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姉妹
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いまだに現実として受け止められていない。
大御神と会えたこと、話せたこと、また明日からも会えること。
今日が成功で終えられたことへの興奮も覚めていない。
しかし、実家に帰り現実に戻る。明日の準備もしなければいけないし、何より蛍と話がしたかった。
自室へ戻ると母がすでに出雲へ行くための準備を終えてくれていた。
「母上、ありがとうございます。」
「いえ、…私はこれで。」
「明日からも、ご迷惑をおかけします。」
「…いえ。」
母は私の顔を見ずに部屋を出ようとする。
私は意を決して呼び止めた。
「あの!蛍の部屋はどちらでしょうか。」
「…こちらです。」
母はわずかにためらったようにも見えたが、部屋へ案内してくれた。杖をついているために遅い私の歩調に合わせてくれる。
「こちらです。それでは。」
襖の前で母は頭を下げて行ってしまった。
その背中をしばらく眺めていたが、私は深呼吸をして襖の方へ声をかけた。
「蛍、朔媛です。開けてもらえませんか。」
返事は聞こえない。
襖だから開けようと思えば開けられるが、それはしてはいけないと思い返事を待つ。
「話をしましょう。貴女の思っていることを聞かせてください。私も貴女に伝えたいことがあります。」
物音が聞こえた。しかし襖が開く気配はない。私はどうしたらいいかわからず立ち尽くしていた。とりあえず話がしたい。
「蛍、私が抜けた穴を四ヶ月も埋めてくれてありがとうございました。大巫女として貴女が頑張ってくれていたおかげで今まで滞りなく神社が動いていました。たくさん大変な思いをしたと思います。本当にありがとうございました。
それから、貴女が頑張っている中できついことを言ってしまいごめんなさい。私と貴女とではできることが全く違います。それをわかっているつもりでわかってなかった。私は貴女の代わりをしようとしたけど、よく考えたらできないんです。
学校も行ってませんし、人と話すこともほとんどなかった私がこの家を守るのはとてつもなく難しい話で。でも貴女にはそれができる。明るくて社交的で、きっと友人も多いでしょう。貴女はこの家を守ることができる人なんです。…私と貴女二人でこの家を守り務めが果たせるようになっている。お互いに代われないし、替がないんです。…なのに追い詰めてごめんなさい。」
そこまで言ったところで唐突に襖が開いた。そこには目を赤く腫らした蛍が立っていた。
「謝らなきゃなんです。姉様に。」
蛍はそう言って部屋へ入るように促してきた。
「私は姉様が羨ましかった。母上は姉様に優しくて、おばあさまは姉様に付きっきりで。大巫女なんて大任を与えられて。なんで私じゃないんだろうってずっと思ってたんです。…だから姉様が西に行って私が大巫女になるって時、すごく嬉しかった。やっと私も特別になれるって。あんなに大巫女が大変だなんて思いもしなかった。」
「…。」
「姉様ばっかりずるいって、嫉妬してた私が本当に醜くて。ごめんなさい。姉様の代わりになれなくて。」
蛍は時折鼻をすすりながらそう言った。
「…嫉妬していたのは私もです。蛍が大霊祭の練習をしているのを見るたびに、私は貴女に嫉妬してた。それも、ごめんなさい。」
「え、…大巫女に戻りたくないのかと思っていました。あの日、姉様すごく怒ってたし…。」
「…戻れたらどれほどいいかって、毎日毎日考えていました。怒ったのは…私の器量が狭いからですね。」
私は笑った。あぁ、なんて子どもなのだろう。まだ13歳の妹に対してほんとにみっともなかったな。
蛍も笑っていた。言いたいことが言えて、私の気持ちを知れて、すっきりしたような顔をしていた。
「姉様、明日からの出雲、私が同行してもいいでしょうか。」
「…ぜひお願いします。」
きっと今の蛍なら頑張ってくれるだろう。大巫女に向いていなくても、他のことなら蛍の方がずっとできるはずだから。
大御神と会えたこと、話せたこと、また明日からも会えること。
今日が成功で終えられたことへの興奮も覚めていない。
しかし、実家に帰り現実に戻る。明日の準備もしなければいけないし、何より蛍と話がしたかった。
自室へ戻ると母がすでに出雲へ行くための準備を終えてくれていた。
「母上、ありがとうございます。」
「いえ、…私はこれで。」
「明日からも、ご迷惑をおかけします。」
「…いえ。」
母は私の顔を見ずに部屋を出ようとする。
私は意を決して呼び止めた。
「あの!蛍の部屋はどちらでしょうか。」
「…こちらです。」
母はわずかにためらったようにも見えたが、部屋へ案内してくれた。杖をついているために遅い私の歩調に合わせてくれる。
「こちらです。それでは。」
襖の前で母は頭を下げて行ってしまった。
その背中をしばらく眺めていたが、私は深呼吸をして襖の方へ声をかけた。
「蛍、朔媛です。開けてもらえませんか。」
返事は聞こえない。
襖だから開けようと思えば開けられるが、それはしてはいけないと思い返事を待つ。
「話をしましょう。貴女の思っていることを聞かせてください。私も貴女に伝えたいことがあります。」
物音が聞こえた。しかし襖が開く気配はない。私はどうしたらいいかわからず立ち尽くしていた。とりあえず話がしたい。
「蛍、私が抜けた穴を四ヶ月も埋めてくれてありがとうございました。大巫女として貴女が頑張ってくれていたおかげで今まで滞りなく神社が動いていました。たくさん大変な思いをしたと思います。本当にありがとうございました。
それから、貴女が頑張っている中できついことを言ってしまいごめんなさい。私と貴女とではできることが全く違います。それをわかっているつもりでわかってなかった。私は貴女の代わりをしようとしたけど、よく考えたらできないんです。
学校も行ってませんし、人と話すこともほとんどなかった私がこの家を守るのはとてつもなく難しい話で。でも貴女にはそれができる。明るくて社交的で、きっと友人も多いでしょう。貴女はこの家を守ることができる人なんです。…私と貴女二人でこの家を守り務めが果たせるようになっている。お互いに代われないし、替がないんです。…なのに追い詰めてごめんなさい。」
そこまで言ったところで唐突に襖が開いた。そこには目を赤く腫らした蛍が立っていた。
「謝らなきゃなんです。姉様に。」
蛍はそう言って部屋へ入るように促してきた。
「私は姉様が羨ましかった。母上は姉様に優しくて、おばあさまは姉様に付きっきりで。大巫女なんて大任を与えられて。なんで私じゃないんだろうってずっと思ってたんです。…だから姉様が西に行って私が大巫女になるって時、すごく嬉しかった。やっと私も特別になれるって。あんなに大巫女が大変だなんて思いもしなかった。」
「…。」
「姉様ばっかりずるいって、嫉妬してた私が本当に醜くて。ごめんなさい。姉様の代わりになれなくて。」
蛍は時折鼻をすすりながらそう言った。
「…嫉妬していたのは私もです。蛍が大霊祭の練習をしているのを見るたびに、私は貴女に嫉妬してた。それも、ごめんなさい。」
「え、…大巫女に戻りたくないのかと思っていました。あの日、姉様すごく怒ってたし…。」
「…戻れたらどれほどいいかって、毎日毎日考えていました。怒ったのは…私の器量が狭いからですね。」
私は笑った。あぁ、なんて子どもなのだろう。まだ13歳の妹に対してほんとにみっともなかったな。
蛍も笑っていた。言いたいことが言えて、私の気持ちを知れて、すっきりしたような顔をしていた。
「姉様、明日からの出雲、私が同行してもいいでしょうか。」
「…ぜひお願いします。」
きっと今の蛍なら頑張ってくれるだろう。大巫女に向いていなくても、他のことなら蛍の方がずっとできるはずだから。
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