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兆候
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あれから3日後、予定通り女神はお帰りになった。私を抱いたあの日から大御神は女神と寝所を別にし、女神のご懐妊は絶望的となった。
私はあの日からずっと生きた心地がしていない。大巫女としての大前提である純潔を失った、しかも仕えるべき大御神と交わることによって。罪の意識に押しつぶされそうになりながら、何事もなく、このことが早く過去になるように願い毎日を過ごしていた。
「朔、あまり思いつめないで欲しい。私のせいなんだ。」
大御神は私の思い詰めた様子に胸を痛めていらっしゃるようだった。気丈に振舞わなければと思いつつ、今までできていたはずの作り笑いすらできなくなっていることにも焦っていた。
明らかに言葉数が減った。大御神とともに過ごす時間がひどく辛いものに思えてならない日々。おそらく大御神の一族にも大巫女の一族にも事は知られていない。一生隠し通さなければいけない大きな過ちとさえ思えてしまい、何度も何度も後悔した。
1ヶ月が経つ頃。
精神を病みすぎてか、明らかに日々体調が悪くなって行くのがわかった。朝起きることも、日中大巫女として振舞うことも、何年も繰り返してきた日常に妙な疲労感を覚えるようになった。そしてとうとう、食事を体が受け付けなくなった。
用意された朝食が喉を通らない、無理やり飲み込もうならひどい嘔吐感に襲われ、ここ数日まともに食事ができていなかった。気を病んでいるせいでここまでひどくなってしまったのかもしれない、と最初は思っていたがここまでひどいと体のどこかが悪いのでは、と心配になる。
社務所を訪れ、一人で作業していた巫女に声をかけた。
「今晩、私の住む離れにお医者様を呼んでおいてもらえませんか。」
「えっ?!どこか悪いのですか?」
「ちょっと風邪気味で。」
「わ、わかりました!」
「他に心配をかけたくないので他言無用でお願いしますね。」
「はい!」
20歳ほどの巫女は可愛らしい笑顔で引き受けてくれた。
1日が終わり、大御神の就寝を見届けて離れに戻ると馴染みの女医が居間に座っていた。妙齢の彼女は私に気づくと、こんばんは、と挨拶をした。
「お呼び立して申し訳ありません。」
女医にお茶を出して、私も対面に座る。
「大巫女様からのお呼び出しは初めてですね、どうやら顔色が悪いようですが。」
女医は黒い皮の鞄からバインダー型のファイルを取り出し、ボールペンで何やら書きつけ始めた。
「ここひと月ほど、どうにも疲れやすくて。風邪とはまた違う気がするのですが。」
「食事は?お痩せになりましたね?」
「あまり食べられておりません。」
「睡眠は?」
「就寝時間は?」
「体温は?」
淡々と質問が続き、それに答えて行く。
「月経は?」
「そういえば、今月はきていないような。」
私はそこで最悪で最大の可能性に気付いてしまった。たった一度だったとはいえ妊娠している可能性もあるのだ…。
私は冷や汗が止まらなくなった。
「ホルモンバランスの乱れ、でしょうかね。まだお若いし症状的に大病というよりはそちらの関連だと考えられますね。」
女医はまさか大巫女と大神がそのような関係になったことなど考えるはずもない。
「そう、ですか。」
「一応漢方薬を出しておきましょう。体を冷やさないように、忙しいとは思いますがなるべく休息に時間を確保してください。」
そう言いながら彼女は鞄の中を探り、白い小さな紙袋を取り出して机においた。
「ありがとうございます。」
「また一週間後、この時間にお伺いしても?」
「あっ…。」
薬をもらっても改善しなかったら…。
本当に妊娠していて、それに気づかれてしまったら?
「いえ、忙しいので…。」
「そうですか。また辛くなったらいつでもお呼び付けくださいね。」
「はい…。ありがとうございます。」
「いえいえ、では私はこれで。」
そう言って荷物をまとめ、彼女は帰って行った。
私はあの日からずっと生きた心地がしていない。大巫女としての大前提である純潔を失った、しかも仕えるべき大御神と交わることによって。罪の意識に押しつぶされそうになりながら、何事もなく、このことが早く過去になるように願い毎日を過ごしていた。
「朔、あまり思いつめないで欲しい。私のせいなんだ。」
大御神は私の思い詰めた様子に胸を痛めていらっしゃるようだった。気丈に振舞わなければと思いつつ、今までできていたはずの作り笑いすらできなくなっていることにも焦っていた。
明らかに言葉数が減った。大御神とともに過ごす時間がひどく辛いものに思えてならない日々。おそらく大御神の一族にも大巫女の一族にも事は知られていない。一生隠し通さなければいけない大きな過ちとさえ思えてしまい、何度も何度も後悔した。
1ヶ月が経つ頃。
精神を病みすぎてか、明らかに日々体調が悪くなって行くのがわかった。朝起きることも、日中大巫女として振舞うことも、何年も繰り返してきた日常に妙な疲労感を覚えるようになった。そしてとうとう、食事を体が受け付けなくなった。
用意された朝食が喉を通らない、無理やり飲み込もうならひどい嘔吐感に襲われ、ここ数日まともに食事ができていなかった。気を病んでいるせいでここまでひどくなってしまったのかもしれない、と最初は思っていたがここまでひどいと体のどこかが悪いのでは、と心配になる。
社務所を訪れ、一人で作業していた巫女に声をかけた。
「今晩、私の住む離れにお医者様を呼んでおいてもらえませんか。」
「えっ?!どこか悪いのですか?」
「ちょっと風邪気味で。」
「わ、わかりました!」
「他に心配をかけたくないので他言無用でお願いしますね。」
「はい!」
20歳ほどの巫女は可愛らしい笑顔で引き受けてくれた。
1日が終わり、大御神の就寝を見届けて離れに戻ると馴染みの女医が居間に座っていた。妙齢の彼女は私に気づくと、こんばんは、と挨拶をした。
「お呼び立して申し訳ありません。」
女医にお茶を出して、私も対面に座る。
「大巫女様からのお呼び出しは初めてですね、どうやら顔色が悪いようですが。」
女医は黒い皮の鞄からバインダー型のファイルを取り出し、ボールペンで何やら書きつけ始めた。
「ここひと月ほど、どうにも疲れやすくて。風邪とはまた違う気がするのですが。」
「食事は?お痩せになりましたね?」
「あまり食べられておりません。」
「睡眠は?」
「就寝時間は?」
「体温は?」
淡々と質問が続き、それに答えて行く。
「月経は?」
「そういえば、今月はきていないような。」
私はそこで最悪で最大の可能性に気付いてしまった。たった一度だったとはいえ妊娠している可能性もあるのだ…。
私は冷や汗が止まらなくなった。
「ホルモンバランスの乱れ、でしょうかね。まだお若いし症状的に大病というよりはそちらの関連だと考えられますね。」
女医はまさか大巫女と大神がそのような関係になったことなど考えるはずもない。
「そう、ですか。」
「一応漢方薬を出しておきましょう。体を冷やさないように、忙しいとは思いますがなるべく休息に時間を確保してください。」
そう言いながら彼女は鞄の中を探り、白い小さな紙袋を取り出して机においた。
「ありがとうございます。」
「また一週間後、この時間にお伺いしても?」
「あっ…。」
薬をもらっても改善しなかったら…。
本当に妊娠していて、それに気づかれてしまったら?
「いえ、忙しいので…。」
「そうですか。また辛くなったらいつでもお呼び付けくださいね。」
「はい…。ありがとうございます。」
「いえいえ、では私はこれで。」
そう言って荷物をまとめ、彼女は帰って行った。
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