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05.たしか、必要な薬草は

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「たしか、必要な薬草は――」

 すでにドインの噂をしていた冒険者たちのことは、ノムルの意識から消えていた。ふらふらとした足取りで、冒険者ギルドを後にする。
 そんな彼の様子を窺っていた男たちが、嫌な笑みを浮かべて後を追って出た。

「おい、ずいぶんと懐が厚いようだな? 俺たちにも――」

 路上を歩くノムルの後を付けていた数人の男が、両側から彼を挟んで肩に腕を伸ばす。直後、ノムルに触れようとした男の姿が消えた。

「何しやがった!?」

 喚く男たちに、ノムルはゆるりと振り返る。がらんどうの瞳は、何も映してはいない。深淵の闇を覗き込んだ男たちの足は、恐怖に慄き本能のまま後退る。

「悪い。今、機嫌が悪いんだ。巧く制御できないから、近付かないでくれ」

 凪いだ声で静かに告げると、ノムルは再び歩き出す。

「ムッセリー草、デンゴラコン、マンジュ草――。ここから近いのは、ムツゴロー湿原のムッセリー草か……」

 必要な薬草の中には、滅多に市場に出回らない、希少なものが含まれた。
 少量ならば、金にものを言わせて手に入れられるだろう。しかし新薬を作るために試行を繰り返すなら、大量の薬草が必要となる。
 金で揃えられる量ではない。自力で集める必要があった。
 けれどそうやって薬草を集めたとしても、薬を完成させられるとは限らない。

 多くの薬師たちが、数えきれないほどの挑戦を繰り返しても、作り上げることができなかったのだ。
 彼が持つ財力と権力を使えば、優秀な人材を雇い、必要な設備を提供することは可能だ。それでも完成までに、いったいどれほどの歳月がかかるのか、見当もつかない。

「間に合うのか? 助けられるのか? あの人が、いなくなる――?」

 顔面蒼白になったノムルの足が止まる。
 彼を人として扱ってくれた、唯一といってもいい人間。ノムルを匿うことで命を狙われる危険を知っていながら、壊れていく少年を見かねて連れ出し、共に世界を逃げ回った恩人。

「嫌だ。そんなの。――なんで俺じゃないんだ?」

 ぶつぶつと呟きながら、ノムルは夢遊病者のように覚束ない足取りで歩き続ける。



 冒険者ギルドの建物を出てからどうやって移動したのか、ノムルの記憶はあやふやだ。気付けば木々の隙間から、高い石塁が覗いていた。
 森の中を突き抜ける、土がむき出しになった道を進んでいくと、馬車が一台ようよう通れるほどの、鉄柵で作られた小振りの門がある。
 どうやらルドンから三日ほど歩いた位置にある、サゾンの町近くまで来ていたらしい。

 引き返したところで得る物はない。このままサゾンに入り、南下してタバンに向かう。そこからムツゴロー湿原に隣接するヤナの町を目指そうと、ノムルは止まっていた足を動かしかけて、ノムルは奇妙な光景を目撃する。
 緑色のローブを着た身長一メートルほどの小さな子供が、草むらから飛び出してきたのだ。
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