はニコニコ笑顔になった。
その日、夕食を終えたムー太たちは、ルカス支部長ことギールの家へ招かれ、サチョと仲良く同じ布団で眠った。
その後、三日ほどルカスへ滞在した後、地球へと帰った。
無事に帰宅したムー太は「無期懲役抱っこの刑」という謎の刑を七海に言い渡され、その日はずっと離して貰えなかった。
ムー太は自由に生きている。
明日は何をしようかと呑気に考える。
生物兵器として創られたムー太だけれど、のんびり屋さんだから戦うことがとっても苦手。故郷を取り戻したいと強く願ったのは、エリンであってムー太ではない。兄弟のような存在である黒マフと戦う理由がムー太にはない。
だからこれでいいのだ。
毎日を楽しく平和に過ごせるならそれが一番いい。
七海といつまでも一緒に。
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