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31.ユキノに嘘をついている様子は

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 ユキノに嘘をついている様子はない。彼女は本当に、このツワキフの葉を使えば怪我が治ると信じていて、実際に治していたのだろう。
 ならば考えられる答えは一つ。

「これは普通のツワキフじゃないってこと?」

 どう見てもツワキフだが、違う植物なのかもしれないと、ノムルは困惑する自分の思考に譲歩を促す。
 ノムルが自分の持つ知識と目の前の現実に折り合いを付けている間、ユキノはなぜか固まっていた。しばらくして、そっと顔を背ける。

「ええーっと、そうですね。私の一族だけが作れると言いますか、ええーっと」

 どうやら森人たちにしか作れない、秘伝の薬草だったらしいと、ノムルは解釈した。後さき考えずに使った挙句、ノムルに暴かれてしまったので、困っているのだろうと。

「さすがは森の民、か。うちも薬草の改良はしてるけど、さすがにここまでは無理だな。というか、生薬? あれ? ユキノちゃんって魔法はまだ使えないんだよね? まあ、収納魔法を付与した袋があれば、問題ないか」

 収納魔法の内部は、時間の経過がない。一度入れた物は、取り出すまで収納した時点の状態を保てる。生物は命を落としてしまうけれど。
 便利な魔法なので需要は多いが、使える魔法使いは少ない。だから袋などに付与して、本来の大きさよりも多く収納できる魔法道具が作られていた。
 ノムルのようなほぼ無限に収納できるなんてことはなく、せいぜい数倍の容量をしまえる程度ではあるけれど、結構な値段で売買される。

「だとしても、手持ちは限られるんじゃない? 使って大丈夫?」
「えーっと、まだありますから、大丈夫です」
「そう? ならいっかー」

 曖昧に答えるユキノが何かを隠そうとしているとは察しても、ノムルは追及しない。ツワキフの葉を、柄にある三つの魔石の一つに押しあてた。

「こうして魔力を込めながら鍵となる言葉を登録するんだけど、どんな呪文がいい?」

 急に振られたユキノが、わたわたと慌てて呪紋を考える。

「えっと、では、『痛いの痛いの飛んで行けー』でお願いします」
「……分かった。『痛いの痛いの飛んで行けー』」

 ノムルがツワキフと共に指定された言葉を登録すると、先端にある魔石が微かに光り、ツワキフの葉が吸い込まれていく。

「杖を持って、さっきの言葉を言えば発動するから」

 出来上がった杖を差し出すと、受け取ったユキノは杖を両手で掲げ、ふるふると震えだした。

「これが、私の魔法の杖……」

 感無量を全身で表現するユキノを、ノムルは不思議そうに観察する。なぜ杖ごときでそこまで感動できるのか、さっぱり理解できない。

「ふふ。魔法少女ユキノ、登場! です」

 ユキノは構えてポーズを取ったり、踊ったりし始めた。
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