忠犬な君

つきのあかり

文字の大きさ
上 下
7 / 11

7

しおりを挟む

(ここは何て言うべきだ、俺もよろしく?いや、まずは自己紹介?でも名前はもう知ってるし‥)

「あ、あのっ!‥な、なんて呼べば‥いいかな‥」

ぐるぐると考えて出た言葉はそれだった、もっと先に言うべき言葉はあっただろうがもう遅い、少し後悔した‥

「うーん、そうだな、みんな颯太って呼んでるし颯太でいいよ」

(颯太‥)



スクールカースト頂点にいる彼
底辺にいる俺
交わることなんてないと思ってた、こんな他の人から見れば些細な出来事でも、俺からすれば大事おおごとだ


「颯太くん」


クラスの人気者の彼を呼び捨てで言う勇気はまだない、これが今の精一杯
噛まずに、目を見て、ちゃんと言えた


「颯太くん」

「ははっ!原くん面白いね」

(俺が面白い!?)
人生で初めて言われた‥‥おれはつまらない人間だしお世辞なのだろうが、弾けたように笑う彼の笑顔が眩しくて、どうしよう胸が苦しい、嬉しい



「俺も原くんのことなんて呼べばいい?みんなから何て呼ばれてるんだ?」

「な、な、何でもいいよ!‥‥えと、み、みんな、は、分からない‥」


彼になら何とでも呼ばれたい、好きに呼んでほしいと思いそう言った
けど次の質問にはどうやって答えたらいいか困って、俯いてしまった
どうやって呼ばれてる?「空気です」「そもそも名前すら覚えられてない」って正直に言えるわけでもなく、そんなことを言ったら反応に困るだろうし、分からないと答えてしまった 分からないって何だよって変に思われたかなと顔を上げると


「ふーんそっか‥‥じゃあ一鷹かずたかな」
特に何とも思ってないようで、少し何か考えるそぶりをすると下の名前で呼ばれた

「し、下の名前も、な、なんで知って‥」
「クラスの名簿みたら分かるじゃん」
「す、すごい」
「いやいや、名前ぐらい覚えられるよ?」
「すごい嬉しい」

まさか下の名前まで知ってもらえているなんて
嬉しさと感動で素直にそういうと少しびっくりしたように彼が目を瞠り、「そっか」とだけ言い優しく笑った

「忘れ物も取ったしそろそろ行くわ」
「う、うん、」
「‥‥えーっと、」
「‥?」

「手、離してくれたら嬉しいんだけど」


(‥‥!?!?)


興奮しすぎた俺は握手してから話してる間ずっと彼の手を握ったままだったのだ

「ご、ごめんっ、!!」

「ぶ、あはははっ!!一鷹まじで面白いわ!」



ばっと手を離して謝ると颯太くんはとびきりの笑顔で大いに笑った
しおりを挟む

処理中です...