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30.改めてその杖を

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 改めてその杖を目にしたノムルは、なぜ自分はこんな杖を持っているのかと、ちょっと自分自身と語り合いたい気分になった。三十過ぎのおじさんが持っていていいデザインではないだろう。
 だがしかし、使う予定なのはノムルではなくユキノだ。気持ちをえいやっと切り替える。

「外見はこんなので……良さそうだね?」
「はい!」

 げんなりと思い気分を押しのけて顔を上げたノムルの目に、前のめりになって熱い視線を杖に送っているユキノの姿が映った。
 ノムルには、この杖の良さが皆目分からない。いったい何が彼女をそんなに熱中させるのか。簿的感覚の違いに、口の端が引き攣った。
 とはいえユキノが気に入ってくれたのだ。余計な感情は棚に上げておく。

「ちょっと待ってね。ユキノちゃんに合わせて改造するから」
「はい!」

 ユキノが寝台を下りて、ノムルの側までやってきた。期待の視線を受けながら、ノムルは手に持つ杖を見つめながら集中する。
 すでに組み込まれている魔術式を解析し、改竄していく。
 魔法使いの中でも最上級の教育を受けているノムルにとって、魔術式の書き換え自体は難しいことではない。しかし膨大過ぎる魔力が邪魔をする。少しでも気を緩めれば彼の魔力に耐えきれず、魔石は割れてしまうだろう。
 数分ほどして、なんとか杖の改造を終えたノムルは、軽く息を吐いて顔を上げた。

「これで完成。ちゃんとできてるか確かめるから、怪我を治していた薬を出してくれる?」
「はい」

 ユキノは袖から腕を仕舞ってローブの下でごそごそと動くと、再び袖に腕を通す。
 袖の端から覗くのは、緑色の葉っぱ。指さえ見せない徹底ぶりは、未だノムルを信用してはいないのだと、彼に突きつける。
 微かに心を軋ませながらも、そう簡単に信頼を築けるなど夢物語だと諦めているノムルは、彼女の指に触れないよう、差し出された葉を受け取った。

 ユキノが差し出したのは、丸く小さな葉っぱだった。
 中央から放射状に葉脈が走り、裏返せば無数に生える短い起毛が光を受けて、白く輝く。食用にもなるため、庭先などで栽培されることも多いツワキフの葉だ。

「ツワキフ? 薬は?」
「それです」

 疑問に返された言葉を聞いて、ノムルはもう一度ツワキフの葉を見る。何かを内包しているわけでもなければ、表面に薬を塗っているわけでもない。
 いったいどういうことかと、ノムルは怪訝な面持ちでユキノに視線を向けた。

「これはツワキフの葉だよね? 血止めに使うことはあるけれど、あれほどの効果はないだろう?」
「でも、それを揉んでから怪我をしたところに貼ると、怪我が治るのです」

 そんなはずはない。そう声を大にして言いたかったノムルだが、なんとか咽元で押しとどめた。
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