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29.しょんぼりと落ち込むユキノに

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 しょんぼりと落ち込むユキノに、ノムルは別の提案を持ちかけることにする。

「確認なんだけど、使いたいのは魔法? それとも魔法っぽい事象でもいいの?」

 ユキノがきょとんとノムルを見つめる。ノムルはすぐに意を汲んで、言葉を足した。

「魔法道具を使えば、魔法に似たものは使えるんだよ。例えば」

 言葉を切ったノムルは、立ち上がって壁に設置されているランプに近付くと、手を伸ばして触れる。とたんにぽわりと灯りが点る。

「こういうふうに、触れることで起動する魔法道具もある」
「それは魔法のランプだったのですね?」

 ユキノを覆っていた暗い雰囲気が霧散して、ランプに熱のある視線が向かった。
 しめたと、ノムルは内心で笑む。
 魔法を使えない人間の中には、魔法使いに憧れる者も多い。その中には魔法自体ではなく、他の人間にはできない現象を、自分が引き起こしたいという考えが混じっていると、彼は知っていた。
 どうやらユキノもその類だったらしい。それならば、彼女の望みを叶えるのは簡単だ。

「そうだねー。こんな感じで、ユキノちゃんが持っている薬の効果を反映させる魔法道具を使うというのは、どうかな?」
「どのような道具なのでしょうか?」

 ユキノの声には、期待と不安が混じっている。興味はあるが、あまり魔法らしくないどころか、見た目が酷い道具なら、使いたくないといったところだろう。
 どうすれば彼女に満足してもらえるのか。ユキノに問い掛けられたノムルは、眉をひそめてぼさぼさの頭を掻く。

「魔法を使いたいってことは、やっぱり杖とかに憧れるの?」

 別に杖がなくても魔法を使うことはできるのだが、非魔法使いは、なぜか杖に関心を向けることが多い。

「そうですね。ノムルさんが持っている杖も格好いいですけど、こう、細くて短くて、先に飾りが付いている杖がいいですね。それで呪紋を唱えるのです!」

 希望を連ねるうちに、ユキノの声が弾んでいく。

「あー……、そういうやつか……」

 ノムルは呪文を使わないことが多い。しかしなぜか、呪紋を口にせず魔法を使うと、拍子抜けした顔をする非魔法使いに何度か遭遇したことがあった。
 さて、どうすればユキノを満足させられるだろうかと考えるノムルの脳裏に、ユキノが言った条件に合う杖の存在がよぎった。
 知人の娘が、ノムルのためにデザインしたのだとプレゼントしてくれたのだが、そのまま収納魔法の奥深くに仕舞って忘れていた存在だ。

 ノムルは収納魔法から、その杖を取り出す。傍から見れば、何もない空間を人差し指と中指で摘んだら、一本の杖が突然現れたように見えただろう。
 三十センチにも満たない短い杖の先端部分には、ハートの形をした透明な魔石が輝いていた。柄には色の違う魔石が三つ埋め込まれている。
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