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紅雷の昇格5
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「ユキ、」
雪音は振り向いた。声の主は黒い傘をさした虎だった。
「帰るなら飲み行こうぜ。」
「いいですけど。」
虎と雪音はビルからほど近いバーに入った。虎が行く酒場は限られていて、ここも良く使う場所だ。従業員は虎の姿を認めると二人を個室へ案内した。虎が何も言わなくてもボトル・グラス・アイスが運ばれてくる。雪音は従業員が退室すると、手早く酒を作り、虎に渡した。
「サンキュ。」
虎はそう言って受け取った。雪音が雪音の分を用意し終えたのを虎は見て、グラスを掲げた。
「コウの子守大変だろ。よくやってんな。」
「子守・・・ではないと思いますけど。」
確かに雪音は飯を作り、洗濯掃除をし、生活力のない紅雷を支えているように見えるかもしれないが、雪音の感覚としては紅雷の家に住まわせてもらっている分、家事をしているという感覚である。しかし、虎が言いたいのは表面的なことではない。
「お前が来てからあいつの暴走が減っただろ。あいつはエネルギーが有り余ってるから、暴走してた分お前に向いてんじゃないか?」
「どうでしょう。年齢的に落ち着いただけじゃないですか。」
「お前がいいならいいんだけどな。・・・お前らの関係性がいまだに謎なんだよ。」
恋人同士ではないもんなぁ、と虎は首をかしげる。
「どういうことです?あなたが想像してる通りだと思いますよ。」
つまりやることやってる同居人である。
「お前はあいつのことどう思ってんだ?」
虎は本題に入る前に雪音の本音を聞きたかった。
「どうって?」
雪音は困惑した表情を見せる。
「ただの同居してるセフレ以上の気持ちがあるのかって。」
「セフレ、というか感謝と恩返しですよ。今の生活与えてくれたのは紅雷ですし、返せる範囲で恩返ししているつもりです。」
「恋心は?」
虎は真顔で尋ねた。それに対して呆れた様子で雪音は答える。
「そんな純粋なもん持ってるわけないでしょう。」
「それもそうだな。まだ持ってて欲しい年齢なんだけどな。」
雪音は空になった虎のグラスに酒を注いだ。
「それで?本題はなんです?」
「勘がいいよなぁ。」
虎は少し笑った。
「幹部の話、お前聞いてなかったんだろう。どこまで知ってんだ。」
「何も知りませんよ。これは予想ですけど、私か紅雷か、で紅雷は引き受けたんでしょう。」
虎はタバコを取り出した。雪音がジッポを差し出そうとして、紅雷はそれを手で制す。
「上はそもそも紅雷に幹部は期待してない。でもお前の幹部昇格も阻止されるから条件変えたんだよ。お前、ここ数ヶ月2000超えてないだろ。」
「・・・。」
雪音が組織に入ってから、雪音の仕事一切を紅雷が管理している。ノルマさえ超えれば売上は気にしていなかったので具体的に金額は覚えていない。しかし体感的に雪音も、4ヶ月ほどは特に仕事を減らされていた気はしていた。
「上位3名って条件から2000以上に変えたんだ。他にも2000以上のやつはいるが、上位3名の条件と同じで長期にわたって恒常的にってのが暗黙の了解。4ヶ月前までの成績と今月の成績でお前は幹部になる資格があるって認められたわけ。」
「それで、私の昇格が確実になったところでちゃぶ台返ししたわけですね。」
「そうなるな。条件変えてからお前が2000超えるタイミング見計らってたんだろ。性格的にあいつには向いてない。上は残念がってるぜ。」
「私が幹部になると何かあるんですか?」
「・・・女がなった前例はないからなんとも言えんが、手グセの悪いジジイが多いのは確かだ。それを抜きにしても相当忙しくなるし極秘任務も増える。あいつとしては知らないところにお前を放り込むのは嫌だったんだろ。」
雪音は何も言わずに一気にグラスを空けた。雪音は気づきたくなかったことに気づきそうになって、知らないでいようとしたことを知りそうになって、喉が渇いた。
雪音は振り向いた。声の主は黒い傘をさした虎だった。
「帰るなら飲み行こうぜ。」
「いいですけど。」
虎と雪音はビルからほど近いバーに入った。虎が行く酒場は限られていて、ここも良く使う場所だ。従業員は虎の姿を認めると二人を個室へ案内した。虎が何も言わなくてもボトル・グラス・アイスが運ばれてくる。雪音は従業員が退室すると、手早く酒を作り、虎に渡した。
「サンキュ。」
虎はそう言って受け取った。雪音が雪音の分を用意し終えたのを虎は見て、グラスを掲げた。
「コウの子守大変だろ。よくやってんな。」
「子守・・・ではないと思いますけど。」
確かに雪音は飯を作り、洗濯掃除をし、生活力のない紅雷を支えているように見えるかもしれないが、雪音の感覚としては紅雷の家に住まわせてもらっている分、家事をしているという感覚である。しかし、虎が言いたいのは表面的なことではない。
「お前が来てからあいつの暴走が減っただろ。あいつはエネルギーが有り余ってるから、暴走してた分お前に向いてんじゃないか?」
「どうでしょう。年齢的に落ち着いただけじゃないですか。」
「お前がいいならいいんだけどな。・・・お前らの関係性がいまだに謎なんだよ。」
恋人同士ではないもんなぁ、と虎は首をかしげる。
「どういうことです?あなたが想像してる通りだと思いますよ。」
つまりやることやってる同居人である。
「お前はあいつのことどう思ってんだ?」
虎は本題に入る前に雪音の本音を聞きたかった。
「どうって?」
雪音は困惑した表情を見せる。
「ただの同居してるセフレ以上の気持ちがあるのかって。」
「セフレ、というか感謝と恩返しですよ。今の生活与えてくれたのは紅雷ですし、返せる範囲で恩返ししているつもりです。」
「恋心は?」
虎は真顔で尋ねた。それに対して呆れた様子で雪音は答える。
「そんな純粋なもん持ってるわけないでしょう。」
「それもそうだな。まだ持ってて欲しい年齢なんだけどな。」
雪音は空になった虎のグラスに酒を注いだ。
「それで?本題はなんです?」
「勘がいいよなぁ。」
虎は少し笑った。
「幹部の話、お前聞いてなかったんだろう。どこまで知ってんだ。」
「何も知りませんよ。これは予想ですけど、私か紅雷か、で紅雷は引き受けたんでしょう。」
虎はタバコを取り出した。雪音がジッポを差し出そうとして、紅雷はそれを手で制す。
「上はそもそも紅雷に幹部は期待してない。でもお前の幹部昇格も阻止されるから条件変えたんだよ。お前、ここ数ヶ月2000超えてないだろ。」
「・・・。」
雪音が組織に入ってから、雪音の仕事一切を紅雷が管理している。ノルマさえ超えれば売上は気にしていなかったので具体的に金額は覚えていない。しかし体感的に雪音も、4ヶ月ほどは特に仕事を減らされていた気はしていた。
「上位3名って条件から2000以上に変えたんだ。他にも2000以上のやつはいるが、上位3名の条件と同じで長期にわたって恒常的にってのが暗黙の了解。4ヶ月前までの成績と今月の成績でお前は幹部になる資格があるって認められたわけ。」
「それで、私の昇格が確実になったところでちゃぶ台返ししたわけですね。」
「そうなるな。条件変えてからお前が2000超えるタイミング見計らってたんだろ。性格的にあいつには向いてない。上は残念がってるぜ。」
「私が幹部になると何かあるんですか?」
「・・・女がなった前例はないからなんとも言えんが、手グセの悪いジジイが多いのは確かだ。それを抜きにしても相当忙しくなるし極秘任務も増える。あいつとしては知らないところにお前を放り込むのは嫌だったんだろ。」
雪音は何も言わずに一気にグラスを空けた。雪音は気づきたくなかったことに気づきそうになって、知らないでいようとしたことを知りそうになって、喉が渇いた。
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